Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.509 )
日時: 2013/12/19 23:41
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw (ID: kodaC5OE)

 お、おお?
 久々に来てみたら、なんと最後!?
 では私も久しぶりに小説を書き残していきますねー。


 【空っぽだった、】 Part1


 「ちょ、ちょっとちょっと光輝君? この日記は何?」
 「何、って……提出物ですが……」
 「白紙じゃないの! はい再提出!!」

 ばしっと、女性教師に薄っぺらい冊子を返された。
 僕はキッ、と一瞬だけ先生をにらんだ。

 「良い? 課題は‘‘夏休みの思い出‘‘よ? ちゃんと思い出して書くの!」
 「思い出して、って……」
 「色々あるでしょう? 誰かとどっかに遊びに行った、とか……」
 「……」
 「……とにかく、出さないと成績にバツつけるからね!」

 なんて理不尽なんだろう……この人。
 本当に、書くこともないのに。

 「はあ……」
 
 とぼとぼと、夕暮れの中を歩く僕。
 1日のできごとを3ページくらいにまとめるという、簡単な課題なんだろうけど。
 僕にとって、それは重すぎだと思った。
 夏休みの思い出、だなんて、何て卑屈な課題なんだろう。
 
 「あ……あいつ……!」
 
 ぼそっと、何か声が聞こえてきた。
 何気なく振り返ると、どこかで見たことあるような顔がそこにはあった。

 「ほら! やっぱり弱虫光輝君じゃん!」
 「本当だ! やーいやーいそんなとこで何してんだよゆーとーせー!」
 「どうせあいつのことだから、日記の課題に手こずってんだろ!」
 「友達、いねーもんなー!」
 「「やーいやーい!」」

 遠くの方で僕にそんな言葉を投げつけてくる彼らは、確かクラスメイトだったはず。
 ここは無視をするのが妥当なんだろうけど、僕は敢えて口を開いた。
 
 「前にも言ったけど、頭の悪そーなやつ嫌いなんだ」

 はっきりと、思ったことを言い放ってやった。
 そうして日記を持って、すたすたとただ帰り道を急いだ。

 「な、何だよあいつ……!」
 「前って……始業式の……」
 「……あーあ! ゆーとーせーってつまんねーよな!!」
 「お勉強のことしか、考えられねーんだもんな!」

 勝手に言っていればいい。
 僕には全然関係ない。



 「……ただいま」

 がらりと、家の戸を開けた。
 台所に立っているのは、お婆ちゃんだった。
 ……この光景も、段々と馴染みつつある。

 「……あら光輝君。早かったねぇ?」
 「うん……今日から授業が短縮なんだ」
 「ふうん……あ、ほれ、夕食の手伝いをしておくれ」
 「うん」

 ばさっと白紙の日記をテーブルの上に置いた。
 未だに何を書けば良いのか、分からないけど。
 慣れない手つきで僕は夕食の手伝いをした。

 「いただきます」
 「うんうん……たーんと、お食べ光輝君」
 「うん、お婆ちゃん」
 「……んん?」

 お婆ちゃんはくっと体を屈めて、いつの間にか滑り落ちていた僕の日記を手に取った。
 ぱらりと、捲る。

 「あらま……光輝君、何にも書いてないのかい?」
 「うん」
 「……もしかして、あの時のこと……」

 僕は、咥えていた箸を、机の上にそっと置いた。
 お婆ちゃんの顔を何となく見れなくて、ずっと俯いていた。

 「何を……書けるの……?」
 「……光輝君……」
 「夏休みの思い出なんて、僕にはないよ」

 僕は立ち上がった。
 そうだ。そうだよ。

 僕に、思い出なんてあるわけないんだ。




 「ちょっと光輝君!! また白紙!? いいかげん怒るよ先生!」
 「……何でですか」
 「もうーっ! 何でもいいのよ? 本当に。白紙はダメよ、白紙は」
 「無理ですよ、先生」
 「どうして? 何か悩んでるの?」
 
 帰りのチャイムが鳴り響く。
 紅くなった教室の中には、僕と先生の2人きりだった。

 
 「僕に、夏休み最後の日以前の記憶がないからです」


 またしても、はっきりこう言った。







 僕は夏休み最後の日に、両親との旅行から帰ってきたらしい。 
 然しその帰りの道路で交通事故に遭って、両親は即死。
 僕は頭を強打して記憶喪失。
 起きた時自分が誰かも分からない、死んだような恐怖に見舞われた。
 今は唯一の肉親であるお婆ちゃんが、僕の世話をしてくれている。
 大分慣れてはきたけど、僕の記憶の関係上彼女とは他人も同然。
 つまり、僕には思い出も他人への信用もない。
 もちろん、記憶を失う前も友達がいたかどうか知らない。
 もしかしたら、いなかったかもしれない。

 「え……だ、だって先生は、ただ病院に運ばれた、って……」
 「そうですよね。だって言ってないですから」
 「どうして!?」 
 「……あんまり、意味ないかなって」
 「んもう! それを知ってたら先生だって……!」
 「ということなので、その日記は白紙で良いですよね」
 「え……ま、まあそういう理由なら……」
 「では、失礼します」

 良かった。
 これで意地でも書けと言われていたら、どうしようもなかった。
 これで、良かったんだ。

 「良かった、んだよ……ね……」

 だって僕は自分が本当は誰かなのかを知らない。
 夏休みの間、何をしていたのかを知らない。
 それなのに。この物足りない感じは何なのだろう。
 この、空っぽで、何か寂しいこれは何なのだろう。


 田んぼの横の、広い道を歩く。
 昨日と違って、片手に薄っぺらい日記帳はなくて。
 昨日と違って、何だか気持ちが重たくって。
 足を、止めた。
 
 
 「……」


 ぶわあっ、と風が勢い良く僕に流れて込んでくる。
 そうして夏の暑さを引きずった暖かい温度が、体に染み付く。
 そんな時だった。

 「あ、おいおい弱虫光輝君じゃねーか!」
 「何だ何だ? 今日はあの真っ白な日記は持ってねーの?」
 「はあ? 親も友達もいねーんだろ? 思い出なんてあんのかよ!」
 
 盛大な笑い声が、直接刃となって身体に突き刺さるようだった。
 その言葉の一つ一つが、とても痛かったんだ。

 「……るさい」
 「……はあ? 小さい声で聞こえね……」 
 「うるさい!!!」
 「「「!?」」」
 
 僕の中からそんな声を聞くのは初めてだった。
 といっても、まだ1週間も経っていない、曖昧な意識に在る自分だけども。
 いつの間にか僕は、一番体の大きな男の胸ぐらを掴み上げていた。

 「お前らに何が分かるんだよ!! 何も知らないくせに!!!」
 「……!! 上等じゃねーかこの弱虫野郎!! てめーみたいなクズのことなんて知りたくもねえ!!」
 「やっちまえやっちまえ!!」
 「この……クズ野郎が!!」

 がっと繰り出した拳が、僕の頬に見事めり込んだ。
 尻もちをつく僕。今度は僕の方が胸ぐらを捕まれる。 
 
 「てめえみたいな弱虫なんてクラスに必要ねえんだよ!!」
 
 もう一度、今度こそ強い勢いで殴られる。
 首がくたっとしてしまった。青い空だけが狭い視界の先に見えた。
 僕はぐっと目を瞑って、思い切り頭を起こす。
 あいつの頭と、ぶつかる。
 
 「いでッ!? て、てめえ……!!」
 「う……うらあ!!」

 僕は、小さな手をただぐっと握りしめて、あいつを殴り飛ばす。
 何も、何も知らないくせに!

 「何すんだよこの野郎!!」
 「それはこっちのセリフだよ!! どうして皆、僕が悪いみたいに言うんだよ!!!」
 「はあ!? お前がネクラなのがいけねーんだろうがよ!! この引きこもり野郎!!」
 「うぐっ!? そ、そんなの……知らない、よ……」
 「!?」
 「僕だって……僕だって!!」


 僕だって——————好きで、こんなんになったんじゃない!!

 
 「僕だって……こんな、こんな空っぽな気持ちは……嫌なんだよォ……!」

 
 僕は、いつの間にか涙を零していた。
 今の僕が知る限り、‘‘初めて‘‘。

Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.510 )
日時: 2013/12/19 23:29
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw (ID: kodaC5OE)

 Part2

 
 その後どうやって家まで戻ったのか、もう覚えてはいなかった。
 ただ真っ赤に膨れた頬を見たお婆ちゃんの姿が今でも目に焼き付いている。
 大丈夫かいって、誰かにいじめられたのかいって。
 僕はそのどちらも否定した。
 それは、僕のせいでもあったから。

 
 「……はい、それでは皆、また明日!」
 「「「「「さようならぁーっ!」」」」」

 椅子を机の中にしまう忙しい音の中。
 僕は掃除当番でもない為そそくさと教室から出ていった。
 そっと頬に貼ってあるシップに触れる。
 やっぱり痛いな、と改めて思った。
 
 田んぼを通り過ぎていく。
 俯いたまま、地面に転がった小さい石なんかを眺めながら歩いていた。
 
 「……でさあ……」
 「だよなーっ! ……んで……」
 「あ、それが……」

 声が聞こえてぱっと顔を起こす。
 何だ……あのクラスメイト達か。
 彼らは堂々と道路の真ん中でケタケタ笑いながら歩いている。
 そういえば奴らも同じ通学路だった。
 自然にも頬の痛みが蒸し返される。

 歩くテンポを遅めようと、そう思った時。

 
 「————え」


 彼らの真横から、突然車が飛び出してきた。

 「危ない————!!!!」

 必死になって僕は叫んだ。
 昨日よりもっと、もっと強い声で精一杯叫んだ。
 関係ないのに。大嫌いなはずなのに。
 覚えていないのに、体だけは覚えてる。
 事故が起こる、あの瞬間の恐怖だけが頭を過った。

 「うわああああ!!!」

 激しく甲高い音で車が唸る。
 急ブレーキでぐんと曲がった車の目の前に、彼らがいた。
 いや、その前に、何故か僕がそこにいた。

 「はあ……はあ……っ」
 「お、おおおいお前!! な、何なんだよ、何が起こって……!」
 「おいやべえぞこいつ! 血! 血が、血が出て……!」
 「救急車だあ!! 救急車呼ぶぞ!!」
 
 痛さと眩暈と夏の日差しが僕をぐるぐるにして、そのまま意識を失った。
 
 でも僕はその時、運良くも全てを思い出したんだと思う。



 
 「ん……っ」

 
 微かに瞼を揺らして、そっと視界を開いた。
 ぼやけてはいるけれども、どうやら真っ白い部屋の中のようで。
 頭もなんだかぼーっとしている。
 包帯でぐるぐる巻きにされている腕や足を、見てみた。
 ああ、僕轢かれたんだっけ。
 なんだかそんな気はしなかった。
 
 直後、バタンという勢いのある音が僕の耳に突き刺さった。 
 僕も驚いて、その音が鳴った方へ向いた。
 そこには。

 「あ……!」
 「おい、大丈夫か!?」
 「うわ! す、すっげえ包帯……」
  
 僕を苛めていた、3人がいた。

 「え、えと……」
 「その、俺たち……」
 「ご、ごめん!」
 「!」

 な、何だ、一体……?
 もしかして、自分たちのせいで僕が怪我したから、謝りに来たのか?
 罪滅ぼしの、つもりなのかな。

 「……別に」
 「! お、お前!」
 「ちょ、ちょっと抑えろよ!」
 「喧嘩はやめよーぜ!?」
 「お前……! お、俺たちが、どんだけ……!」

 ぐっと、握りしめていた拳、今度は静かに僕の前に差し出した。
 僕が何気なく顔を上げると、そいつはぱっと顔を逸らした。
 そして、ん、ともう一度僕の顔の前で腕を上げる。

 「……やる」
 「……?」
 「やるってば!」

 ダン! と何かを押し付けて、一番大きな男子は病室から消えていった。
 残された2人は、僕に向かって苦しく笑う。

 「わ、悪いな……ホントに。それ、受け取ってやって?」
 「本当の本当に俺たち、心配してたんだぜ? その、今まで悪かったな……」
 「今度また一緒にサッカーとかやろうぜ! じゃあな!」

 2人はそれだけ言うと、あっという間に病室からいなくなった。
 ぽかんとした僕は、布団の上に乗っかっていたある物を見た。
 それは。

 「え……」

 小さな、飴玉だった。

 「何で、こんなもの……」

 包み紙がやたらと安っぽくて、思わずそれを優しく開いた。
 大きな飴玉が、ころんと姿を現す。
 ん?

 「包み紙に、何か……」

 かさっと、開いてみる。

 『悪かった。ごめん。————でも』


 「え……」


 『ごめん。俺はお前がキオクソーシツってやつだって、知ってたんだ』


 
 思い出した。

 僕は、彼らの友達だったんだ。

 でも、ちがう。
 
 僕は、記憶喪失になって次の日。

 始業式の日に言ったんだ。

 『頭の悪い奴嫌いだ』って。

 嫌いだって、言ったんだ。

 友達だったのに、言ったんだ。

 
 「はは……バカなのは……僕の方じゃないか……」


 今更、思い出したんだ。

Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.511 )
日時: 2013/12/19 23:32
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw (ID: kodaC5OE)

 Part3


 「……んん? 何かしら……え……————日記……?」


 『9月1日 天気 晴れ

  ちょっと前の僕には、記憶がなかった。
  仕方がないので、今の気持ちとかを書き留めたいと思う。
  ずるいって? だって先生が言ったんだ。何でも良い、って。

 
  夏休み最終日。僕の両親は死んだ。
  その時、僕の記憶も一緒にどっかへいってしまったらしい。
  僕は記憶を失ったまま、学校に通うことに決めた。


  記憶のない僕は、始業式のときに困った。
  誰が友達だったとか、そんなこと当然覚えてなくて。


  だから言ってしまったんだ。
  僕にちょっかいを出す人たち全員に、『大嫌い』だって。
  今になって、後悔してる。


  僕に記憶はなかった。
  だから、誰がどう傷つこうが構わなかった。
  それが例え、ほんの少し前まで、友達だった人たちでも。


  仕方なかった。
  僕には、記憶がなかったんだ。
  こんなに泣いてしまうほど、後悔するなんて、思ってもみなかったんだ。

  
  記憶を思い出した今。
  口に出すのは、ちょっと難しい。
  だからここには書く。
  

  ごめん。ありがとう。


  お母さんも、お父さんも死んでしまって。
  悔しくて悲しくて、今はいっぱいいっぱいだけど。
  この日記を書き終える頃には笑っていたい。

  
  先生ごめんなさい。
  そして皆も。

  僕は皆が言っていた通り、弱虫だ。
  今だって、言えないことをツラツラとこんなところに書いてる。


  だから、ここにだったら何でも書くよ。
  だって、この日記の先は何が描かれるか分からない。
  真っ白な景色ばかり広がっているから。
  僕の思ったこと、全部書けるような、そんな気がするから。

  
  さて、そろそろ、3ページが終わりそうだ。
  書きたいことも、言いたいこともたくさんあるけど。
  今はやめとこう。
  今度、いつか、口で笑って言える日が来たら。
  その日に全て、ぶっちゃけよう。


  僕はきっと、今日という日を忘れない。
  何度、何も無いような、何も覚えていないような。
  また真っ白い世界に放り投げられても。


  忘れない。』



 「……もう……こういうことは、いつも先生に言って、って、何度も……」

 
 
 どうやら、提出期限には間に合ったようだ。 
 先生が一人で、嬉し泣きしていた。
 思わず、僕も泣いてしまいそうだった。


 
 帰り道。
 僕の足に、トンと何かが当たった。
 
 振り返ると、あの3人が————友達が。
 思い切り、手を振っていた。

 僕は足元転がったサッカーボールを拾って、駆け出した。


 もう、空っぽじゃない。

                                  END
 
 *久々にやったら事故りました。
  SSって難しい! うん!(泣)

  まあ、うん……あれですよ。
  人は一人じゃないよって、心を満たしてくれる何かが必ずあるよって。
  たったそれだけのことです。

  長い上に意味不明でした。
  まあ、最後の最後まで楽しんだ、ということで(笑)
  ではでは〜。