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Re: 【募集一旦〆】貴方の小説に感想を書こうか ( No.15 )
日時: 2019/06/30 03:49
名前: 書喰神 (ID: rKVc2nvw)

お待たせしました。
仕事が忙しくなってしまったので、ちょっと短くなってしまいました。

『世界は君に期待しすぎてる』 感想


・「伊織って奴を犯したい」

凄くインパクトのあるスタートで興味を引かれる良い切り出しでした。しかも続けて読んで見たら『伊織』って男だし、もしかしてBLもの? 拒否ろうか、とも思いましたが、そこは複雑な感情が見えたので読み続けました。
ですが、結局「犯したい」という気持ちになった理由がよく分かりませんでした。

『爽天シャイン』にて、幸太が伊織に抱いている感情は「伊織のことを兄だと思おうとしていた無意識さ」から来るものだと本人が言っています。親が再婚したんだから連れ子でも兄だと無意識に思おうとした。だけど、その考えを拒絶してしまう自分も居て、その矛盾さが苛立ちに変わっていた……とかそんな感じでしょうか。
しかし、そこで「犯したい」という言葉になる理屈が分からないです。
結局どういう意味合いで言っていたのかはボカシて終わっていますし、それが明らかになる前に「俺のこと兄ちゃんって思わなくていいから」発言でスッキリと自己完結してしまったような感じになってしますし。

自宅での場面、一緒に住む『伊織』に対しての『すぐ身近に居る他人』感は非常に良く書かれていますが、それが余所余所し過ぎて、逆に『犯したい』という心情に共感が得られませんでした。
そもそも最初に「伊織を犯したい」と言っているのに伊織との絡みは自宅での他人行儀な絡みばかりで、「犯したい」とまで強烈な感情を持つに至る経緯が書かれてません。

親が再婚した。連れ子がいた。年上で万能だった。義母が受け入れられないから義兄の方も受け入れ難い。「無意識に兄と思おうとしていた」⇒「犯したい」?

伊織が幸太に対して何か許し難い事をした、ならば話は分かりますが、現状では「犯したい」発言と、実際の伊織との生活との温度差に違和感を感じました。


・最初の真弘との会話
どうでも良い事を、取り留めも無く、脊髄反射的に流れるように会話する。
それが友達との会話だ、と言われれば反論は出来ませんが、冒頭のこの会話が今後の展開に違和感を持たせる最初の原因と思います。
一般的に「犯す」というのは性的な意味で使われますし、思春期な高校生なら尚更でしょう。少なくとも聞いた相手は間違いなく性的な意味で言っていると思います。
いきなり友人が「男を犯したい」なんて言ったら普通「うぇー」と引くか、「なんでだよ?」と疑問をぶつける。会話を広げると思います。
それなのに会話を広げない。全ての話題が中途半端で軽く流されてしまっています。
その会話場面は『うわべだけの友人』らしさがとても出ていると感じました。
それはこの作品の友人たちとの絡みの場面ほぼ全てに言える事で、逆に言えば幸太たちの間に『厚い友情』という言葉が似合わない状態でした。

大畠に最初、復讐を持ち掛けられた時、幸太は消極的な反対をしました。
止めて欲しいけど強くは言えない。それはそのまま真弘への友情度を表しているようにも見えます。つまり「そんなことやめろ!」と強く反対するほどの友達ではない、と言っているように見えるという事です。

しかし、「俺のこと兄ちゃんって思わなくていいから」発言で吹っ切れた後、幸太は大畠を殴るほどの熱量を見せました。
いきなり何故? と思いました。
幸太は状況に流されていただけの傍観者だったはず。「背中を預けられる戦友」ような信頼関係のある『親友』ではなく、特に意味の無いやり取りしかしていない「よく遊ぶだけの他人」のような『友達』に対してそこまでの熱量を出した理由が分からない。
「大畠から真弘を助けたい」
「真弘が友達で良かった」
「俺も、幸太で良かったわ」
何時、何処で、何故、そう思ったのか。
幸太が真弘を友達としたいと思うのは何故か?

真弘と幸太が友情を深める場面が無いから、いきなり深まったように見えてしまい、違和感が強く感じます。特に真弘は何処か一歩引いているような立ち位置でしたし。


・伊織の発言から大畠問題へのシフト
「俺のこと兄ちゃんって思わなくていいから」という言葉から、どうすれば「大畠の復讐」に対する幸太の啓蒙に繋がるのか。抽象的な説明すぎて理解出来ないです。
伊織への苛立ちと、大畠と朝日奈への怒りが繋がった部分をもう少し詳細に書いて欲しいと思いました。


・中々行動に移さない大畠
復讐、復讐と言っているわりには幸太を仲間に引き込もうとしてるだけで、実際には話だけで復讐的な行動は全く起こしていない大畠。
幕間『夜更け過ぎの雨とともに』を見るとかなり闇は深そうだと思ったのだけど、転校からかなり開いて林間学校まで待ってわざわざ無策で真弘の前に出てきたとしか思えない杜撰さ。物語を盛り上げる敵役としては中途半端さが目立ちます。

幸太を仲間に誘いつつ、犯人が特定できないくらいの間接的な嫌がらせを真弘にする……程度の陰湿さは欲しかった。
例えば、最初はちょっとした嫌がらせをしたけど幸太がそれを成り行きで未然に防いだ。それが続き、嫌がらせは徐々に規模を大きくしていき、幸太の自分のために奮闘していた事に真弘が気付き、友情が深まる……みたいな?

既に二章が終わりましたが、この作品は確かに抑揚に欠けます。
その理由は山場、盛り上がる場面が無いからです。主人公が熱くなる場面が少ないからです。義母に暴力を振るった場面は全カット、伊織に「兄ちゃんって思わなくていいから」と言われた時の心情も理解するのが難しいほど抽象的かつ簡潔に過ぎる、敵役である大畠が小物感バリバリで幸太が怒るに怒れなくて熱くなりきれてない。などなど、展開に変化をもたらす場面では、もっと強い感情の動きを書いて欲しいです。


■作品全体を見て

【世界観】
普通の現代、普通の高校生活、普通の友人たちとのやり取り。そんな普通が強調されたかのような時間に、過去のちょっとした因縁が絡んでくる。
それが普通の日常な分、文章能力が高いほど読者の頭の中に情景がすっと浮かんできます。ですが、設定自体に面白味は全く無いです。普通が過ぎれば、それは平凡、退屈となり、読む事に飽きてきます。大事なのは山あり谷ありの展開ですね。

【ストーリー】
物語の流れは興味深いです。昔イジメていた相手が友人に対して復讐をしようとする。それを阻止しようとして友人との仲を深める。
けれど山場、盛り上がりの場が欠けているので平坦な印象を受けます。
登場人物たちの感情を強く揺さぶるような展開を持ってくることが、山場を作る事に繋がります。

【キャラクター】
正直に言って、誰も彼もキャラクターを掴みきれてないです。主人公の幸太は流されるままで心情も抽象的で断片的に書かれています。思考の推移が読み取れない場面が多いです。しっかりと書かれているのは日常描写のみです。
真弘は秘密主義でその心情も全く明かされていない。
大畠は幕間で闇の深さを見せたと思ったら登場後の行動は煮え切らないものばかり。
春輝もいきなり「普段から聞き役に徹する」という後付け設定が入ったし、それは日常描写の時に入れて欲しかった。
現状、この作品には魅力的なキャラクターが居ません。その理由は恐らく、この作品の作風にあると思います。

【文章能力】
私が思うに、作者様は『普通の日常を描く』という点ではかなり文章能力は高いと感じます。作家としての特性、特技と言えるでしょう。しかしその特技が逆に仇となっています。暴力を振るう、人に悪意を向ける、強く決意する、などの現実的な普通とは少し離れた事柄に対しては表現が甘くなっているように感じました。
物語を動かすのはキャラクターの強い感情です。
強い感情を晒すキャラクターを読者は魅力的と思います。『普通の日常』を描くのも時には重要ですが、今度はキャラクターの感情の発露を意識すると良いと思います。



■総合評価:『可』

物語には何も関係の無い日常描写が多く、読む方は多少くどく感じる事もあります。
しかし、それが作品の味となっている部分も確かにあります。
大事なのはバランスです。日常だけではつまらない。非日常だけでは現実味が無くて共感出来ない。リアリティのある日常があるから、非現実が引き立ちます。
浅葱 游さんの描く日常は物語のスタートや幕間に非常に味を出すでしょう。そこから登場人物が動いた結果、主人公は何を思い、どういう結論に至り、どんな結果になったのか。
キーワードは「強い感情の動き」です。キャラクターの心変わり、決意など、しっかりと感情が伝わるように書きましょう。それが抑揚を生むと思います。


寝ぼけ頭で書いたので支離滅裂な部分があるかと思います。
此処の意味が分からない等ありましたら、質問をお願いします。

以上で『世界は君に期待しすぎてる』の感想とさせて頂きます。
それでは長文悪筆、失礼いたしました。