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- Re: 投票お願いします!【準備中】 ( No.6 )
- 日時: 2016/03/19 22:38
- 名前: 藍霞 (ID: bUOIFFcu)
5
登場人物
入緒野 凜華/いりおの りんか
伊東 凛果/いとう りんか
「凛果」
凜華があたしの名を呼ぶ。
リンカが、リンカって言うのにはやっぱり慣れないけど、なんだか嬉しい。
「出来たよ」
凜華の手には絵筆が握られ、凜華とあたしの間にはキャンバスが立てられている。
そのキャンバスに描かれた絵を、台ごとこちらに向けて見せてくれた。
「………」
やっぱり、何回見ても凄い。
そこには、細部まで正確に描かれたあたしが浮かび上がっていた。髪の毛や睫毛の一本一本が繊細に、肌や目が柔らかに、塗られた色が鮮やかに映えている。写真と相違ないほど正確なのに、絵ならではのタッチや雰囲気の違いもあって、筆舌に尽くしがたい「絵画」がそこにあった。
「どう…かな。上手く描けてる?」
凜華に言われて、こくこくこくこくこくと首を縦に振りまくった。
こんな凄い絵を描けるのは凜華しかいない、凜華の絵はやっぱり美しい、他の人じゃ到底及べない。そんな言葉が伝わるように、こくこくこくこくこく、何度でも頷いた。
『声に出せない』言葉が伝わるように。
「そっか、ありがとうっ」
にこにこして、心底嬉しそうに言ってくれる凜華を見て、ほっとする。凜華がそんな風に笑ってくれるなら、あたしの声なんか要らない。そんなのは瑣末なことだ。
「あ…あのね。もう一枚描いたんだよ。こっちは風景画」
どこから出したのか、違う紙を取り出して見せてくれる凜華。そこには、この部屋の窓から見える景色が描かれていた。
蒼い空、碧い海。
白い雲と焼けた砂浜、ぽっかり浮かぶ舟。
その砂浜に並んで座る、2人の女の子…。
それがあたしと凜華だって気づくのに、1秒と要らなかった。
そこにあたし達が座ってるわけじゃない。そこに本当にあたし達が行ったわけじゃない。
けど、凜華はそこにあたし達の姿を描いた。
***
海に行きたい。
凛果はそう言ったことはなかった。何より、それを言える「声」が無い。
けど、私は、ずっと海を見つめる凛果を見てきた。
ずーっと、ずーーっっと、海を見つめてぼーっとしてる凛果を、何度も見てきた。
だから、描いた。
凛果が砂浜に行けないなら、私が絵の中で連れてってあげればいい。
…出来ればその横には、私も居るといいな、なんて我儘で私も描いてしまったけど。
「凛果、海は好き?」
私が描いた絵を食い入るように見ていた凛果が、ぽかんとしたようにこっちを見た。
そして首を傾げる。
「じゃあ、嫌い?」
凛果は、その質問には首を横に振った。
行ったこともない海を好きと言うのは、何か違うものを感じたんだろう。けど、嫌いかと問われたら、そうでもない…。
それは実に凛果らしくて、そういうのに私は刺激されるのだった。
抽象的で、感覚的で、はっきりしない。そういうのもいいんじゃないかって思わせてくれる。何でも正確に描き込もうって力んでる時に、凄くいい感じに緩くしてくれる。
ゆるゆると過ぎてゆく時間。
きちきちしたものに縛られず、はっきり見えるもの以外の何かを感じながら、だるっと暮らす。
「…それでもいいんじゃないかな」
ぼそっとこぼれた呟きを、凛果は海が好きかどうかの問答に対する言葉だと思ったらしかった。
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