二次なりきり掲示板

Re: 『 龍桜戦記 』〈 長文以上中文未満 〉 ( No.52 )
日時: 2016/02/23 15:35
名前: 六巴 (ID: laYt1Tl.)

【雨笠 稚菜 / 国境】

 自身の身長を優に超す薙刀を構え、じっと目の前の狼のような姿を模した魔物を見据えた。まるで今にも弾け飛んでしまいそうな空気を肌にひしひしと感じる。初めて真正面から対峙するそれは、この世の物とは思えぬなんとも形容し難い雰囲気を持っていた。ただ一言で言ってしまえば、兎に角気味が悪いのだ。
 新人だという事で比較的魔物の少ない場所へ出されたのはありがたかった。こんなものが大勢いる場所へ行かされていたらその雰囲気だけに圧倒されていたかも知れない。主に新人で構成されたこの即席部隊は大きな円を描くように陣形をとっていた。下手に固まっていては囲まれる危険性があるのだ。どうも魔物は知能数は低いようで連携を取るなんてことをせず、ただ近くにいる人間に襲いかかっているようだった。お陰で分断も容易に出来、目の前の一匹、コレを討つのが稚菜の役目だ。

 訓練は精一杯重ねてきた。村でも唯一の用心棒として来る日も来る日も薙刀を振るっていた。新人内での手合わせだって勝利数の方が多い。最近入隊した新人なりには優秀であって、決して弱いという訳ではない。実力はちゃんとある筈だった。
 それが分かっているのに怖気づいてしまっているのは、やはり実戦経験の無さからだろうか。

(落ち着け。ここで怖気づいて一体誰を守れるっていうんだ。ここは戦場で、決して怖がってる暇はない……!)

 それでもかたかたと震える手を見て情けなさを痛感する。少し前まで畑で働いていた農民だった事を考えると、それも仕方ないのかもしれない。戦いなんて無縁ののんびりとした平和で普遍的な日常であったのだ。
 しかし稚菜はそんな考えを許せなかった。そんな甘えで自分を許したくない。烈旋隊へ入隊を決めてからそう決めたのだ。
 実戦経験がないのは多くの人々が同じなのだ。この魔物達はつい最近現れたばかりで、寧ろ戦闘経験のある人の方が少ない。自分と同じように突然居場所を魔物に奪われ、今この瞬間望まずに武器を握っている人だって必ず居る。

 強く短く息を吐き、薙刀を握り直した。

「……覚悟しろ。」

 とっと地を蹴り魔物を目掛けて飛び出し、間合いを詰めると薙刀を大きく斜めに振り下ろす。さすが獣と言ったところか間一髪の所で避けられる。追撃しようと下から振り上げると刃の先端が少し掠ったらしく、鮮やかな紫色した血液が宙を舞った。話には聞いていたが、その異様な光景にぎょっとした瞬間魔物が稚菜に飛び掛かる。寸での所で防ぐが柄に噛み付かれ振り払おうとしてもその力は簡単に払えるものでは無かった。薙刀を少し上へ持ち上げ一気に下へ振り下ろし、それに合わせ魔物の顎へ膝を打ち付ける。幸い皮膚が硬化した箇所ではなかったらしく魔物は悲痛の声を上げ柄から離れた。その瞬間を見逃さず薙刀を大きく振りかぶり魔物へと渾身の力を込めて振り下ろす。今度は確実に魔物の首を捉え、重い振動の後に先程とは比にならない量の血液が地面へ叩きつけられた。

(……これ見ただけでも正直ぞっとするんだけど。)

 頬に流れる汗を拭いながら地に倒れ伏せた魔物を見る。驚く事に首は皮一枚がなんとか繋がっているような状態であるにも関わらずまだ息があったのだ。

「……さっすが化物、って感じ。」

 背筋が寒くなるのを感じるが、コレがもう動けやしないのは明白だった。そう、もう時期に死ぬのだ。それに魔物はこれ一匹だけではなくまだまだ多くの魔物が、ここ龍ノ国へ攻め寄せてきている。烈旋隊の仲間もそこで戦い血を流しているのだ。死に掛けのコレにトドメを刺している暇なんて今はない。

(なんちゃって。そんな理由並べて……やっぱり甘いな。)

 新人の自分が魔物の群れの方へ行ったとしても先輩達の邪魔になるだけであって、自分は少数の魔物を討ちながらここの守りを固めておくべき。そう判断した。見渡す限り周りに魔物は居ない、苦戦を強いられている仲間も居ない。仲間とは距離もあるし、助けに行くほどの事態も生じていない。防衛の陣形を崩してまで動く必要はなかった。だから今、この魔物を殺さないでいる理由は何も無い。

(魔物は憎い。村を奪ってそこに住まう人達を奪って、母さんの心も奪った)

 しかし目の前で藻掻くこの生き物をどうするべきか判断に迷う。

(憎しみに駆られて殺す? このまま苦しむ様を眺めとく?)

 殺さない理由はない。寧ろ、今ここでトドメを刺すほうが懸命である。もしかするとこれが仇となり足元をすくわれるかもしれないという可能性も皆無とは言えない。それでも何故か、このまま殺すのは惜しかったのだ。

「どうせ助からないならこのまま何もしない方がコレにとっては地獄かぁ……。殺す理由もないな。」

 薙刀を握り締め、ただ死に向かうその魔物をぼんやりと眺めていた。

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>>51
九九、稚菜の登録ありがとうございます! まさかまさか二人共登録して頂けるとは思ってもいませんでしたので大変喜んでおります;;
精一杯頑張らせて頂きます!!


早速過ぎるのですが稚菜で絡み文を書きました。どなたか絡んで頂けると嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します。