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>>37

『アルメリア・イングリス / 十一区』

黒髪を揺らしながら小首を傾げる男を見て、聞く相手を間違えたかと密かに思う。
情報屋というのは面倒臭い人間が多いイメージという偏見が元々あったが、店を訪ねただけで金を払えと言われるとは予想外であった。それも本気か冗談か定かではないのだが、どっちであれ面倒だとアルメリアは内心うんざりする。こうなるなら横着せずに自分で店を探せば良かったと。出来れば一人で黙々と静かな食事を済ませたかったところだが、ここで必要以上に金を落とす気はない。
つまる所この男と一杯する他、選択肢はなかった。

（……こちらが先に頼みごとをした手前、仕方ないか。これで相手が女性であったなら喜んで誘いに乗っただろうに。）

尤も、変な要求をされないだけマシなのだろう。見知らぬ男と二人きりでの食事とはまったくもって不本意であるが、面白味のない世間話をする中で十一区の事を、金を取られない程度に聞いてみるのもいいかと諦める。

「それは失礼したな。喜んで付き合わせてもらおう。」

笑顔を作るわけでも顔を顰めるわけでもなく、薄い表情でただ淡々とそう口にする。
取り敢えず面倒臭いだのなんだの考えるよりも腹の虫を黙らせるのが最優先であった。