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>>50

　一度名前を呼んでも足を止めず、それならばと手首を掴んでも結局こちらを向く事無く静かに自分の言葉を聞き届けたジャックに、私は小さなわだかまりを抱いた。先程の件で飄々とした彼の仮面の内側を少しでも垣間見ることが出来たと思ったのに、噛み締めた優越感はすーっと音も立てずに消えていく。静かに澄み渡った湖のど真ん中に、小石一つ投げ捨てられたような、そんな感覚。
　そして、極めつけはジャックの一言だった。

『　..何も知らなくてええししなくてええ、俺の真意はあんさんを帰したい、だけや..　』

　「　…それじゃあ、何？　明らかに当事者である私に無知でいろって？　それに、行動を起こすか起こさないかの決定権は私の領分でしょ　」

　私を帰してやりたいというその言葉に偽りは感じられなかった。心配してくれている、それ自体に悪い気は起こらない。けれど何も知らなくていいししなくていいなんて無慈悲な戦力外通告はあんまりだ。過保護か。
　はぁ、とため息をつく。正直なところ、実際に知る知らない動く動かないはどうでもいいのだ。少し苛立ってはいるけれど、怒っているわけじゃない。ただ自分の持つ権利を侵害されたくないだけで。この際なので言っておくと、私はそこまで元の世界に戻りたいと強く願っているわけではない。此処に連れてこられてから数週間の間、一度も帰りたいと喚き散らさなかったのがその証拠だ。どうせ帰っても退屈な毎日が続くくらいなら、今このゲームの中のような非日常に身を委ねていたいと思うことはいけないことだろうか。


『　けど..そう言ってられへんのは事実..トーエは心臓ないからな、帰したくても帰せられへん　』

　……うん？　あんた、今、なんて？　私の耳が確かなら心臓がないとかどうとか、聞こえた気がするのだけれど。シリアスな雰囲気が充満していた内心が一気に硬直した。
　もう一度、ジャックの言葉を脳内で復唱する。トーエには、…つまり私には心臓が、ない。——えっと、それはつまり……どういうこと？　
　動揺のせいもあるのだろう、何度彼の言葉を咀嚼し直してもその意味を理解してくれない自分の頭に痺れを切らして思わず口を開いた。

「　ちょ、え、ジャック！　心臓がないってそれは、心を奪われたとかいう比喩表現でもなんでもなく、マジな方でないってこと、なの？　」

　ここまで来ると笑うしかなくなるというか。笑って良い状況でもないだろうに何故だか乾いた笑いだけが込み上げてくる。だって、そうでもしないとやってらんない。心臓がないなんてそんなこと、信じられるはずがない。心臓がないならなんで私は生きていられるの。
　すっかり混乱してしまった頭ではいつものように強がりも皮肉も何一つ出て来ない。この場でただ一人、私の混乱を鎮める事の出来る術を持つジャックに縋るような視線をぶつけた。


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【　ありがとうございます！　そして、只今トーエはジャックくんが衝撃発言をしてくれたお陰でパニック状態に陥っております(笑)　普段は冷静な分、狼狽えるとその度合いが強くなってしまう感じですかね。なので描写や台詞が若干ギャグちっくに…申し訳ないです。
　　心臓ですかー、うーん…。ここで新たな登場人物を、っていうのもなんだかややこしい気がしますし、ぱっと思いついたのはクラウスさんでしょうか。でもそれだとクラウスさんには散々な役回りをしてもらわないといけないことになってしまうんですよね…(汗)　
　　と、ここで話は変わりますが、小説版の方も楽しく読ませていただいております！　拝見したところ、こちらは本家で小説版は宗家、とのことですが、小説版での設定はこのスレには関係ないのでしょうか？　キャラそれぞれの本来の役割、執事や案内人などの役目についてなど、スレでも参考に出来そうな設定が書かれていたので少し気になった次第です　】