二次なりきり掲示板

Re: 【新組織】『 トロイメライの隠し場所 』【募集開始】 ( No.271 )
日時: 2015/08/29 10:37
名前: 鯨 (ID: Un6CeTvg)

>>252


【どこかへ向かう道の途中/落花 裏葉】

「でも誰でもできることじゃないから、やっぱり才蔵くんは優しいなって。そう思うよ」

泣いても叫んでも誰の手も差し伸べられない事もある。世界は優しいけれど時に想像を絶するほどに冷酷だ。
こんな夜中に女が一人で人探しなどしていたら不審に思っても仕方が無いし、見も知らずの人間を探すのに夜中に外を歩き回ろうとする人間はさほど多くないと裏葉は思う。世界は優しいけれど時に想像を絶するほどに残酷で温かみを失うから。
だから才蔵は優しいのだ、きっと。たとえそれが何かの打算であっても気まぐれであっても裏葉は嬉しかった。

「…不思議だね。才蔵くんにそう言って貰えたら少しだけ自分の名前好きになれそうだよ」

才蔵の言葉はどこか不思議なくらいすとんと裏葉の胸に落ちてくる。彼が放つ独特の雰囲気のせいだろうか。好き、だんて言われたのはいつぶりだろう。そもそも幼い頃からそんなに言われた記憶の無い言葉なのだけれど。言われ慣れない優しい文句は裏葉の胸を甘く擽る。たわいのない戯れのような褒め言葉にこんなに喜ぶなんてまるで年若い少女みたいだ。自分はもう二十歳を超えた女だと言うのに。

人魚という言葉に才蔵は戸惑ったようにしどろもどろ言葉を紡ぎながらコロコロ笑った。そうだ、急にこんな事を言われても何の話かわからないのだ。裏葉は才蔵の言葉を聞いて足を前へ向けながら笑う。この青年は裏葉の話を聞いて言葉を返してくれるから話すのが楽しくてしょうがない。

「急にびっくりしたよね、ごめんね。あのね、昔何かの本で読んだんだけど。人魚ってずっと水中にいるから体温がすっごく低くて人間と触れ合うと火傷しちゃうくらいなんだって。
才蔵くんの手が冷たかったからそれを思い出しちゃって…まるで人魚みたいだなぁって」

カツカツと石畳の上に足音が小さく響くのを心地よく聞きながら裏葉は才蔵の言葉に耳を傾ける。彼は夜型人間なのかもしれない。こんな夜中に月が綺麗だから外に散歩に出るなんて。

「そういえば有名な作家はI Love Youを月が綺麗ですねって訳してるよね。お洒落だなぁ、女なら一回は言われてみたいけど男の子はそういうの言うの嫌なのかな?」

才蔵は何と無くサラッとそういう事を言ってそうだなぁなんて失礼な事を考えながら裏葉は月を見上げた。でも月が綺麗ですね、なんて言われてもただの感想なのか告白なのかわからないかも知れない。そういう奥ゆかしさこそが『粋』というものなのだろうけれど。

「リンくん?」

彼のその質問になんと答えればいいのか裏葉はよくわからなかった。弟ではない。けれど弟のように大事に思ってきた。もう何年も小さかった彼を一番側で見守ってきて、だんだんと弟のように思っていた彼はいつの間にか裏葉の背を抜かし大きくなった。それに連れて裏葉の気持ちも弟を思うものから少しだけ形を変えてきた。けれどそれを誰にもしられるわけにはいかない。裏葉は指導役だ。彼に正しい道を教え導くことこそが裏葉のいる意味。

「…弟、ではないの。でも、ずっと側にいた、幼馴染みたいなものかな。…弟みたいに思ってる、大事な子なんだ」

裏葉はにこりとほほえんだ。