二次なりきり掲示板

Re: 【新組織】『 トロイメライの隠し場所 』【募集開始】 ( No.284 )
日時: 2015/08/31 23:09
名前: 佐鳥 (ID: LuHX0g2z)


>>271


【どこかへ向かう道の途中/真谷 才蔵】
 

ヘラヘラと何だか情けない調子で笑うのをやめて、才蔵は逸らすこと無く裏葉を見て、彼女の言葉に耳を傾けた。
こんな時にはよく、忘れてしまったことを思い出す。いつも当たり前のこととして感覚麻痺をしているものの、自分のことを考えてくれる誰かの存在がいつも才蔵のそばにあること。自分が思っているより才蔵はずっと子供で、極悪とは違うこと。それらの事実を愛しく思うこと。
才蔵を優しいと言う裏葉の言葉は大よそ安易なものではなく、たしかな重みと温みがあると才蔵にもわかる。そしてどんな形であれ才蔵が見ず知らずの相手に手を貸すことに抵抗を示さないことを「優しい」と思うことも。自分では相変わらず自分のことを優しいとは思えないけれど、その裏葉の価値観は理解できる気がした。
まだ出会って何時間も経っていないけれど、裏葉が自分を「優しい」と思ってくれていることが嬉しいと、そう思った。

「じゃあ、失望されないようにしないとなぁ」

そっかーおれ優しいのかぁ、なんてしれっとふざけて。

「でもそう言ってもらえるなら嬉しいかな。……ははっ、てか裏葉ちゃん、さっきからおれの喜ぶことばっかり言ってくれるね? 調子乗っちゃうんですケド」

恥ずかしむでもなく、いつも通りの才蔵スマイルを炸裂しては才蔵は言った。裏葉は容姿についても綺麗だと褒めてくれたり、今だって優しいと才蔵を評価してくれたりと、賛辞をよく述べてくれる。後者に関しては少し悩むところもあるけれど、褒められて嫌だとは思わなかった。才蔵が言った言葉がきっかけで自分の名前を好きになれそうだなんて言われれば、才蔵にとっても嬉しかったし、気を良くしないわけにはいかなかった。

「うん! 自分の名前、大事にしてあげて!」

歩き出す裏葉と歩調を合わせる様にして、才蔵はその隣を歩く。時折、瞳を動かして空を見てみると、すっかり深くなった夜の空は此方の体を飲み込むような闇一色だ。今さら怖いだなんて思いもしないけれど、怪物と化した人間の瞳の色を思い出す。吸血鬼にはどす黒い双眸を持った奴が割といる。

唐突に人魚の様だと言われ、才蔵が戸惑っていると裏葉もまたおかしそうに笑った。
不思議なことをつぶやいたのは才蔵の手の冷たさに、人魚を連想したのだと教えてくれた。言われて才蔵は分かりやすく目を開いてハッとした。忘れていたのだ。どんなに誰かの腕に抱かれても自分の体は決してその熱を吸い取ることはできない——いや、厳密には違うが——のだと。普通に体温が低い人間と比べてみたっておかしなほどに自分の手は冷たいのだ。

不審に思われなかっただろうか。正直、この少女がこの世に存在する吸血鬼についてどこまで認識しているかはわからないが。
しかし、そんな心配も無駄な様だった。裏葉の笑顔は優しいまま、疑いの色などどこにもないから。少しの焦りを落ち着かせながら、才蔵は話し続けた。

「あっ、あー、そうなの? 知らなかったぁ。……そっか。ずっと水中にいればそうなっちゃうかもねぇ。ふふっ、ロマンチック!」

元々、人間であったころから、こうした人外魔境の話は嫌いじゃ無い。ロマンつながりなのか別の話題に移った会話に、才蔵は「あ、それ知ってる!」と嬉しそうに食いついた。

「面白いよねぇ、愛してるを月が綺麗ですねって!」

愛しているを月が綺麗だと訳すなんて、その歪曲した表現が面白かったから覚えていた。
女の子は甘美な言葉を夢に見る。それを言っていたのは姉妹の誰だっただろう。そちらのことはあまり気にも留めていなかったが、裏葉の言葉でふとそのことを思い出した。
裏葉に吊られるように才蔵は空を見上げ、ぽつりと「月が綺麗ですね」と試しに口に出してみた。実際に居るわけではないけれど好きな人に向ける言葉なのだと思って。隣の女性に吊られるように空を見上げて。

「んー……確かに男ってそうかもね。恥ずかしがってそういうこと、言えないかも」

少し照れたのを誤魔化して才蔵は変わらず笑う。同じく真谷に身を置く男たちはそれを言えるだろうか。笑太郎は、色人(の恋愛対象が女性かどうかはわからないが)は、皆が愛する当主様は。

(あ、シキくん言えそう)

「でもおれは、好きな子が言って欲しいって言うなら言えるかも。……ってかさ、裏葉ちゃんは? もしかして言って欲しい相手っていたりするの?」

もうすっかり仲良くなった心算でいるのか、不躾にも初対面の女性相手にコイバナなんてし出したが、才蔵にとってこれは別に特別なことではなかった。似たようなことを前にも経験して、その時は真谷の年長者から酷く怒られたけれど。

「……」

裏葉の目は迷っているようだった。少し困っているような、戸惑っているような、不安定な様な、そんな動揺が垣間見えたような気がした。何と言葉を尽くせばいいか、迷っているみたいな。軽い疑問程度だったけれど、その疑問は膨らみ始め、才蔵の視線は裏葉へと集まった。

「……大事な子?」

その口ぶりは、自分に向けられていたものとは温度も、重さも、その存在感がまるで違うようだった。家族以上の揺るがない大きな絆の存在が、そこにあるのだ。
幼馴染みたいなもの、とか、弟みたいな、とか曖昧な表現で結局才蔵にはよくわからないけれど、直接的に突っ込んでいいような隙間なんてない。そう思った。
リンくんは、裏葉ちゃんの愛しい子。そう認識していればよい。

「本当に大切な人なんだね、リンくん」

ただその温もりが伝わると、不思議とこちらも影響を受けて和やかな気持ちになるから不思議だった。

「あはは、いいなぁリンくん。裏葉ちゃんみたいな幼馴染がいるなんて。ちょっと羨ましいや」