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【とある夜道/三宮裕次郎】

コツ、コツ、と。杖をつく音がする。音の主は一定の感覚ごとに歩く。
それは急いでいるようでもなく、非常にゆったりとした物だった。
夜中に目が覚め、二度寝もできなさそうだったのか、外に出て散歩をしているのであった。

初老の紳士は、月を見上げる。どうやら満月が近いらしい。

「ほっほっほ……月ですか。彼らの領域ともいいますが、月は昔より変わりませんなぁ……。」
数十年前も、同じように月を見上げ、そして同じように月に照らされていた気がする。老人は呟くと、また歩き始めた。
年甲斐も無いが、若い頃のような探検する気分というのも、なかなか悪くはない。