二次なりきり掲示板

Re: 【じわじわと】『 トロイメライの隠し場所 』 ( No.364 )
日時: 2015/09/26 06:42
名前: 佐鳥 (ID: LuHX0g2z)
参照: ※進行できずに申し訳ないです;;

>>343


【どこかへ向かう道の途中/真谷才蔵】

(あ……)

他人のことになるとかなり神経が鈍重な才蔵が裏葉の浮かべた笑顔が作り笑いだと気付けたのはどうしてだろう。先程から度々彼女が、大よそ裏が無いと思われる素直な笑顔を才蔵に対して見せてくれているせいだろうか。それはやわやわとして優しく心地よい熱を帯び、どんなに荒んだ心さえも洗ってくれるような笑みだったからか。
ぎこちなく言葉を紡ぐ彼女の異変に才蔵は一瞬呼吸を持って行かれる。——いいや、呼吸なんて今の才蔵には必要が無いしそもそも自動的に行われないものとなったのだが、何か今自分が言った一言で裏葉に良くない影響を与えたんじゃないかと、そう思った。

才蔵はそんな裏葉を固まったように見ていた。そんな彼女になんと声を掛けたらいいのかわからない。謝った方がいいのか、もっと元気付けになるようなことを言うべきなのか、考えていても才蔵にはわからず、ただ「あー、えーっと……」なんて時間稼ぎをしながら狼狽えるしかできないでいる。
どんよりと徐々に空気が重たくなるのを情けなくもどうにかすることが出来ないでいると、それをどうにかしたのは裏葉の方だ。

裏葉の出した答えは、まるで宝物のようにきらきらとした輝きを持っていた。それを見つけた子供のように才蔵はわあ、と声をこぼして目を輝かせ、口許は自然と嬉しそうに笑っていた。素直でシンプルで、甘さとは違う優しさのある言葉はどんな偉い人の名言よりもかっこよくて、素晴らしい。

「褒められるのはうれしい、か……うん。そうだね、そうだね! 裏葉ちゃんみたいな大人がたっくさん増えればきっと世界は平和になるのにね!」

ぐいっと親指を立てて才蔵はにっかりと歯を見せて笑う。こんな優しい人だけの世界が在るとしたら、今の世界を捨ててその世界へ行こう。そうだ、真谷の一族も連れて。ああでも、当主は今の場所から離れることを拒むかな。吾らの渇望のトロイメライだっていまだ見つかっていないのだから。

「まあね! ……って裏葉ちゃんこら! 何その意外だなーみたいな反応! おれは男気ある男なんだからね!」

幼さの有り余る顔立ちで威張っても、そこには威厳の欠片も無い。才蔵自身も本気で怒っているわけではないのだ。ただ、好きな人が望む言葉も恥ずかしがって言えないような軟弱(というのは才蔵自身の偏見)と間違えられるのは少し納得いかないのだ。
しかしそのあと自分が言った一言に裏葉が急にむせたのを見ると、その様子に才蔵は「あははは! 裏葉ちゃんむせた!」なんてこれまた悪気なく笑った。彼女がなぜ今のタイミングで咽たのかについては見当がつかず、たまたま喉に何か突っかかりがあったのかと思ったが、裏葉は答えにくそうに続けた。その答えに才蔵は、吃驚して「なんで!」と半ば不満そうに食いついた。

「年が年……!? 何言ってんの、裏葉ちゃんまだ超若いじゃん。超女の子じゃん。夢見る頃過ぎるの早くない!?」

見たところ裏葉は丁度才蔵と歳の近そうなまだまだ若い女の子だ。いや、女の子と言えどそれでも二十台だが、それも二十台になってまだ何年も経っていない感じ。それなのに年が年とは、これも時折垣間見せいていたどこか自虐的な性格のせいでそういう価値観をしているのかと才蔵は本気で動揺する。結婚と言うワードにすら才蔵は「早すぎじゃない!?」と忙しない。

そう感じるのは吸血鬼としての時間を過ごしている故の感覚麻痺かもしれないけれど、そうとは思わず才蔵は言った。

「まだ人生始まったばかりなのにおばあちゃんみたいなこと言うのやめようよぉ! そんなんじゃマジでおばあちゃんになった時に……えーと、超おばあちゃんになってるよ!」

自分の体は年を取ることは無くなってしまったから、年老いたという感覚を得ることは無い。そんな元人間が言うのも奇妙な話だが、まだ彼女は若い。そんな今は大抵のことを諦めることなく楽しむべきではないのかと、そう伝えたかった。しかし語彙が足りなかった。

かあっと赤くなる頬。誤魔化すように笑った顔。それはなんとなく、ただなんとなくだけど、“リン君”に対してのそれが大きな意味のあるある種の情のように見える。
なんだか不思議だ。それが解ってしまった途端に、心が渇く様な感覚を得る。

目を覗き込まれ、才蔵は相手と目を合わせる。
下手な真似をして死んだりなんてしなければ、才蔵は100年も200年も生きながらえるだろう。それを知らない裏葉は何の屈託もなく「幼馴染になろう」なんて言うのだ。それは別にどうでもいい。だって狩りに才蔵が200年も生きたとしても、裏葉の今の言葉になんの間違いもない。尚且つそれが才蔵にとって嬉しさを感じさせるものであり、同時におもしろそうだった。

そして何よりも、この裏葉という優しい人間を才蔵が好んでいるから、リン君と裏葉の空間に自分の席ができたような気がしてなんだか嬉しかったから。才蔵はまた宝物を見つけてこう言った。

「うん、なるよ! 幼馴染になる!!」