二次なりきり掲示板

【じわじわと】『 トロイメライの隠し場所 』【イベントの】 ( No.381 )
日時: 2015/09/28 19:48
名前: Dietrich (ID: xOYpbzCU)

【橘花小路/香坂 誉丸】

「暗いと不安になるだろう。こうやってお互いに向き合っているのに今私はあなたの表情一つ伺うことができない。夜だと尚更だし、最近は何かと物騒だ。私も少々誤算だった、まさか外がこれだけ暗いとは思っていなくてね」

 穏やかな声の相手は気品さえ感じさせられる態度でこちらに接してくる。こうなってしまえば相手の調子に自然と合わせることになっても最後まで気づかないのかもしれない。顔こそこの距離で見えないが、彼女の言葉から既にその艶やかさは感じられていた。何も知らない男なら彼女に話しかけられただけでイチコロなのかもしれない。さっきの男もそれなのだろうか。

「それに最近は足元がおぼつかなくてね。簡単な段差に躓いてしまうんだ」

 香坂は何を意識する訳でもなくそんなことを口にして軽く笑った。まだ動けると思っている体も十代の時と比べれば愚鈍になったものだ。

「いや、そんな大層に受け取られてはこちらが恥ずかしいな。失礼なことを言ってしまって申し訳ない、ただ私の素直な感想が述べたくてね」

 相手は怒った様子も見せずに大人の対応、と言った感じで自分の発言を受け流している。昔は人間だったのだろうが、いかにも世間になれたと言った風に見えた。いかにも獣らしい荒い性格を持った吸血鬼もごまんといる中で、彼女のような吸血鬼もそれほど珍しくないのだろうか。

 軽く思案するように手を口元に当てる。相手は屈んでお辞儀をしたようだ。黒く見える影が微かに揺れる、上品に、艶やかに。

「……食事の仕方、確かに中にはただの食事目的だけで人間を襲う訳ではないものもいるのかな。猫が獲物を弄ぶような調子で」

 失礼だったかな、と軽く謝罪を口にしながらも、意見を曲げることはなかった。彼女のようなものもいるのであれば、その逆も必ずいる。人間と同じだ、人間と同じ知能と人間よりも力を持った生き物がその一点を見逃すこともないだろう。

 彼女が自分の言葉を受け入れてくれたことに安堵しながら、ありがとう、と微笑み言った。彼女はどうやら物分かりがいいらしい。できるのであればその性質が周りの吸血鬼にも伝染してくれていたらな、と頭の隅でそう思う。

 そして彼女からこちらに向かっての質問に、香坂は軽く苦笑した。どう言えばいいものか、少し言葉に迷ってしまう。

「……私は仕事柄あなたよりも凶暴な吸血鬼を見てきたからね。大人しいあなたを恐れる理由なんてどこにもないんだよ。それに不躾で何より申し訳ないと先に謝っておくがこう見えて暴力は得意でね、一対一ならどうにか出来る」

 聞き方によれば挑発にも取れる言葉だったが、此処でそう言わなければ相手は自分を見くびって襲ってくるかもしれない。とりあえず不意打ちは避けたかったための布石だった。しかし声の長はいつも通りの穏やかなもので、その中に邪険な針は何も含まれていなかった。再びあはは、と間の抜けた笑い声を洩らす。

「しかし互いにこんなところで喧嘩をしていてもつまらないだろうし、私は買い物帰りだからね。これらを汚したりしたくないんだ」