二次なりきり掲示板

【じわじわと】『 トロイメライの隠し場所 』【イベントの】 ( No.388 )
日時: 2015/10/03 17:16
名前: Dietrich (ID: xOYpbzCU)

【橘花小路/香坂 誉丸】

「いや、こうも暗いと足元も見えないからね。流石に其処まで年を食ってはいないよ」

 そんな年まで吸血鬼と対峙するような物好きなことをしているのだろうか——場合によってはしているのかもしれない、その時でも愉快に笑っているのかもしれないと心の中で苦笑しながら思う。

 相手の声が笑う。こんな自分の冗談に笑ってくれたのだろうか、その柔らかな声が明るい笑みに弾んでいた。穏やかでありながら彼女の声はどこか可愛らしくもあった。香坂も嬉しげな笑みを口元に浮かべる。

 自分の質問に彼女は比較的素直に答えてくれているようだ。もしそれが嘘だったとしても、彼女に少しの利益もないだろうし、また不利益もないだろう。否定できない、とそう言った彼女の声は沈んでいた。

 彼女の性格を勝手に推測するならば、彼女は好戦的な吸血鬼ではないのだろう。人間性を豊かに含んだ獣はどれだけ辛いのだろうか、と微かな思考がかすめて行った。人間を追い詰め、その首筋に己が歯を突き立てるその瞬間は彼女は何を考えているのだろう。野性的な飢えが彼女の理性を抑えているのだろうか。

 今まで出会ってこちらで処置をした吸血鬼はほとんど好戦的な吸血鬼で、大体のものが彼女とは違っていた。こうやってまともに会話できるかどうかすら危ういものもいた。これはいい機会なのかもしれない。あちら側の意見を聞ける数少ない相手だ。

「驚かせるようなことを言ってすまないね。経験があると言っても私はただの人間だから」

 いつ夜の生き物の餌食にされるか分からない。そういう恐怖がいまだにないと言う訳ではないのだから。人間を恐怖に陥れる彼らに微かな犯行をしたって責められるものではないだろう。だとしても彼女に八つ当たりをすることはなかったな、と微かな後悔を抱き始める。

 今晩の宿とそんな言葉が聞こえ、香坂は思わず声をかけていた。それが先ほど抱いた後悔からか、”吸血鬼”と言う人間とはまた違う生物を理解する機会を長引かせるためだったか、自分にも分らなかった。

「……少し、あなたについて行っても良いかな。いや、何、人間にも嫌なやつはいてね、あなたのような可憐な女性を見て悪質な性質の者が声をかけてこないとも限らない」

 穏やかに笑ってそう言った。実際荷物もそんなに重くはなかったし、今夜この後に用事などもなかった。帰って寝るだけ、と言うのも妻ならないだろう。

「夜道を久しぶりに歩くんだ、一人では寂しいのでね」



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