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Re: 『 龍桜戦記 』〈 長文以上中文未満 / イベント中 〉 ( No.17 )
日時: 2016/08/26 19:28
名前: 依 (ID: /IDVKD3r)

諸用で遠方に出向いていた東子が戻るなり聞かされたのはあまり良い知らせとは言えなかった。国境に魔物が出た上に鬼ノ国と一悶着あったのだと言う。
城の者が言うには、兄と姉が国境まで出向いたらしいのだが少数で行われたその偵察の結果はあまり周りに知らされていないらしい。それだけで何か芳しくない事が起こったのは想像に難くない。
しかしそうなると兄か姉に直接話を聞くしか真相を知り得る術はないのだが、東子が慌てて兄姉の元を尋ねた時には既に皆龍鬼祭へと繰り出した後だった。弟も何か聞かされているのでは、と同じく彼の元へも尋ねてみたがこちらも時既に遅し。兄弟の中で未だ城に留まっているのは最早東子だけであった。
それなら祭に赴いて兄弟を探すほかないと東子は浴衣に着替える手間も惜しんで、帰城した際に着ていた黒色の袴に祭用の龍の面だけつけて早々に城を飛び出した。

城を出た途端、東子は息を詰まらせる事になった。見渡す限りの人、人、人である。溢れかえっていると表現しても過言でないその密度に、東子は早々に心を折られてしまった。こんな中でたった四人しかいない兄弟が見つかるわけがない。しかも彼らは面で顔を隠しているのだ。いくら彼らが皇族であり、他と違う気品を纏っていてもこの人混みの中では判別するのは難しいだろう。
それでも悪足搔きとばかりに暫くあちこち探し回ってみたものの見つかる気配すら感じられない。

どうしたものかと肩を落としたところで、子どもの喜色を含んだ高い笑い声が東子の耳を擽った。釣られるように顔をそちらへと向ければ、小さな子どもがこちらを見上げていた。

「なあに?」

しゃがみこんで問いかければ、面をした子どもは東子の手に風車を押し付けてくる。赤と青と黄色と緑の羽根が鮮やかだ。あたりの人間に配っているのだろう、小さな手にはいくつも風車が握られていた。

「くれる、のかな?それともあなたは小さな商人さんかしら」

配っているのか売り歩いているのか判別がつかず戸惑うように顔を上げて再度問いかけると、小さな背中はすでに色鮮やかな浴衣の裾をたなびかせながら泳ぐようにして人混みの中へと消えていく所だった。それを見ていて不意に東子は思い出す。

「あぁ、そうだわ。今日は龍鬼祭だった」

兄弟を探すことに躍起になるあまり忘れていた。東子は小さく息を吐くと歩みを緩めた。思えば事情を知っている兄や姉が祭に参加しているのだから今日は多少なりとも気を緩めてもいい日だと判断したのだろう。そう一刻を争う事案ではないのかもしれない。何より、何かと気苦労の多い兄弟が祭を楽しんでいるのを邪魔するのも無粋な話だ。
少しばかり落ち着きを取り戻した東子は急激に疲れを感じて小さなため息をこぼした。頭に血が上りやすいのは東子の悪癖である。
落ち着いて辺りを見回せば先ほどまで聞こえなかった祭囃子まで聞こえ始めて、これが聞こえないほど視野狭窄な状態に陥っていたのかと驚いた。
一年に一度のこの祭を背にしてこのまま城へ戻るのもなんだか味気ないような気がして、少しばかりの食料を買った東子は人の流れは少ないが、祭の様子ははっきりと見える高い石垣の上に腰を落ち着けることにした。行儀が悪いとは思いつつも草履を脱いで脇に置くと、石垣から足を垂らしてブラブラと揺らしながら祭の様子を改めて観察する。祭はかなり賑わっているようだった。

「まるで生きてるみたい。すごい熱気だわ」

さながら息づく龍のごとき熱気である。すっかり得意になってしまった独り言でぶつぶつ呟いた東子は、先ほど貰った風車を目の前に翳してみる。東子が風を送ってやらなくても風車はくるくると回転を始める。人々の躍動が風を起こしているようだった。
龍鬼祭とは、龍ノ国と鬼ノ国の平和を願う祭だ。何が起きているのかは分からないにせよ、不安定な今だからこそこの祭は強い意味を持つのだろう。遥か遠くの国境へ視線を移した東子は両国の平和を心から願った。

「平和が一番ですものね」


キャラシ再登録ありがとうございます!スレ移動お祝いというにはあまりにお粗末ですが、折角ですので絡み文投下させていただきます。お手空き方に構っていただけると幸いです。