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Re: 【中文】不思議なサーカス団【募集中】 ( No.51 )
日時: 2016/09/16 23:28
名前: 二毛猫桜 (ID: cKFXF7i4)

【帝狩筝鍵/本編】

 綺麗に剣筋を伸ばしたままの彼女の言い分には素直に驚いた。これまで挑発的な行動をとって相手の不快をかっていたのは主に筝鍵である。そんな状況の中でわかりやすく純粋に挑発されたからだ。
 謝ってみたものの武器を仕舞うつもりはないらしい。それは筝鍵でも納得できる。そしてその状況で剣を奪えるものなら奪ってみろと。
(……痛覚が麻痺しやすい動物にそういうこと言っちゃいけないんだぜ、お嬢ちゃん)
 心がけ一つで簡単に理性が外せる動物たちは、自己暗示で痛覚を無かったことにできる。そうしろと逆らえない命令があれば、直ちに虹彩を縦にして犬歯を見せることだってできるのだ。さて、挑発は好感度を下げるとはわかっているが、相手が狐であろうがなかろうが彼女の今後の行動が心配なので一つ説こう。
「こらこらお嬢ちゃん、簡単に武器を手放すような発言しちゃあ駄目だぜ。どーすんだよ、オレが変な薬キメてる痛覚遮断野郎だったら。こーんなふうになるんだぜ? 剛体力学って知ってる? 剣先もってがっちりつかまれたら、握力ゴリラならともかく君のような女の子は剣動かせなくなるぜ」
 どっかのインテリな地域で学んだ知識をお披露目とばかりに剣先をぐっと握る。力を加える場所が離れていれば離れているほど加える力は大きくなるとかなんとか……まあ筝鍵自身握力ゴリラではないので、柄をきちんと握っているこの剣を動かすことなどできないのだが。
 筝鍵は握った手をぱっと開いて悪戯っぽく笑った。掌は少しヒリヒリする程度なので特に気にしなければならないほどの流血沙汰ということでもないのだろう。
「先生からのアドバイスです。この先気をつけな……てか普通はこんな状態にもならずに首落ちてるか。うわぁ、命拾ったー」
 さして深刻でもなさそうに、しかし首は惜しいようで、筝鍵はさりげなく掌をもとの位置に戻した。
「え、ああ、うん。変装とかなんか隠してんなーとは思ったけど、警察官とかは視野にはなかったかな……大丈夫か、お嬢ちゃん」
 そんなに筝鍵の発言が爆弾だったのか、警察官は思いっきり間抜けな顔をした後になにやらをぶつぶつと呟き始めた。大半が自分の失態に対する文句だったと理解したが、その中でさらっと悪口を言われた気がするのは気のせいにしておこう。
 筝鍵は彼女の立場を詳しくは知らない。警察官だとは彼女自身の口から聞いたが役職を知っているわけではない。もしかしたらサーカス団でいう団長、副団長のような大事な役職かもしれないし、或いは自分のように簡単に代えが聞くような人間なのかもしれない。そのどちらだったとしても彼女には警察官としての矜持や思想があって、きっとそれは筝鍵の提案を飲み込めない要因の一つになっているのだろう。
 面倒ごとを避けたいか否かときかれたら当然前者をとる。筝鍵は面倒ごとに突っ込んでいってスリルを味わいたいという種の嗜好は持っていないし、やはり平穏は大切だ。でも今回の前提は別の話である。
 率先して面倒ごとに突っ込みたくはないし平穏も大切だが、寂しく一人で真夜中に一服するくらいなら、何も知らない気兼ねもいらない、そんな友人が欲しいと思うのだ。差別偏見趣味趣向諸々も全て水に流すように、馬鹿な真似と一蹴できるような友人。
 こうして非合法的な活動を黙認して間接態に加担できるくらいなら、非常識ぶるのだって醍醐味だろう。こうして勝手気ままに動き回る仲間に付き合っているのだから、勝手気ままに動いてもいいのだと勘違いするのは個人の自由だろう。
 自分に敵意を向けていた白刃がすっと引かれていくことに目を丸くする。
 こんな風に食い下がってまでみっともなく主張を押し付けていたはずなのに、いざ受け入れられて一瞬状況を把握し損ねる。
 そうして苦笑して差し出された彼女の掌を見て、嗚呼、非常識も捨てたものではないと積極的に勘違いした。
(随分人間染みてきたもんだな、逸れ狐如きが)
 今異形の耳や尻尾があらわになっていたら、どれもぴんと空を目指している自信がある。
 一瞬きょとんとした間抜けな顔を、目論見が成功した悪餓鬼の笑顔に変えて、狐は刃に充てていなかった方の右手で応えた。
「オレは帝狩筝鍵。みんなは先生って呼ぶよ。お嬢ちゃんは?」