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Re: ・Seize the day『 長文推奨 』 ( No.27 )
日時: 2016/12/25 01:13
名前: Dietrich (ID: YTT42QuR)

 あと少しで声が出るところだった。口に煙草があってよかった。反射的に出てしまう、まるであった人物と自分は絶対に会いたくなかった、と思わせるような、そんな声。静かにその声を飲み下すと、先客――ロイをちらりと眺め、軽く頭を下げた。

 ロイは此処の研究員の中でもよく話す人物だった。能力は十分にあるものの、その性格ゆえ何かと注意をされる場面をよく目にするが、それはすべて愛情によるものであることも最近やっと分かってきた。あれだけ気楽に誰かと話すことができるのはうらやましい限りで、それと同時に、この人は自分の気持ちを理解することもできないのだろう、とかすかな劣等感も抱いていた。

 苦手というわけではない、ただ自分が情けなく思えるだけだ。キリルはロイを尊敬できる人物とみていたし、世話にもなったこともある。あまり失礼はないようにと、出来得る限り表情を取り繕った。口から煙草を外し、手近にあった皿を引き寄せて火を消す。

「……ロイさんも、お疲れ様です」

 うつ向き気味にそう言うと、自分の目的をふと思い出して慌てて頷いた。体が冷えていることを感じながら、コーヒーにでもしようかとインスタントがあったはずと記憶していた棚へと足を引きずりながら近づく。インスタントの粉末を見つけると、その中身をカップに落とし、音を鳴らしながら沸騰した水を湛えたヤカンへと振り返り、近づいた。

 ……このようなとき、どのような会話をしたらいいのだろうか。必然的にロイと距離を縮めることになったキリルは、義務めいた感覚に陥り、かすかなめまいを感じた。

「……あの」

 一応声を絞り出したはいいものの、そこから何一つ思いつかなかった。普通の会話、と思うたびに自分が長い間それにかかわらなかったことに気づいた。

 思い出せば、此処に来るまで自分のことしか考えなかった。誰かと話し、共有する感情を持たなかった。そんなことをしていたのは、目の見えない妹と、食べ物もろくにない状況下にいた時ぐらいだ。よくだしぬけに妹は空の話をした。今日の天気はどうか、雲はいくつ流れているか、どんな形か、色か。晴れだと言えば、だからこんなにも温かいのね、と彼女は無邪気に笑っていた。

「……その、今日は、いい天気、でしたね……」

 そんなことを考えながら、口をつい出たのはそんな言葉だった。その言葉を口にした途端、条件反射のように顔が赤くなるのがわかった。今日もキリルは一度たりと外に出たりはしていなかった、外に出ていた研究員の一人がもらした一言を聞いていたから、外が晴れだと知っていただけだった。羞恥で目の前がかすんで、思わずその場で立ち止まった。やっちまった、と口の中で小さくつぶやいた。

 いえいえ大丈夫ですよ! のんびりと待っていますので!
 大丈夫です! つなげていただきありがとうございます!