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Re: ・Seize the day『 長文推奨 』 ( No.29 )
日時: 2017/01/15 21:04
名前: Dietrich (ID: saz7BosX)

 どうやら自分の言葉は無事に相手に届いてしまったらしく、どうしようかと思い悩んでいたところ、ロイはそんな自分の心境でも汲み取ったかのように意外と真摯に話を返してくれた。これで沈黙でもされたらどうしようかと考えていたキリルはほっとすると同時にあまりにもつまらない話題を口にした自分を激しく責めていた。

 しかし、自分のこの考えもまた杞憂だった様子で、ロイは何やら自分の突飛な話に何か思うところでもあったらしく、少しの間を空ける。自分も外に入っていないんだが、と口の中でもごもごと言い訳をしていると、ロイからの問いかけを返されて、驚きながらも安堵を覚え、次に表情をゆがめるしかなかった。

 嫌だったわけではない、それはキリルの数少ないと言っていい表情であっても分かることだったが、すぐには思い出せなかった。小さな頃、ぱっと思い出すのは苦労した時期の話で、そのころには自分の中で自分自身のために何かをして楽しむ、という時間は残されていなかった。

「……そうですね」

 ヤカンを受け取り、湯をカップに注ぎながら、随分と昔まで記憶をさかのぼらせる。霞んで良く分からないところも多い、両親がいた頃の話だ。その時は妹の世話をしていたとはいえ、自分にも自分の時間があった。

「……あまりにも小さなころのことは覚えていませんが、妹がいた時には近くの林に出かけたり、両親の聖書を借りて説教のまねごとをしていました。林の中に猟師がたまに使うあばら家があって、そこで、家から持ってきたシーツをかぶって、妹が聖書を朗読したりして」

 自慢をするわけではないが、妹は目鼻立ちも整っていて、人に良い印象を与える顔をしていた。兄の自分の目から見ても、春の暖かな日差しを受け、あばら家の古い床に真っ白なシーツを引きずりながら優しげな笑みを浮かべる幼い少女は美しいと思ったほどだ。

 コーヒーの黒い水面を眺め、ため息をついた。あまり家族の話をするのは得意ではなかったが、話を始めたのは自分でもあるし、なぜか今は思い出すこともあまり苦しくはなかった。

「……ロイさんは、どうだったんですか」

 ヤカンを元あった場所に戻し、コーヒーをすすりながら、興味本位でわいた疑問をそのまま口にしていた。


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