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Re: 【中文推奨】かみさまのラルム【参加者募集】 ( No.58 )
日時: 2018/01/21 21:57
名前: 宝治  ◆wpAuSLRmwo (ID: fQkNQwJA)

【青の氷原/ゼフィール】

雪がほとほとと落ち続けている。
昼の間わずかに差し込んだ陽の光は瞬く間に厚い雲に遮られ、辺りは心に沁みる静寂さと生を奪う冷たさで満たされゆく。
ゼフィールは手頃な氷塊に腰かけて、先ほど切り出されたばかりの巨大な氷柱が作業者達に引きずられてゆく様をぼんやりと眺めていた。
――あれは、気泡が閉じ込められておらず、ひび割れも見当たらず、素晴らしい状態を保った氷柱だった。きっと良い値で売れるだろう。
氷柱は一旦倉庫に保存され、機を見計らって貿易商と共に船で海を渡り、ローズナ大陸にて卸される。作った金はそのまま大陸で肉と穀物に替えられこの島へと戻ってくる。
ただの氷のかたまりがディナーになって自分のテーブルの上まで這いあがるというのは、よく考えればどこか滑稽な気がした。

ゼフィールはここで監督者をしている。
監督というと何か小難しくて責任の重い役職な印象があるけれど、実のところはそうでもなくて、無限に広がる氷原の白さを眺めて日がな一日あくびを浮かべることが主な役目である。
仕事らしい仕事といえば、せいぜい氷柱を切り出すエリアの指定と得られたモノの品定めくらいだ。その他定常時の判断は作業者各自に委ねている。
なんせ何千年も何万年も氷を切り出す作業に従事している彼らである。今更ゼフィールが張りきったところで何かが変わるわけでもないのだ。
必要なのは寒さを厭わない無頓着さと、氷柱に不必要な思い入れをしない無関心な心。それがあれば誰だってここで監督者になれるだろう。

横たわる無数の氷柱に向かって、ゼフィールは時々こうつぶやくことがある。

「はやく溶けてしまえ」

ここまで無関心なのは珍しい部類なのかもしれないが、彼にも彼なりに思うところはあるのだ。
(液体にも気体にもなれるのに、ここの氷柱ときたら文字通り堅物で、同じ場所で同じ形をして、何万年いや何億年とすまし顔を決め込んでいる。)
(はやく溶けて自由になってしまえ。)
(水になった体で気まぐれに世界を巡るといい。僕にできないことを存分にしてくるがいい。)
ある一滴は海に還って、ある一滴は空に還って。氷原ここに戻るのはいつでもできる。
雪がほとほとと落ち続けている。
それは世界中を巡って氷原に帰ってきた一粒なのかもしれない。
そんな想像を膨らませながら、ゼフィールは遠くへ運ばれてすっかり小さくなった氷柱をぼんやりと眺め続けるのだった。

***
「みんな、今日はこれで引き揚げよう。雪が強くなってきたからね。めいめい塔に戻って体を温めること」
監督者の指示に対してどの作業者の顔にも一様に安堵の表情が浮かんだ。ゼフィールは少しだけ笑う。
雪と氷に晒されて凍えながら仕事をする者達にこそ、暖かな場所で恋人や友人との語らいが必要だ。
暖かな場所――でゼフィールが思い出すのは、あの人とあの家の存在だった。そういえば、顔を合わせずにもうどのくらい経ったのかしら。
会おうと思えばいつでも会えるという距離感が逆にゼフィールの足を鈍らせている。
「……それから、今日は久しぶりにいいモノが切り出せたから、明日と明後日は休みにしようよ。きっとそれがいい」
ゼフィールは気まぐれな一陣の風。久しぶりに氷原の外で吹いてみるのもいいかもしれない。

【というわけで、若輩者ですがこれからよろしくお願いします】