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Re: 放課後オカルティカ ( No.17 )
日時: 2018/05/05 23:38
名前: 荏原 ◆vAdZgoO6.Y (ID: 2rTFGput)

 それは五月の末の頃のこと。もうすぐ始まる梅雨と言う季節をどこか期待しつつ、図書委員の仕事に励んでいた時の事であった。
 ──イユちゃん、イユ先生、と図書室に声が走る。その声の主は、カウンターで本を読んでいた彼女──古版こはん伊悠いゆうに対し話しかけていた。呼ばれた伊悠は意識外からの声にすこし肩を震わせつつ、返答をしようとする。
 だが、

 帰るとき下駄箱に紙が、恋文、果し合いの申し込み……でもなく、中身は彼女も理解できない怪文書だった。しかもそもそも彼女は読めてすらいない。
 そして、読めないと分かってていながら伊悠に対して彼女は不完全な音読をした。
 この怪文書の謎を解き明かしたい、力を貸して。
 全て、伊悠が反応を返す前に言い切られた。

「…………うん」

 一分程喋られた後に、彼女はその二文字だけを返した。
 捲し立てられた、もう見事なほどに完膚なきまでに。彼方が百を喋り、こちらは一も喋れていない。元々伊悠は早くしゃべるのは得意ではないが、この友人──自称探偵倶楽部部長、垣戸がいど了子りょうこの盛り上がり用は少々異様だった。
 さて彼女はそれに対して答えるか、と言われたら本来noである。単なる怪文書なだけであればそこまで知識欲も刺激されない。本は命よりも大事だが、そもそも紙一枚は本ではない。
 だが、だがどうしても了子の言葉の中で気になることがあった。

「(よるがほ……昔の仮名遣いなら、読みは)──ヨルガオ?」

 その四文字、たったそれだけが彼女の知的好奇心に火をつけた。
 椅子に座ったまま手を伸ばし、了子の持つ紙を取る。
 酷く古びて、色あせた紙。その状態と文字の掠れ具合から言って、元号を跨いでいても何ら不思議ではないほど。
 益々興味がわいた。怪文書などと言われ、てっきり新聞の文字でも切り貼りしたものかと思ったが、そういったものであれば伊悠にとって垂涎の一品である。

「(……文に違和感はない。不自然に多い文字……空白……どっちもない。普通に訳すなら、こう?)」

 手元にあったメモ用紙を取り出し、怪文書の内容を書き記す。難しい漢字があれば了子のため、一応ふりがなを振った。

『御存知でしょうか。
今日、我々われわれは新たな学友を得ました。大変 よろこばしきことです。
きっと仲良くなれますし、私もそれを強く望んでおります。
しかしながら、この学園には不埒ふらちやからが多い事もまた事実。
助け合いの精神せいしんで、あの子をまもってあげましょうね。
                                ヨルガオ』

 伊悠はここまで書き記し、首を傾げた。意味は分かる。だがどうしても、理解が出来ない。新たな学友とは転入生でも来たのか。仲よくしよう、けど悪い子もこの学校には多いからその子を守りましょう。
 意訳しても全くと言っていいほど健全だ。昔の教師が子供たちに当てた手紙、そう言われれば少しも不思議に思わない。
 だが、だが、合わないのだ。

「ヨルガオ……」

 その四文字は、この学園ではおいそれと口に出してはいけない。そもそも知る者も少ない言葉だった。同時に、伊悠はそれを知りたがっている。噂だとは知っていても、全てを知ることはできないのは非常にもどかしかったからだ。

 曰く、旧制服を着た女学生。
 曰く、この学園が創立して以来より語り継がれる存在である。
 曰く、呪い、或いは祟りを起こせる者である。
 
 伊悠がこれまで得てきた少なくも確実な情報と全くと言っていいほどかみ合わない。そもそもなぜこの紙が友人の下駄箱に届けられた。
 何度じっくりと観察しても、その紙は古くに書かれたものだ。いたずらにしては手が込みすぎている。

「……(了子に渡した人は、了子に何をしてほしい? 手紙の意味だけなら、新たな学友を守ってほしい。けどそれなら態々了子じゃなくても……違う。
了子に渡して、困った了子が私や有栖に渡すことを狙った?)」

 いくら考えても、彼女は結論を出せない。何せ知識をもとに解読しても、それが答えとは到底思えないから。
 思考は続く、深く、深く……。
 数分ほどたち、彼女は一旦それを打ち切りこう言った。

「……とりあえず、新たな学友探そ」


【前話:>>14
え、えーとこんなんでよかったんですかね?
すっごい不味いミスしてるとかあったら手直し全速でさせていただきます!】