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>>61

涙が止まるまで、いや烏兎は涙が止まっても彼のことを抱き締めていた。
やがて、彼が語り始めた内容を静かに聞いていた。
彼女は何個かの言葉に反応を示したが、何も言わずに彼が全てを言い終わるのを待った。

「ええ、私があなたを守ってあげる。結して殺させたりしないから。」

彼の言葉にそう答えた彼女が一番己の言葉に驚いていた。
結して、彼のような境遇の者は珍しいわけではない。
それが、戦争の悲惨さである。
だからこそ、彼女には彼を助ける必要がなければ、むしろ彼のような者を助け続ければ逆に彼女自身を生きていけなくなる。
彼女は正義に忠実な人物ではない。
人を殺すことも出来るし、したことがある。
勿論長く生きていれば彼のような者に会うこともあった。
しかし、彼女は彼のことを助けたいと思った。
そのことが彼女にとって不思議で、驚くべきことであった。

「全く、私も変わったね」

彼女の本心からの言葉は彼に聞こえるか聞こえないか程度の小さな声だった。