オリジナルなりきり掲示板

Re: 太陽が死んだ【募集中】 ( No.75 )
日時: 2019/08/04 14:41
名前: 榎@ENOKI (ID: l1OKFeFD)

>>74

(/課題やら何やらに追われていたら気づけば半月も放置しててすみませんでした……!各々の都合も色々あると思うんで、よほどのことがない限りリセット等はしませんので気になさらないでください!でも長いこと待ってて寂しかったのでくそなが長文で返しますね



空になったグラスをテーブルに置いて、ナーシャの言葉を黙って聞く。何も知らない人たちが付けた彼らへのあだ名に触れたので「ええ、あまり喜ばしくはないですよね……」と相槌をうつ。専門外の人からの意見をこうして直接聞くのは初めてのことだったからナーシャの表情や目の動きを注視する、なんてことをしていたことに僕自身が気づくのはその直後だった。
ナーシャの意見を頭の中で咀嚼し、これ以上得られるものはないだろうと結論づける。このままだと彼らのプライバシーに踏み込みかねない。地方部で彼らの情報が出回ってからなら、多少変わってくるのだろうか。
ふと、政府の人たちと会議し終えた養父の姿を思い出した。やらなきゃいけないことはあるのに踏み出せないもどかしさを表情にたたえて「この歳になってもまだ馬車馬か……」と愚痴をこぼし、ソファに深々と腰を沈めて顔を掌で覆う姿を見たのは、その時が初めてだった。シルバーグレーの髪と口髭が様になっていて、歳なんて関係ないとばかりに昼夜研究をしてスーツでも構わず動き回るような活発な人だから、驚きのあまり「あなたのような人でも疲れることってあるんですね」と思わず言ってしまったのだ。彼は乾いた笑い声をあげて「いくら重宝されても、私たちに主導権はないんだ。君もいずれわかるよ」と、日焼けした手で僕の頭を乱雑に(今思えば彼なりの仕返しだったのかも)撫でた。養父のように、何某かに雇用されている立場にいるなら多少の制限はやむを得ない、ということだろうか。……彼の言い草に合わせるなら御者と馬車馬の関係だから、多少どころか絶対的な従属で雁字搦めかもしれない。いやいや、さすがに、馬車なんて、非効率的なものなんて、このご時世にそんなことは……。

変わらぬナーシャの優しい言葉にどう返答したらいいのか思いつかず、とりあえず笑顔を浮かべてみせた。僕の許容値をぶち破ってもなおこぼれ落ちず満たさんとするものは、僕の脳漿になるのだろうか、それとも僕の脳を溶かすのだろうか。いや、僕そのものを包み込むつもりか……。
僕を優しく握りしめる掌の中で、ぬくもりと、平たい部分から細長く分かれた指が今も僕の体に触れている様子を、意識する。ひどく緩やかな曲線で構築された凹凸が強力な接着剤で繋がってほしいと思った。いつでも離れるはずの凹凸が離れないまま、二度と向こうの景色が見れなくなるかもしれない恐怖感がいつのまにか僕の奥底に鎮座しているのに気づいた。
矛盾してる。本当はどっちなんだろう……。
ナーシャのような人とは多分今まで一度も接触したことがない。初めて体験したことだから、躊躇いとか戸惑いとか、そういうものが起因してるのかもしれない……。それならばいずれ解消されるに違いない。これ以上考えるのはよそう。


視界の端から白いソーサーとティーカップが姿を現し、考え事から意識が戻ってハッと息を飲む。視線を上にやると店員がいたので慌てて軽く会釈をする。
コーヒーの香りが満ちる店内でも、注文したアメリカンコーヒーの匂いを確かに嗅ぎとった。喫茶店などでたまに飲むけど、香りなんて意識したことがないのにも関わらず(アメリカンコーヒーの香りだ……)と直感でわかったのが可笑しかった。まじまじと黒い水面を見ていると、注文の品を持ってきた店員がお冷のお代わりを聞いてきたので何も考えず「お願いします」と言う。
無駄のない動きで空のグラスに注いでから、店員は「ではごゆっくりお寛ぎ下さいませ。」と一礼して去った。
その後ろ姿を一瞥してから口を開く。
「僕ばかり話すのもなんですし……ナーシャの話、よければ聞きたいです。この辺のこととか。観光する時間もあまりないので……そういえば、土地を買うって言っていてましたよね、何か建てるんですか?」