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【流/百鬼夜行通り】

「ふふ、ここの空気は気持ちいいねぇ」

　百鬼夜行通りを、彼は歩く。
　ずっとずっと夜のこの町。それは確かに落ち着くけれど、しかしどこか退屈で。
　夏の暑い空気を胸いっぱいに吸い込みながらも、彼は呟く。後ろで括った髪が風に揺れた。

「現世、ね……」

　それはいつか憧れた世界。しかし嫌な思いを味わった世界でもある。
　そこから逃げて帰ってきた。今もまだ憧れはあるが怖さもある。

「朝と昼と夜……あっちは時間ごとに、綺麗な景色が見られたっけなぁ」

　こことは違って。

「……まぁ、いいか。ここも好きだし」
　
　彼は何ともなしにぶらぶらと歩く。歩くたびに、履いた下駄がカランコロンと音を立てた。
　手に持ったヤツデの葉でぱたぱたと自分をあおぐと、やや強めの風が吹き付ける。風に通ずる天狗の、ちょっとした小技である。

「さぁて、今日は何をしようかな？」

　通りを歩きながらも、大きく伸びをした。
　その瞬間、突如強い風が吹き、ヤツデのうちわが手からすっぽ抜けた。今の位置からは簡単には届かない場所だ。困ったなぁと苦笑いし、
　思わず声を出す。

「おーい、誰かー！　私のうちわ、拾ってくれないかい？」