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Re: あわいをうつろう小舟に揺られ [いちいち・指名制][4/5] ( No.44 )
日時: 2021/01/23 06:39
名前: ヨモツカミ (ID: joMfcOas)

>>40 心ちゃん
(またねむねむ……誤字とか探してられなロホロ)

「……そぷら、きみも悪くないよ。……わたしにきみを責める意図なんてなかったから、わたしは大丈夫だから……ッ」

 ハッとして、そぷらは慌てて涙を拭い、首を横に振った。
 違う。あなたに傷付けられたから泣いたのではない。あなたが救われないのが、救えないのが、自分の無力さが悔しくて泣いたのだ。
 だから泣かないで。そう言われて、彼女の手が一瞬そぷらの頭部に伸ばされたのに、引っ込んでしまったのを見て、緩く笑う。
 大丈夫だなんて言う人は、みんな大丈夫じゃない。
 音羽はまた、自分の中の何かを噛み殺して、そういう言葉を紡ぐんだ。狡い、と思う。確かに、こうして偶然出会っただけの。ほんの少しの会話しかしてないそぷらに簡単に心を開かないのは、当然かもしれない。でも──もう、そぷらにとって、音羽という存在はどうでもいい他人ではなくなってしまっていた。だから、彼女の心を救いたいと思うのに、音羽自身が「大丈夫」という言葉で蓋をして、そぷらから身を隠すのだ。
 二人して泣いて、悲しみを共有した気になって、でもきっと音羽の涙とそぷらの涙、理由は違うのだろう。上手く近づけないなあ。そう思いながらも、音羽の顔を見た。泣いていたことなんてなかったかのように振る舞って、彼女は笑っている。

「フレンドは友達って意味のことばだったか? それ以外はわからないな……きみたちの世界の本とかそういった類いのものに出てくる言葉なのかい、それは。だけど意外だ、そぷらはそういうものよりも友達と遊ぶのが好きなタイプだと思っていた」

 あ。
 ぞく、と血が凍りつくような恐怖を覚える。指先が震えた。
 気持ち悪いオタク。根暗。コミュ症。過去に突きつけられたそんな言葉が脳裏にチラついて、血の気が引いていく。なのに、表情は笑顔作ることに慣れすぎてしまったから、薄く笑っている。
 決めつけるのは良くない、と言った彼女に対して、いやー、えへへー、まーね。適当な相槌を打って誤魔化して。それで取り繕って自然に流す。
 大丈夫、ウチはいつもどおりに振る舞えているから。
 まだ若干涙の余韻を拭いされていないように見えたが、音羽は続けて言った。

「そうだよな、子供は親の道具じゃない……わたしにも友達がいた。だから、わたしは大丈夫だ。わたしを天音から音羽にしてくれた、大切な友人がいたから」

 また、大丈夫という言葉を使う。そこに引っかかりを感じつつも、少し気になっていた名前のことを聞かせてくれた、と気付く。天音という名前を捨てたなら、音羽という名前はどこから来たのか。それが友人から与えられたものなのだとしたら──音羽には、音羽を救ってくれる友人が、ちゃんといたのだ。ならば、本当に大丈夫なのかもしれない。そぷらとは違い、そぷらが手を差し伸べなくとも、彼女は……。
 自分と音羽はよく似ていると思っていた。けれど、違うのかもしれない。そぷらにはそぷらを救おうとする友達なんかいなくて、でも音羽にはいるのだから。
 新しい傷が刻まれる。痛いとしても、声にしなければ、血は流れ続けても、我慢できる。その裂傷を見ないふりして、隠してしまえば、そのうち勝手に血は止まるのだ。だから大丈夫なのだ。

「……へえー、音羽が大丈夫だって言うなら良かったよ。良い友達なんだね。どんな人なん?」

 今、いつもどおり上手く笑顔を作れているだろうか。声は震えなかっただろうか。
 気持ちの悪い自分なんか、殺してしまえ。ネトゲ廃人とか根暗とか、キモいから消えてくれ。服の裾を強く握って、自分の中の何かを傷付ける。また新鮮な痛みが襲うのを、ぐっと堪えた。