オリジナルなりきり掲示板

Re: 徒桜バーコード【〆切り】【色々書き足しました】 ( No.33 )
日時: 2021/01/12 17:01
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)

>>31続き

 「うん、お利口さんだね」
睨み付けてもびくともせず、彼女は笑みを浮かべ僕を撫でようとした。その瞬間、斬りつけてやろうかとも思ったがすぐに手を引っ込められ何だか残念なような、感じがした。

 今は何にしていたっけ、と言う言葉からこの少女はたった一つの名前を大切にしていないのか、と少しだけ怒りを感じけれども変えなくてはいけない何かがあるのだろうと胸を撫で下ろす。

 エルファバとロストに嘆息交じりに教えられ少女は大したことでもなさそうに此方に言ってくる。本当に何なのだろうと緊張していたこっちが変な気がし、軽く呆れてしまい眼を逸らした。
 目を剥かせたのは逃げてきたことを知っている、そして施設の人間よりも先に保護が出来る、と言うことだった。
安全が彼女等と居れば約束されているのならば飛び付きたいと素直に思うが反面、怪しいと何故強くもない〈能力〉を持ちただの群青バーコードにそれだけしてくれるのだろうと訝しんでしまう。

 ――――――「お名前は何て言うの?」
あなたって呼び続けるのも不便。だから名前を教えろ。
教えたくても教えられる名前もない自分にどうすればいいと言うんだろう。あいつが付けた名前だなんてとっくのとうに棄てた。研究員やつらに呼ばれていたものなんて番号だ。
でも、今の自分にはこの番号しか呼び名はないと思い、口を開いた。
 「………248、それが僕の呼び名。名前は、無い」
ぐしゃ、と土を掴んでしまい。
たった一つの自分だけの名前も無いなんて自分は何て空っぽなんだろうと寂しく胸に浮いた虚無感が襲い掛かって来るのを抵抗せず僕は、受け入れていた。

Re: 徒桜バーコード【〆切り】【色々書き足しました】 ( No.34 )
日時: 2021/01/12 19:09
名前: ヨモツカミ (ID: uh7M8TG/)

紫月さん >>33続き


「………248、それが僕の呼び名。名前は、無い」

 その言葉に、エルファバは目を丸くする。そうか、施設で育てられたバーコードは、基本的に番号を振り分けられる。名前を持たない者だっているだろう。

「……そう。私と一緒だね」

 エルファバが、少年の前で微笑むのをやめたのは、その一瞬のみだった。声のトーンにも、先程までの不気味な朗らかさは含まれていない。それに少年が気付くことができたかは定かではないが、少なくともロストはわかってしまった。
 名前というものの価値をよく理解しているヒトだからこそ、感じるものがあるのだろう。誰かが呼ぶことのできる、その音の並び。そこに込められた願いや感情。それが存在しないことの空虚。
 エルファバ、なんて。偽名を用いることしかできない彼女にも、いつか真の名前が与えられれば良い。ロストはエルファバのうしろ姿を見守りながら、そんなことを考えていた。

「本当はね、誰でも良かったの。あなたである必要も無かったし、他の誰かである必要もなかった。……でも今、思った。あなたがいいって。なんだな、運命めいたものがあるような。そんな気がしたから」

 名前を持たぬ者同士。たったそれだけのことに、彼女はなんて大げさな言い方を、とロストは思う。彼女とずっと共に行動してきたロストだからこそ、その言葉の裏を勝手に想像して、嫌気が差した。
 きっと、248と名乗った少年のことなんて、どうでも良いと思っているくせに。ヒトの心を掌握するためには、大袈裟な言い回しが必要だ。だからどうせ、エルファバの言葉に感情は伴っていない。そういうヒトなのだ。なのに、運命などという言葉を使って、幼気な少年の心を弄ぶ。実に“死神”らしい。人間の良心なんてものは等の昔に失っているのだ。
 そうだとして、ロストがそれを勝手に248に伝える気は無いし、ロストにとっても248のことがどうでもいい存在であることは同じだった。何れ避けられない別れがくるのなら、何かしらの感情を抱くことは苦痛だから。ロストは少しだけ哀れみつつも、少年の気持ちについては深く考えぬようにする。

「ねえ、248番君。もしあなたが嫌でなければだけど、私があなたに名前を与えてもいいかな?」

 エルファバはそう言って少年微笑みかけ、

Re: 徒桜バーコード【〆切り】 ( No.35 )
日時: 2021/01/13 18:04
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)

>>34続き

 「……そう。私と一緒だね」
その言葉に、僕は顔を上げていた。薄っぺらい笑っているようで笑っていない表情を浮かべていたエルファバが微笑みをやめていた。哀し気な、何もかも吹き飛ばすような朗らかさなんて、一切なかった。
 掴んだ土を手から零していた。
 親に、誰かに愛された者が特別に貰うたった一つの一生残る宝物。カッコいい音の並び、可愛らしい名前。神に愛される、だとか信仰だとか素敵な、目を惹く名前。込められた感情や願い。
 
  一つだけ、それだけが欲しいだけなのに。手に入らない哀しさ。ぽっかりと開いた空虚。
エルファバ、はやはり偽名。けれども。偽名があるだけでも良いと羨ましく思う自分が其処にはいて、彼女なりの葛藤があるはずなのにも。辛いと思うのにも。
 「本当はね、誰でも良かったの。あなたである必要も無かったし、他の誰かである必要もなかった。……でも今、思った。あなたがいいって。なんだな、運命めいたものがあるような。そんな気がしたから」
僕が良い、と嘘でも言うこの女が。
 僕は、嫌いだ。
 「………うんめい、か」
大袈裟だ。大袈裟すぎる、脱走したのが僕であって企てていた奴らもたくさんいる。
これだからヒトはヒトって奴は、信じれないんだと。
実の親に裏切られてから考えてきた。研究員も、先輩も後輩も。全て信じられないと。

 何時か裏切られる。

 じゃり、と土をまた掴み、乾いた笑みを浮かべていれば。 
 「ねえ、248番君。もしあなたが嫌でなければだけど、私があなたに名前を与えてもいいかな?」
優しさには毒がある。エルファバの微笑みの下には何が隠れているんだろうとぼんやり思い。

 嗚呼、誰かに裏切られるくらいなら。僕が、反対に、僕が裏切る側になろう。


 「………嫌だね、名前は僕にとって大切で特別な宝物なんだよ……って言いたいところなんだけど不便なんでしょ? いいよ、与えて」
そう決めた瞬間、何時も通りすらすらと言葉が出て来てさり気なくホッと一息吐く。
エルファバに微笑して見て。