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Re: 徒桜バーコード【〆切り】 ( No.49 )
日時: 2021/01/19 20:06
名前: 紫月 ◆GKjqe9uLRc (ID: w1UoqX1L)

>>46続き

 自分が愚かだと言うロストは短く笑う。

「……名前。お前はあのヒトに名前をもらう約束をしていたな。忠告しておくが、多分あのヒトはとても真面目にお前の名を考えて、与えて、我が子のように可愛がるかもしれない。それでも絶対に、あのヒトの中に愛なんて無い。お前を駒として扱うだけなんだ。あのヒトがどんなにお前を大切に扱っているように見えたとしても、騙されるな。あのヒトは誰も愛せないし、切り捨てることに迷いがない。あのヒトに少しでも情を抱けば、苦しむのはお前の方だ」

僕は小さく息を呑んだ。あの女には期待なんて微塵もしていない。笑顔も悲しみも何もかも知らない嘘だらけのあの女に、愛される気も可愛がられる気もないのに苦しいのはどうしてだか。
僕がその意味を知ることなんて出来ないのか。
ああ、虚しいんだ。
気付いたら僕は無意識のうちに手を強い力で握り締め、その力を緩めを繰り返していた。顔を俯かせればすっと口を開く。
 「僕が駒として扱わせられる? 笑わせるな」
その言葉に怒気が籠ってしまったことに内心驚くが気にせず淡々と続けた。僕は俯かせた顔を上げればロストのはっきりとして見えなかった吸い込むような、真っ黒い双眸が顕になっていた。思わず眼を剥いてしまうがこの女は翡翠バーコードなのかと解釈する。
 
 翡翠バーコードの、欠陥。彼女にとっては瞳が、そうだったのか。
一般的には不気味とされているが、だから何なのだろうか。
僕は“普通”じゃない。カイヤナイトとしてあるまじき行為を犯した。脱走兵になってしまった、待遇に耐え切れず、訓練が嫌でヒトが嫌いだから。
 翡翠バーコードに欠陥があることは一般的だ。彼女は自分と違って“普通”である。

 「………僕は、一人で生きて行くと決めて脱走して君らと出会った。誰かの駒にはもうなりたくはないから危険を冒してこうやって傷だらけになってでも光を、自由を目指した。それがあの女によって壊され閉ざされるのならその時は、僕はあの女を君を、殺すくらいの気持ちだよ」
優し気に細められた黒い双眸に睨み返す藍色の瞳。強く強く強く手を握り締めていた。爪の形がかたどられるまで。
鋭い痛みに襲われるも顔を歪めずにロストを怖がっては居ないと言うようにその黒い瞳をまじまじと見つめる。

 「ワタシは、あのヒトを愛している。あのヒトの命令なら、なんだってやれる。あのヒトの都合のいい駒でも構わない。そんな思いが……こんなに苦しいなんて、知りたくはなかったがな」
あの女を愛している、か。
その誰かを大切に想う感情が知ったロストが羨ましいと妬んでしまう自分が心の何処かに居る。“あい”とは苦しいのか、痛いのか。その苦しみや痛みまでも僕は喉から手が出るくらい愛しく想う。
ロストが、エルファバが眩しく感じるのは何故だろうか……まあ、そんなことは知る必要なんてないか、今は。

 「………“あい”か…………僕は、一生知ることはないな」
ロストから通り過ぎるように一歩二歩三歩と歩いていけば「そんな感情、此処に売られることを知った日、あの思い出したくもない胸糞悪いあの人間達の家に棄ててきちゃったからさ」と儚げな微笑を浮かべロストへと振り返って見て。

 涙が何故か溢れそうにじーんっと目頭がなったような気がするのは気のせいだろう。こんなこと、棄ててきた筈なのにも。