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Re: 徒桜バーコード【〆切り】 ( No.55 )
日時: 2021/01/23 23:20
名前: ヨモツカミ (ID: 6kBwDVDs)

>>52 黒さん 続き

「……気分はどう?」

 真っ赤な液体をたっぷり染み込ませた服と、同じ色の液体をへばりつけた大きな斧。唯一の友人であるアキが。そんな姿で声をかけてきた。
 ヒオウギはひゅ、と息を呑んだ。
 ああ。疑いや疑問を持つまでもなく、確信するしかない。否定する材料は一つもない。即ち、“アキが僕の両親を殺害した”という事実。
 次に思考するのは、何故そんな行動に出たのか、ということ。ヒオウギは勿論、両親がアキに対して恨まれるような行動はしていない。と思う。そして、アキの人間性をよく知るヒオウギとしては、彼が当然ヒトを殺す理由が思い浮かばない。そう。考えうる限り、アキには殺害動機が無いのだ。
 次に、殺害動機がない人間が、唐突に殺人を犯す理由について思考し──自分がバーコード研究員の息子だからこそ知っている、とある1つの可能性に辿り着く。
 両親が血塗れで死んでいて、犯人が友人だと理解した上で、ここまで正しく頭が回る自分は、冷徹なのか非情なのか。悲しいとか、信じたくない、という気持ちよりも勝るもの。

 アキに、殺されたくないのだ。

 1人殺した人間にとって、2人殺すのも3人殺すのも変わらないと言う。ならば、アキは次にヒオウギを殺そうとするだろう。一応確かな友情があるお陰か、アキは今すぐに襲いかかって来る様子はない。だが、見逃してくれる可能性が限りなく低いこともわかる。そうなると、どうにかして油断させて、先手を打つしか、この状況の打破は難しいだろう。

「アキ、どうして……ッ……なんでこんな酷いことを……君はそんなことをするヒトじゃない、そうだろう? なのに、どうして!」

 哀しみに暮れ、震えた声色。動揺を隠せないような挙動。即興で演ってみたものの、涙は溢れた。それが本気の悲しさから出たものなのか、全力の演技力で生まれたものなのか、ヒオウギ本人ですらわからない。演技だとすれば、僕は最低だな、と蔑みつつ、ヒオウギは少しずつアキとの距離を詰めていく。

「こんなことをするなんて、アキらしくない。……でも、何か理由があるのだろう? 何か悩んでいたのかい? 僕は、君の友人なのに、なのにそんなことにも気付けなかったんだね……。ああ、許してほしいとは言わない。それに君はもう、罪を犯してしまった。これはもう、取り返しのつかないことだから……君が償おうという気持ちがあるなら、僕はそれに協力するし、そうじゃないなら──僕と一緒に、逃げてしまおうよ」

 言葉を途切れさせるな。ヒオウギは必死に脳を回転させて語りかけ続け、ゆっくり、ゆっくりとアキとの距離を狭めていく。間合いを詰めれば、勿論自分の身が危険に晒されるのはわかっているが、流石のアキも、話している途中のヒオウギの頭を突然かち割ってくるとは考えられない。だから必死に語りかけて、油断させる。

「アキ。僕は君の味方だよ……だから、だから……」

 涙で頬を濡らしながら、ヒオウギはアキに微笑みかけた。