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Re: 徒桜バーコード【〆切り】 ( No.63 )
日時: 2021/02/04 22:50
名前: 日馬 (ID: SG60l.ki)

(遅くなって&長くなってしまってすみません!おそらく初回だけなんで!次からはもうちょっと短くなるんで!すみません!)
>>56>>58 続き

「おはようございます、ご主人様」

 皆と声をそろえて朝の挨拶をする。自分は声は平たん、表情は能面のような笑顔で。しかし失礼のない程度のものだから、よっぽど機嫌が悪くなければ叱責を食らうことはないだろう。
 なにやら隣で弟がもぞもぞと動いていた時は少しヒヤリとしたが、運よく気づかれなかったようでそっと胸をなでおろす。
 にんまりと笑う男に心の中で舌を出す。毎朝のことながらこの時間は嫌だ。アイツのガマガエルのような見た目はいつ見ても気持ちが悪い。
 心の中で散々な言葉を吐くカナリアをよそに、男は――カラバッサはいつものように自分たちに鼓舞するような一言を言ったあと、カルバッサの一人娘であるエミーを呼んだ。娘にお人形をプレゼントするのだという。その時すでにカナリアの中で何か嫌な予感がしていたのだが、例のものを、そうカルバッサが言って使用人の一人が連れてきた“お人形”をみて、カナリアは思わず顔をゆがめそうになった。

 使用人が連れてきたソイツは明らかにおかしかった。瞳は濁り切った池のように淀み、光を失っている。それになにより、丈の長いドレスに隠されているがソイツには両足がなかった。それが弟のようにもとからないのか、それとも後から“奪い取られた”のか。
 そんなことはカナリアにはあずかり知らぬこと。だがこんな風になっているヤツをお人形だなんて言って自分の娘に渡すアイツも、こんな姿で生きているコイツも、そして何より同胞がこんな姿になっているにもかかわらずその姿に嫌悪し、ソレが弟でなかったと安心している自分も――。

「(あぁ、なんておぞましい)」

 そんな自分にあろうことかカラバッサは「頼んだ」と言ってとあるものを渡してきた。ヒワやエミーからは見えないように渡されたこの注射器の使い道なんぞ、言われずともわかる。
 自分に打て、と言っているのだ。これを、桜色の髪をした、彼女に。
 思わず唾を吐き捨てたくなる気持ちを抑え、微笑んで

「かしこまりました、ご主人様」

 主人に命じられたからにはその仕事をしなければならない。それがどんなものであっても。
 カナリアは命じられた通り、“お人形”が乗っている車いすを押し、エミーの部屋へと向かいながらも考える。
 ここにいるのはすべて弟のためだ。それ以上でもそれ以下でもない。確かに、カルバッサの言う通りに過ごしていればご飯が食べられてちゃんと清潔な寝床がもらえる。だけどカナリアにとってそれは全く価値がないものだった。同胞が傷つけられいつ我が身に降りかかるかという綱渡りのような日々は着々とカナリアの心をむしばんでいく。
 しかしそれでも心を壊すこともなくここで踏ん張っているのは、弟がつらい思いをしないから。弟がご飯を食べておいしいと微笑むから。苦痛に歪む表情ではなく穏やかな表情で弟が眠れるからだ。

「(じゃなきゃ、誰がこんな場所……!)」

 その時、エミーが笑って話しかけてきたことで一気に思考が現実に戻ってくる。何を考えてるんだボクは。
 エミーの笑顔を見ていると、少し困ってしまって何も言わずに微笑んで彼女を見た。

「(ボク、コイツちょっと苦手なんだよなぁ)」

 それはカルバッサのように憎しみが入り混じったものではなく、どうすれば良いのかわからないといった意味合いが強い。
 一時、エミーは能力によって自分に魅了された状態にあった。常ならば能力が切れた後カナリアを拒絶し離れるか、それをきっかけにずるずるとカナリアへ堕ち、まがい物の愛を嫌悪するカナリアは拒絶するかの二つなのだが、彼女は完全に堕ちることはなく、また能力が切れたにも拘らずこのように笑顔で話しかけてきた。
 今まででこのような反応をとられたことがなかったカナリアは完全に混乱していた。彼女に対する気持ちを一言で言うなら――

 “何コイツ怖い”

 である。
 だからあとからやってきた可愛い弟に会話はすべて任せ、カナリアは必要最低限のこと以外はしゃべらずただひたすらに車いすを押し続けた。