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Re: 【質問・ご意見】専用スレッド・10コ目 ( No.924 )
日時: 2016/10/05 10:01
名前: 副管理人 ◆qMxJS2Fu4U (ID: QYM4d7FG)

(念のためのコピペです)

■藤尾F藤子さん分

鹿児島市中を、甲突川の上流に向かい殺華(さつか)が泣きながら歩いている。行き交う人々は、皆、官軍の隊服を着た牛肥塗れの少女を見るや否や道を避ける。この、薩摩の精神的支柱であり、当時日本国では維新三傑の一人であり代表的な英雄仁者たる西郷隆盛を破った官軍の服である。
 この国では、この時代に『大将』と言う言葉は軍事的階級ではなく、西郷を表す言葉であった。だから、薩摩、鹿児島市中では、当然のごとく誰もがこの少女に関わりを持ちたがる筈もなく、年若な者達からは、罵声と共に石も投げられた。

「うわぁぁん! 止めてよぉぉ」

 殺華は、トコトコと方々で逃げ回りながら、市中の外れにある山中に入る。

「うぇぇぇっ、痛いし、臭いよぅ……石つぶてが頭に当たったんだよ、今日は散々だょ」

 鬱蒼と茂る山の中、時刻は申の刻、暮六つ。今の時刻では大体午後17〜18時といったところだろうか。逢魔が刻か、黄昏刻か……

 逢魔”アウマ”が刻は……”魔”と遭う刻。 
 黄昏”タソカレ”刻は……”タレ(誰)ゾ”と遭う刻。

「すっかり日が暮れてしまったょ……お腹へったなぁ。どうせ今日もたくあんと汁だけだろうなぁ」

 殺華は、茂みの中の道無き道を文句タラタラと草木を掻き分け進んで行く。しばらく進むと踏み固められた路に出た。

 付近には、九州地方の低地の森林に群生している、ユスの木が一面生えている。灰色の樹皮が、夕焼けに照らされて燈色に染まっている。その林床に葉蘭が寄り添う様に茂っている。時折、殺華は足元にほんのりと咲いている野生の鈴蘭やツツシシャクナゲを見つけると、その都度しゃがんで興味深げに鑑賞してしまい、時間を食ってしまう。

 もう、辺りはすっかり夜闇の中である。

 その時、林の中で影が動いた! 黒い、大きな群れ。

「!!」
 殺華は思わず、林の陰に身を小さくして伏せる。
 すると、その影が幾つかに分かれて路に雪崩れ込んできた。

「誰かいたか!?」
「いや、いない……ムジナかなにか、じゃぁかか?」

「いんや……居る。人だぜ? 何か肥の様な臭いがする。農夫なら農具を分捕って殺しゃァいい」
 一人だけ髷を結っている男が言った。元は何処かの下級の侍か何かであったのであろう。大抵こういった輩が盗賊に走る。江戸でも、盗賊の多くは市民農民よりも、下級の旗本の息子などが占めていたし、京都でもその日の金が無くなると、下級の公家などは押し借り強盗を働く者が多かった。特に幕末に幕府が困窮すると、そういった事が頻繁になった。赤坂見附の歩兵の駐屯所は兵を養いきれず、多くが放逐されたが、この当時の歩兵は食い詰め者の不浪人や足軽、軽輩である。そういった連中は全国に散り、暴虐を働き市民や幕府、後の新政府をも悩ませた。
 
 見知らぬ十、四五人の集団。抜き身の刀を手にしている。その身なり素振りから見て追い剥ぎや盗賊の群れで間違いない。何処と無く粗野で血生臭い……
 殺華が、先程訪ねた肝付邸の兵児二才(へごにせ)の暴気者(ぼっけもの)達とはまた違う、何処か卑屈で残虐な臭いを感じる。この連中は、容赦無く誰彼構わずに奪い、殺すだろう。当然、女ならば強姦され倒した挙句、何処かに売り飛ばされる。

(あひゃあああ、あ、あれは洒落にならない相手なんだよ!!)
 
 殺華は、木陰に身を隠しながら様子を見ている。今、殺華には官軍時代に支給された刀も新式鉄砲もない。何より、この時期の殺華は撃剣などまだ習っていないのだ。

(あわわ、こわいよぅ……)

 殺華は、身を震わせる。仮にも、機智家配下の傀儡人形”殺女”に於いて”殺”の銘を受けた殺華ではあるが、殺華は幕末京都に於いては潜入を、鳥羽伏見、戊辰戦争は、戦場でほぼ遊んでいたに過ぎず、特にこれと言う戦果など挙げてはいない。ただ、銃を撃ち鳴らして、騒ぎながら走って、使えもしない刀を振り回していた様なものである。それでも、殺華は不思議とヘラヘラと生きて帰ってくるのだ。
 官軍、東征急先鋒長州諸隊、遊撃隊総指揮の殺死丸(あやしまる)は、戊辰戦争以前は長州と京都を飛び回り多忙を極めていた。その為に、殺華には、ロクな修練も面倒も見てやる余裕はなかったのだ。歳の近い姉妹である殺目(あやめ)も、尉官の為に他の殺女兵の指揮等に手一杯だった。

 殺華は、西南戦争でも突撃と同時に西郷私学校党軍の砲兵隊に射撃され、出遅れた為に何が何やら解らずに抜刀突撃し、薩摩斬り込み隊に刀をへし折られ、逃げ回りながら銃を撃ち尽くし、捕まってしまった。殺目などは、総身に傷を負い、まるで血だるまの様になって捕虜になった。殺華は左目を失ったものの他は割と軽傷であった。

(こ、今回だって、きっと切り抜けられるやい! 逃げるぞ……)

 しかし、殺華が身を動かそうとした瞬間、足元で小枝が鳴った。

「いたぞぉぉ!! 切り殺せェや!」
 野盗が二人、先立ち駆ける。

「ひぃやぁぁ!! 馬鹿馬鹿、僕の馬鹿っ」

 殺華は足元を怠った。恐怖でこんな基本すら忘れていたのだ。

 駆ける、駆ける。
 殺華は、比較的基本運動神経は良い。しかも、ここ最近は毎日山野を駆けずり回っている為に、足腰は自然と強くなる。歩く量などは一般の人間とは比較にならない距離である。

 しかし、此の時代、今の様に歩道が確保されている訳ではない。山野の路などは尚更にである。

「あっっ!!」

 殺華は、駆ける足元に何かを引っ掛け転倒する。常人よりも速度が上がっている為に、転倒の衝撃もそれに比重される。

「うぎゃわわわんわわん!」

 殺華は、転がりながら、赤樫の幹に叩きつけられた。
 目を回す……何処が何方か解らない。ただ分かっているのは、もう辺りはすっかり夜なのだ。

 助けなど、誰(タレ)ゾ来よう筈も無い。森の闇……
 息を切らしながら、遅れて野盗共が殺華に追いついて来た。

「へっ、もう、逃げ場はないぞ?」

 一人の男が言った。
「おい! 此奴、妙な筒袖着ていやがるが、女だぞ。餓鬼だがなぁ!」

「ぎゃははは、丁度良いじゃねーか! よく見りゃ整った育ちの良いツラしてやがる」

「何処ぞの武家の娘……かね?」
 一人の男が殺華の髪を引っ張り上げて顔を見ながら嘲り笑う。

「う、うんん……あゃ!! あわわわ」

「おらぁ、服脱がせ! その筒袖は高く売れるぞ。餓鬼も(副管理人1が削除しました。 2016.10.05)(マワ)した後に商人に売りつけりゃ今夜は上々だ!」
「俺が先だぞバカヤロウ!」

 一人が殺華を殴った後に押し倒す。

「うあわぁぁぁ! この、このっ触らないでよっ! 嫌なんだよ」

「うるせい、ん……何だか臭ぇ餓鬼だな」
「うるさいんだよ! 余計なお世話なんだよ!!」

「馬鹿! とっとと裸にひん剥いちまえよ」

「いゃだょおおおおお! わぁぁぁぁぁ」

 殺華の、ラシャの軍服のボタンが飛び散っていく。

「やめてっ! この服わ……この」

「良い加減に往生しやがれや! メス餓鬼がっ、たたっ殺すぞ!?」

「ひぃ、ひぐっう、うぇぇぇん」
 殺華は、釦の飛んだ上着の前を抑えながら泣いた。
 上から刀の柄が、容赦なく殺華の頭上に浴びせかけられる。


 ガサリ、木の陰から音がした。

 その音を聞いた時、男達が瞬間、その方向に向け一斉に視線を流す。

「誰かいるぞ!?」

「野郎、仲間か?」

 しかし、凄まじい勢いで男達の視線の動いた先とは真反対の方向から何かが来る!

 同時に血の棒が何本が立ち上がる。

 殺華の近くに、何かがボトリと音立てて落ちてきた。
 人間の頭部であるのだが、丁度目玉から真横に断ち割られている為に、殺華にはそれが一瞬何か帽子か被り物が落ちた様に思えたが、人間の頭頂部である。

 次の瞬間には、悲鳴と鮮血が飛び散っていた……

「て、てめぇ!!」

 野盗の一人が、刀を振り被り切り掛かる!
 しかし、それは一瞬として斜めに斬り下されると、下半身を残して、上半身だけが地面へと落ちた。その時、殺華は初めて、その斬り手の顔を見た。

「た、頼母君!!」

 返り血を浴びたその顔に相反した、何処か愛嬌のある笑みを浮かべた頼母壮八であった。

「帰りが遅っで、心配すつっがぞ。殺華さぁ……」

 そう言うと、壮八はまた一人斬り捨てた。