『無限のソラと、タダのカラ箱から』
「ウッソーッ!! マジ!?」
青髪の盗賊、アーケイディアの目の前にあったのは。
「たぬきの宝箱……つまり」
宝箱から、たを抜いて、『空箱』。中身が何も入っていない。つまり、アーケイディアは骨折り損のくたびれもうけというやつだ。
「すんごい宝が眠っているって聞いて、死にそうになりながらもやってきたのにーっ!!」
その空箱を怒りに任せて投げようと、手をかけた瞬間!!
ずももももも………。
「……はい?」
奇妙な煙と、その変な音が途中で。
タカタカタカタカ……と、珍妙な、いや、お馴染みのドラムロールが聞こえてきて。
「ぱんぱかぱーんっ!! おめでとうございますっ!!」
「へ?」
ぱーんと、アーケイディアの頭の上で何かが割れて、紙ふぶきが舞う。
ぴよぴよと、ひよこまで降りてきた。
ついでにしゅるんと『おめでとうございます!』という達筆の紙まで落ちてきている。
「……なに、これ……?」
そして、一番腑に落ちないのは。
目の前にいる男。
何故かサンタさんがよく被る赤いサンタ帽を被り、何故か鼻眼鏡を付けて、クラッカーを鳴らして喜んでいる。良く見るとイケメンのようにも見えるが……。
「おめでとうございます、アーケイディア様。空を司る精霊『カラ』をお呼びいただき、光栄でございます」
「何も私、あんたを呼んでいないけ………あっ」
もしかして、この空箱……と、手に持っていた空箱をまじまじと見つめるアーケイディア。
「そのとおり。その箱を開けたことによりアーケイディア様は、このわたくし、『カラ』を使役する権利を得たのです」
「……いまいちよくわからないんだけど、まあ、その、あんたのいう使役ってのをやったらどうなるわけ?」
待っていましたと言わんばかりに、謎のイケメン(?)カラは、嬉しそうに微笑んだ。
「空にいるかぎり、アーケイディア様は無敵でございます」
…………うさんくさい。
アーケイディアはウンザリした顔で告げた。
「間に合ってます。ではさようなら」
「え!? 契約しないんですか? ねえ、ねえってばーーっ!!」
青髪の盗賊の通り名は、もう一つある。
「触らぬ神にたたりなし、だよねーこれって」
天下一品の逃げ足を誇る、疾風の盗賊という、名が。
「行ってしまわれましたー」
残ったカラは、しょんぼりしつつも、その口元に笑みが零れていた。
このファジカル国では、様々な者達が住んでいる。
竜もいれば、天使もいる。
そして、精霊も。
伝説級の精霊や天使になれば、世界を揺るがす力も持っている。
ただ、その力を得るには、かなりの努力と根性とラッキーが必要ではあったが。
まあつまり、このファジカル国は、俗に言うファンタジー世界であった。
何でもアリの、規格外の。
「で、姐さん。結局、骨折り損のくたびれ儲け、だったわけですかい」
酒飲み友達(兼子分)のモッポと、アーケイディアは酒を飲んでいた。
「そ、もうやってらんないって感じよねー」
ふうっと少し大げさにため息をつけば。
「お疲れやんした。けど、まあ、あそこの洞窟になにもないと知ることができてよかったんじゃ……」
「なんにもなかったわけでもないんだけどね」
ふと思い出す。
カラとかいう、不思議な男。なんか変なことを言っていたが、もうどうでもいい。
とにかく、また新しい仕事を見つけなくては……。
そうこうしていると、どうやら、外が騒がしい。
「なんか外が騒がし……」
アーケイディアは、彼女の持つ第6感で逃げ出した。モッポもそれに気づいて見事に逃げたようだ。現に追いかけられているのは。
「見つけたぞ! 青髪!!」
「うっわー、マジ?」
こっちは少々酔っ払って、方向感覚がズレている気がする。
自分が向こうだと思っていても、それが正しいと言えない所を見ると、やはり、私は酔っ払っているんだと思い知らされる。
建物の屋根を駆け抜けて、下では自警団が私を追いかけている。
嫌な予感がする。
こういうときの予感は、必ずと言って良いほど当たる。
そう、こんな風に。
バアアン!!
「やったぞ! あの青髪をやったぞっ!!」
--------えっ!?
何が起きたのか、分からなかった。
体が浮き上がり、胸が燃えるように熱くて。
下を見たら驚いた。
私の胸は、銃の弾で、真っ赤になっていた。
ご丁寧に、心臓があると思われる、その胸が。
宙に浮かびながら、私は瞳を閉じた。
もう、私は長くない。
なのに……私の瞼の下には、別の何かが見えてきていた。
遠くで、誰かが泣いている。
しくしくと、なぜそんなに悲しむのか。
見ていられなくて、私は声をかけた。
「どうして泣いてるの?」
「ボク、半人前だから、追い出されちゃったの」
小さい男の子。私と同じ髪色の、男の子が泣いていた。
「どうして、半人前なの?」
「……名前が、ないから」
涙を拭きながら、そう私に教えてくれた。
「じゃあ、私が名前付けてあげる!!」
簡単なことだった。
綺麗な髪色。
よく、母さんが言っていたっけ。あなたの髪の色は、空色ねって。
でも、ソラじゃ、ありたきりすぎる。
だから、最近母さんに教えてもらった言葉を、男の子の名前にしてあげた。
「あなたの名前は、今日から、『カラ』よっ!!」
私とお揃いの髪の色が、こんなに嬉しいことはなかった。
そして、彼もすごく嬉しそうに微笑んでくれた。まだちょっと涙の跡が残っていたけれど、本当に嬉しそうに。
----------アーケイディア。
そういえば、さっき会ったあの男。
彼もそういえば、私と同じ、青い色だった……ような気がする。
「………カラ……」
思わず空に手を伸ばした。青い空が見えた。
「アーケイディア!!」
その手を掴んだのは、さっき会った、あの男。
「……えっ?」
「契約を、早くっ!!」
「……そんなこと……どうすれ、ば……」
カラは堪らないといった表情で。
私の唇を奪った。
ドクンッ!!
胸が熱い。
燃えるように熱い。
「空を司る我、カラは、これよりアーケイディアとの契約に従い、アーケイディアを我が主と認めん」
声が聞こえた。心地良い声。カラって、こんなに良い声してたんだ。
それにしても、胸が熱くて熱くて堪ら……。
良く見たら、私を貫いた弾が、宙に浮かんでるではないか!?
「へっ!?」
思わず立ち上がった。
「な、なにっ!? やったんじゃないのか!?」
下の方、自警団達も驚いているようだった。
「……そうね、弾は私を貫いたわ。けど、私の方が『無敵』だったみたい」
側にカラがいた。
「なんだ、あの男は!?」
やっと気づいたみたいだった。
「ねえ、カラ。一つ聞いて良い?」
「なんでしょうか、アーケイディア様」
「この場から、一気に逃げること、できる?」
「お安い御用です」
カラは勢い良く私をお姫様抱っこすると。
「飛びますよ」
空高く舞い上がり、そのまま一気に隣町まで飛んでいった。
文字通り、一気に飛んでいった。
「きゃああああ!!」
息もできないうちに、私は、隣町のどっかの建物の屋根にいた。
「着きましたよ。ですが、あれくらいの輩なら、一気に蹴散らせますよ」
「そ、それよりも息できなかった」
「それは申し訳ないことをしました。ですが、アーケイディア様。空にいるかぎり、貴方は『無敵』。それは空気がなくても、です」
「そう」
なんだか、成行きですんごい力を手に入れちゃった気がする。
「でもまあ、いっか」
ぐっと伸びをして、何処までも続く澄んだ青空を見上げた。
「父さんも空賊目指して、海賊になってたし。父さんがなれなかった空賊になるのも、いいかもね!」
くるりと振り返り、カラに告げる。
「ついてきてくれる?」
「YES、マスター」
こうして、私のとんでもない空賊ライフが始まったのであった。
◆あとがき
まさか2レス使うことになるなんて、びっくりどっきりでした。
一つ前の檜原さんの作品見て、主人公の髪の色を急遽変えたのは、遠い記憶の彼方です(笑)。
とにかく、この作品を作る間に、3作ほどボツにしましたが、それはそれ。
少しでも、読んで楽しんでいただけたのなら、嬉しいです☆
私は楽しかったです♪