【曇天】
人間は死んだらどうなってしまうのか。
お空の上には天使様が住んでいて、死んじゃった人はお空の上で、わたしたちのことを見ててくれるんだって。病気しないように、けがしないように、ずーっと、ずーっと。
幼いころの私は、今は亡き祖母の回答を素直に純粋に受け止め、笑顔で納得をした。祖母はその後、結構直ぐに死んだ。私は祖母が空の上で見守ってくれているんだと、死の意味も理解しないで飲み込んだ。涙一滴も流さずに、死を受け入れたと思い込んで。
人は死んだら空の住人になんかならない。何処にも逝かないし何にもならない。空に天使なんて居ない。
じゃあ、死んだらどうなってしまうの?
答えてくれる人も今はもう居ない。ずっと前に両親が死に、ちょっと前に祖母が死んだ。皆私を置いて行ってしまうんだ。空の上で見守ってなんかいない、私は家族が死んでから病気にもかかったし怪我も数えきれないほどした。
祖母の話を聞いて幼いころに書いた、雲の上にいる祖父や両親や天使の絵を見ていると、胸がきゅうきゅう痛む。喉に何かがつっかえて、目の奥が熱くなる。呼吸が、苦しくなる。
茶色っぽくなったぺらぺらの紙から視線を奥の窓に移す。今日は、雲の後ろに隠れた太陽が白っぽくも黄色っぽくも青っぽくも緑っぽくも見えるような曇りの日。変な空。
死んだら家族に会えるのだろうか。
幼いころの私が描いた空の国を折りたたんでポケットにしまった。回転する椅子を立って、傷だらけの手で扉を開けてベランダに出る。風が無い。いろんな色の太陽が照らしている。
私は扉の方を向いて、ベランダの淵に座る。ちらりと、下のほうに駐車場のアスファルトが見えた。
空を見る。空はこの世界のいいところも悪いところも、すべてを優しく包んでくれている。そんな気がした。
ああ、そうだ。私がこの世界で一番好きなのがこの空だった。長い間黒いアスファルトばっかり見つめて歩いていたから忘れ去ってしまっていた。こんな私さえも包み込んでくれているのだ。
決めた。私、空になろう。
そうすればきっと、何処かにいる家族が見える。
ふっと、風が下からふわりと吹いた。浮遊感と目に焼き付いた太陽の色が残っていた。
白い空に、溶ける。
あとがき
参加する参加する言ってたくせに一度も参加できていなかったです。
第三回にしてやっと参加です、風猫様ごめんなさい。
台詞が一つもありませんね。読みにくい。
書いていて楽しかったです。有難う御座いました。