Re: 第三回SS大会小説投票期間! 2/5~2/19まで! ( No.156 )
日時: 2012/02/24 21:36
名前: アビス

~風を切り裂く者~part1




ここは雲の国『クラウディ』。この空高く聳える国にも人は住んでいる。
ただ一つ、地上に住む人間と違うところがある。それは

「鷹輝(ようき)。水平飛行速度・250㎞」

「すっご~~~い!!鷹輝君!!」

ここに住む人間には皆、翼を持っているということ。
群島のように雲が連なるこの国では、空を飛べないとまともに移動も出来ないのである。

「250㎞だと!?くそ~~~~~!!さすがだな、鷹輝」

「そんなことないよ、鳶瑠(とびる)」

そしてここはクラウディにある学校の一つ『フライスカイ』。地上で言う高校に当たる部分。
そこで今、水平飛行速度の測定を行っていた。
今測定したのは鷹輝。この国の平均飛行速度は約150㎞。つまり鷹輝の出した記録は
この学校はおろか、国の中でも飛びぬけて速い飛行能力なのだ。
その上容姿端麗で気立てが良いため、女子は勿論、男子からも好かれている人物だ。

「昔に現れたって言う350㎞には適わないさ」

「350㎞ってあれか?伝説の『風を切り裂く者(ジン)』か。
ばっかだな~~~~お前。そんな人間いるわけないだろ?今じゃ300㎞超えもいないんだぞ。
350なんて本当に唯の伝説だよ」

鷹輝の言葉に一人の鳶瑠と言われた生徒が言葉を投げかける。
そう、この国にはある伝説が伝わっていた。それは何時の時代かに現れたって言う伝説の人間・ジン。
この国を350㎞の速度で飛び回り、風を裂くように翔けたと言う伝説だ。

「でも僕はいたと信じたいな」

「本当、もの好きだよなお前・・・・」

呆れ気味でため息を吐く鳶瑠。すると

「次!隼人(はやと)!!」

教師が次に計る生徒の名を呼ぶと、鳶瑠がお!と言った感じの顔をした。

「出た出た・・・・・・頑張れよーー!隼人!!」

「ぅるっせーーーー!!」

次に現れたのは男子生徒に応援をかける鳶瑠に、隼人は少々キレ気味に言い返す。
そして深呼吸をして皆より若干小さめの翼を羽ばたかせ始めた。だが、

「はい。隼人、測定不可能」

「うおおおいい!!諦めんの早すぎだろ教師!!」

羽ばたかせ始めて数秒で教師はそう言い、紙にペンを走らせた。
それに隼人が切れて即効で掴みかかる。

「こらぁ!教師の襟を掴むな!!」

「もう少し頑張らせてくれよぉ!」

「そう言って何時もお前飛べんだろ!『翼止病』のかかったその翼で
どうやって飛ぶって言うんだ!?」

翼止病とは心身の問題で、体の成長と共に大きくなるはずの翼の成長が止まってしまう病気だ。
隼人は子どもの時にその病気にかかってしまい、飛べなくなってしまったのだ。

「だったら、測定の時に俺の名を呼ぶんじゃねぇよ!!」

「呼ばんとお前、「俺の名を飛ばしてんじゃねぇ!!」って切れるだろう!!
それに・・・・あれだ。ノリってやつも大切だろ?」

「ノリで人の傷口抉ってんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!」

――――――――――――――――――――

「ったく、たの糞教師・・・・・。人が傷付かねぇと思って、言いたい放題言いやがって!」

学校が終わり放課後。鷹輝、鳶瑠、隼人は並んで学校を後にしていた。

「大丈夫だ隼人!!お前のその誰に何を言われても折れない精神の方が、俺は尊敬するぞ」

「褒め言葉使って貶してじゃねぇよ!!」

「ばれた?」

「ばればれだ!ドアホ!」

「止めなよ二人とも」

二人が何時ものように言い合うのを、鷹輝は微笑ましい顔を浮かべながらそれを止める。

「はいはい。それじゃあそろそろ行こうぜ。またな隼人」

「またね」

「おう!またな!」

二人は隼人に挨拶すると翼を広げ、空へと飛んで行った。それを見送ってっから隼人は一人歩き出した。
着いたのは土地雲同士を繋ぐリフト。主に隼人のような理由で飛べない人間のために置かれている移動手段だ。
移動スピードが遅い上、目的の場所に辿りつくのに幾つもリフトに乗り替えなくてはならないと面倒だが、
隼人はもう慣れっこのようで当たり前にリフトに脚を運ぶ。すると、

Re: 第三回SS大会小説投票期間! 2/5~2/19まで! ( No.157 )
日時: 2012/02/24 21:37
名前: アビス

~風を切り裂く者~part2




「お~~~い!!隼人~~~~」

「燕(つばめ)」

リフトの移動中、空から名を呼ばれ顔を向けると一人の女子生徒がこちらに手を振っていた。
その女子生徒は隼人の傍まで滑降すると、一緒のリフトに降り立った。

「今日も絶好調だったね」

「何の話してんだてめ~~~~」

彼女は燕。隼人の幼馴染にあたる人物で、運動も勉強もそこそこだが、
人懐っこく愛嬌ある性格で皆に親しまれる人気者。

「あっはは。そんなに怒らないでよ、隼人~~~~」

「あぶねぇ!!狭ぇんだからベタベタくっつくな!」

屈託ない笑顔で隼人の腕にしがみ付く燕。
それにもう隼人は慣れっこの様子で軽くあしらって離れさせる。
それに燕が膨れっ面になって言った。

「ぶ~~~~。いーじゃんかよ、ちょっとぐらい。それと、何時も言ってるでしょ~~~!
私といる時ぐらい『声を張り上げなくても良い』って」

「・・・・・・うるせぇ。俺の勝手だろ」

燕の意味あり気な言葉に隼人は頭を掻き、答えずらそうにそう言った。
それに燕が仕様がないな、と言った感じでため息を吐く。
それから暫くすると、リフトが到着した。

「よっと。それじゃあ、はいこれ!何時ものだよ」

リフトに降りた燕は振り返ると隼人にある物を差し出した。それは『活翼剤』。
隼人が子どもの時にかかった翼止病。
その病気を治すには翼の細胞を無理にでも活性させる必要がある。それを可能にするのが活翼剤だ。
本来なら週に一回投与を一年も続ければ治るのだが、隼人は一向に治らないのだ。

それでも燕は実家が薬局ということもあり、週に一回はこうやって隼人に薬を渡している。

「・・・・・いらねぇって言ってんだろ。もう俺の翼は飛べねぇんだ」

「そんなんじゃ、治るものも治らないよ。病は気からって言うじゃん。じゃね」

隼人の手に無理矢理薬を押しつけて、燕はその場を飛び去った。
一人残された隼人は薬を見つめ、強く拳を握ると呟いた。

「・・・・・病気で飛べねぇんじゃねぇよ。そんなもん、とっくの昔に治ってるよ」

どこか悲しげにそう呟くと、隼人は少し重い足取りで家へと帰って行った。
それに合せるように空もどんよりとしていった。

――――――――――次の日――――――――――

―ビュオオォォォォォオ!!!!―

空は荒れ模様。年に数回起きる自然現象『暴風(ストーム)』。
この時は国全土で飛行禁止令が出る。
風が吹き荒むこの状態でもし空を飛んだら、忽ち体の自由は奪われ風に身を任せるほか無くなるからだ。

「ま、隼人には関係ねぇことだよなぁ」

「はったおすぞ、鳶瑠!」

こんな時でも普段通りおちゃらける隼人と鳶瑠。

「ほらほら、そろそろチャイムが鳴るよ」

―キーーンコーーンカーーンコーーン!―

「おーう!席に着けおめぇら」

チャイムと同時に教室に入ってくる先生。教卓の前に立つと、ざっと全体を見渡した。

「・・・・・いねぇのは燕か。隼人、何か聞いてるか?」

「何も聞いてねぇよ」

「そうか・・・・・・。少し待ってろおめぇら。今確認とってくる」

こんな時に欠席がいるのはやはり心に不安がよぎる。
先生は少し急ぎ足気味で教室を出て行った。すると

『緊急速報!緊急速報!!現在R14地点で暴風の被害に遭う女性を発見!!』

「「「!!!」」」

国中に響く緊急警報。それにクラスの皆がざわめき出した。

『制服を着用。フライスカイの生徒と判明。救急隊はすぐさま出動し、
スカイフライの関係者は至急・・・・・』

「あんの馬鹿・・・・・」

「おい、隼人!!」

警報を聞いて、一人呟くと突然教室を飛び出していく隼人。鳶瑠が声を掛けるが、
それも耳に入らないと言った感じで走り去る。

「僕たちも行くよ、鳶瑠!」

「しゃぁねぇな!」

その後を追って走る鷹輝と鳶瑠。校舎を出ると凄まじい突風が三人を襲った。

Re: 第三回SS大会小説投票期間! 2/5~2/19まで! ( No.158 )
日時: 2012/02/19 00:21
名前: アビス

~風を切り裂く者~part3




「くっ!!今年の暴風は例年に無い強さだね」

「そんなことはどうでもいいだろうが!行くぞ!!」

そこからさらに走り続けること五分。場所はF41地点。ここは土地雲の端の方。
そこにはR14地点付近へと行けるリフトがあるのだが、そこで鳶瑠が叫んだ。

「おい!!あれ!!」

鳶瑠が斜め下の方を指差す。そこには風に煽られて成す術なく飛来する燕の姿があった。
遠くて豆粒くらいの大きさだが、ぐったりしているのが見られた。

「あんなじゃあ、もう長くは持たないぜ」

「まだ救急隊の姿も見えない。このままじゃ燕ちゃんが・・・・・。
こうなったら、僕が・・・・・」

「馬鹿!この風だぞ!?いくら速く飛べようが関係ねぇよ。・・・・っておい!隼人!!」

二人がどうしようがと言いあっている内に、隼人は土地雲から飛び出していってしまった。
二人が心配そうに覗き込む中、隼人は冷静に今の状況を把握していた。

(ったく、馬鹿だな俺は。飛べねぇのに『また』こんな風に出しゃばっちまった。
これじゃあ『あの時』と同じじゃねぇか・・・・・)

隼人は体を強風に蝕まれながらも目を閉じ、昔の事を思い出した。
それは隼人が翼止病に掛った時の事。

――――――――――――――――――――

「どう燕ちゃん?凄いでしょ!?」

「うん!凄い凄い!!」

隼人がまだ幼稚園の時は他の子たちよりも優れた飛行能力を持ちえていて、
それをよく先生たちや同じ生徒たちからも沢山褒めてもらっていた。
だから隼人は自分は凄い人なんだと自負していた。

だが、それを改めたのは今日のような暴風の日。
隼人は燕を驚かせようと思って外へ出た。出てはいけないと言われてはいたが、
自分は大丈夫!という気持ちを疑わず、暴風の中翼を広げ飛ぼうとした。だが・・・・

「うわああああああ!!」

強風で体の自由は効かない。どんどん体力が奪われていく。
結局自分はまだ子どもで、先生たちもただ自分を喜ばせる為に褒めているだけだと思い知らされた。
その後の事は覚えていない。気付いた時は病院のベットの上。
羽がぼろぼろになり翼止病にかかってしまったのだ。

だが、それだけじゃない。隼人の中で飛ぶことがトラウマになってしまい、
それが翼に影響して翼止病が治っても、翼は縮こまって飛べないままになってしまった。
そんな情けない自分を隠そうと、今まで声を張り強がってきた。
見兼ねた燕に注意されても直すこともせず、飛べないことも翼止病のせいにし、
今までずっとそうやって生きてきた。

――――――――――――――――――――

「・・・・・・・・・」

ゆっくりと目を開ける隼人。そして自分の翼を見つめる。
縮こまった小さな翼。羽ばたこうにも自分一人支えられない頼りない翼。
それを見て隼人は苛立ちに歯を食いしばる。

「ふっざけんなよ・・・・・。態度ばっかりでかくなりやがって。
心の方は小せぇままじゃねぇか・・・・・・」

自分にぶつくさと文句を垂れる隼人。だが、そんなことは今までもしてきたこと。
今しなきゃならないことはそんなことではない。

「こんな時ぐらい!!しゃきっとしやがれぇ!!!!」

―バサッ!!!―

「!!隼人の翼が・・・・・」

「・・・・・でかくなりやがった」

今まで人よりも小さかった隼人の翼が人の倍近くまで大きく広がった。
けどこの突風の中、翼を広げるのは自殺行為だ。大きいと言うことはそれだけ風の抵抗を受けてしまう。

だが、隼人はその大きな翼を羽ばたかせると、風に逆らって体が上に浮かせる。
そしてこの暴風の中、驚異的なスピードで燕のいる方向へと飛行し始めた。
暴風をものともせずに飛行する姿はまるで・・・・

「風を切り裂く者・・・・・・」

隼人の目に今まで豆粒くらい小さかった燕の姿がどんどんでかくなり、
遂にその体を受け止めることが出来た隼人。

「う・・・・・隼人?」

燕はかなり弱っていたが、意識はあるようで小さく呟いた。

「迷惑かけんじゃねぇよ。アホ・・・・」

笑みを浮かべながらそう言い放つ隼人に、燕も軽く笑みを返すと気を失ってしまった。
その後、隼人はそのまま直ぐに燕を病院へと運び込んだ。
幸い、燕は風に体力を奪われていただけで、後に後遺症が残るようなことは無いだそうだった。

Re: 第三回SS大会小説投票期間! 2/5~2/19まで! ( No.159 )
日時: 2012/02/19 00:22
名前: アビス

~風を切り裂く者~part4




数日後。目を覚まし順調に回復に向かう燕。そこに三人が見舞いにやってきた。

「もう大丈夫そうだな。燕」

「うん。もうばっちり!!明後日には退院出来るって、お医者さんが言ってたよ」

「それは良かったね、燕ちゃん」

元気に言葉を交わせると言うことは本当に回復をしているのだろう。
隼人もそれに安堵の息を吐く。

「それにしてもよ」

と、そこで話を変えてきたのは鳶瑠だった。

「何でお前、あの日に飛んだんだ?飛行禁止令ぐらい分かってんだろう?」

「あ・・・ははぁ・・・・。大事なもの手放しちゃって、つい・・・・・」

鳶瑠の質問に苦笑いを浮かべる燕。その手には小さな羽が握られていた。

「それがそう?羽・・・・・みたいだけど誰のなの?」

「これは・・・・・」

燕はそこで言葉を切ると、少し照れ臭そうに隼人の方を見た。

「は?俺の?」

「そうだよ。覚えてないの?」

そう言われ、考え出した隼人。少ししてあっ、と思いだした顔をした。
確かに隼人は昔、燕に自分の翼の羽を渡した。それを思い出して、隼人は少し困った表情をした。
当時渡した時、隼人は知らなかったのだが、その行為はある特別な意味があったのだ。

「え!?じゃあ、おめぇら結婚する仲なのか!?」

「わ~お」

鳶瑠が目を丸くして言った。それに鷹輝がにやけた表情で答えた。
つまりはそう言うことなのだ。昔から男性が女性に自分の翼の羽を渡すということは
プロポーズと一緒の意味があり、女性はそれを受け取ると言うことはそれを承諾したということなのだ。

「どうなんだよ、隼人?」

鳶瑠が肘で隼人を突っつく。それに隼人は顔を少し赤らめて言った。

「ちょっと待てぇ!当時まだ子どもで俺はそんな意味があるなんて知らなかったんだ!!」

「私は知ってたよ」

「な・・・・・・」

燕の予想外の発言に言葉を詰まらせる。知ってて受け取ったってことはつまり・・・・・。

「隼人。女性にここまで言わせといて、今更お茶を濁すような事は言わないよね?」

「よ・・・鷹輝てめぇ!!」

鷹輝の言葉に隼人が噛み付く。

「そうだぞそうだぞ。折角だからここで答え出しちゃえよ」

「私も聞きたいな」

「~~~~~~~~~!!」

鷹輝に加え、鳶瑠も燕さえも話に乗ってきて、もう完全にこの流れが断ち切れない状態になってしまった。
それに隼人はこうなれば!、と覚悟を決めた。

「わぷっ!!」

「何時までも病院で騒いでるわけにもいかないしな。俺は帰るぜ、じゃぁな」

それったらしい言い訳をつけ、燕をに布団を被せると窓から飛び去って行ってしまった。

「逃げたね」

「ああ、逃げたな。あれはもう男じゃないな」

二人がうんうん、と頷きながら隼人の駄目っぷりを噛み締める。それに燕が布団から出てくると二人に言った。

「呑気なこと言ってないで追いかけてよ!!」

「無理だよ。今の隼人の水平飛行速度・355㎞だよ?いくら僕でも追いつけないよ」

仕様がない、と鷹輝はため息を吐くと。鳶瑠と一緒に二人も病室から出て行った。
一人取り残された燕は頬を膨らませていた。

「も~~~~~!隼人の馬鹿・・・・・・・ん?」

と、そこで布団の中に何かあるのを感じた。それを手探りで取ると、目の前に持っていった。
それは羽だった。通常よりも大きな羽が開いている窓から来る風にユラユラ揺れている。
それを見て燕が幸せそうに微笑んで言った。

「・・・・・相変わらず素直じゃないなぁ、隼人は」

そう言ってその羽根を大事そうに握りしめた。
その瞳はすでに見えない彼方にいる隼人へと向けられていた。




~fin~

Re: 第三回SS大会小説投票期間! 2/5~2/19まで! ( No.160 )
日時: 2012/02/19 00:27
名前: アビス

~~あとがき~~


面白そうな企画やってる!って思ったら風sだったんですねw

第二回にはちょっと間に合わなかったんで、この第三回目で投稿させてもらいました。
中々テーマに沿ってって言うのが難しかったですけど、楽しく作れました。