┃ブルーマンと雨と二十の扉┃
五月二八日天気は梅雨が近いこの季節には似合わず久々の快晴。この日に僕は友達とブルーマンというパフォーマーを飛行機に乗り、福岡に行って見に行った。
そして、その三日後の三一日に僕は神奈川にある、その友達の家に二人でいた。
「やっぱりブルーマン凄かったよなー。あ、そうだ。お前、二十の扉ってゲーム知ってる? 昔NHKラジオでやってたクイズ番組なんだけど……」
三日前のことについて語っていると、友人がいきなり話題を変えてきた。
「いや、知らないな。説明してくれ」
「ん。了解」
そう言って友人は僕に二十の扉というゲームの説明を簡潔に話し始める。
「二十の扉っていうのは、まずは適当にお題を決めてそれを解答者が当てるゲームな。で、ヒントは質問出来る最高二十個の項目。まあ、最後には答えを言わなきゃだから実質十九個になるんだけどな」
「へぇ、面白そうじゃん。で、それを僕とやろうってわけ?」
「まあ、そういうわけ。雨も降って辛気くさいし」
「乗った」
窓に当たる雨が少しうるさい。質問を考えたり、答えを考えたりするのに支障をきたさければいいのだけど……。
「じゃあ、質問開始するよ。それの色は?」
「基本は青。まあ、いつも青ってわけじゃないけど。実際に今は違うし」
青ねぇ……。三日前のせいかな? あれしか浮かばないんだけど……今はちがうってのも満たしてるし。
「じゃあ二つめー。僕はそれを見たことがある?」
僕の質問に彼は即答する。
「ある。無いはずがない」
即答出来るというのが、やっぱりあれっぽいな。あれを前提として話しを進めてみようか。
「それは食べれる?」
「無理。食べれるヤツは人間じゃねぇよ」
「立て続けに四つ目。それは売ってる?」
「んー……微妙なところだなー……。それ自体は買えないけど、それに関係あるものなら買える」
まあ、そりゃああれは買えないか。多少は確信が持ててきた……。まあ、一応十九個全部使って一発で当てよう。
「なんか無機質だなー……話しながらやっか」
「話題はブルーマンか? お前めっちゃハマってたじゃん」
「ん。そうだよ。何も言わずに分かるとは、流石は親友。その意思疎通と推理力をゲームにも活かせたら良いのにな」
流石にこの言葉に対しては僕も苦笑いを浮かべながら「いや、僕でも四個ぐらいじゃ確信は持てないって」と言う。あと、誰でも分かるから。とはあえて付け加えずに答えた。
「まあ、それもそうか。でも、ブルーマンってなんで青いんだろうな?」
「目立つから? 顔を隠すならマスクでも付ければいいんだし、顔が青ければ目立つからとかじゃない? いや、実際は知らないけど」
あの寡黙な三人の青いキャラクターを考えた初代ブルーマンは本当に凄いと思う。あの発想はどうやって生まれたのだろう……今の僕の中では結構な謎だ。
「あ、五つ目行くよ。それは音を出すことが出来る?」
「そのもの自体は全くと言って良いほど音を出さないけど、別のモノから音を出すな。だから音はでるっちゃあ出る」
それ自体は音を出さないけど、それが使ったり出したりするものから音が出るのか……。
友よ。いくら三日前のことが印象に残っているからって安直過ぎやしないか?
特に関係のないお題を出せば良いものを……。
「六つ目。それは人を……」
ここまで言った途端に僕の声は雷によって遮られる。
結構光ったし、そこそこ近くに落ちたのかもしれないな。
「うわっ、雷まで出て来たよ……。で、六つ目は何?」
この雨の中自宅へ帰るのは僕の方だというのに、僕よりも友人の方が嫌そうな顔をする。
質問を催促する口調も心なしか元気が無くなったような気がしなくもない。
「ん? あぁ。それは人を魅力する?」
この質問に対して彼はわざとらしく溜め息を一つ吐き「なぁ、お前実際はわかってるんじゃないのか?」と、僕に問ってきた。
「まあ、大まかには。でも、どうせなら質問を出来るだけ使って確信得てから一発で当てたいじゃん?」
「そういうこと。じゃあ、答えるよ。魅力する。あれは人を少なからず魅せるものだ」
「続けて次。それをお前は好き?」
「好き」
これもほとんど即答。
こうなれば答えは分かったようなものだ。まあ、一応質問全てを使い切る予定だけど。
「ちょっと俺、飲み物取ってくる。お前は何飲む?」
「僕はドクターペッパーで」
「黙れそんなマイナーな飲み物は家にない。マウンテンデューで良いな?」
僕はそれも充分マイナーな飲み物だと思うけど……。まあ、この家にマウンテンデュー以外の飲み物なんて最初から無かったと考えて諦めることにしよう。
今は質問の内容を考えなきゃ。
あと、取り敢えず質問を整理するか……。
色は?
基本的に青。いつもは違って今も違う。
見たことは?
絶対にある。
食べれる?
無理。食べれたら人間じゃないらしい。
売ってる?
それ自体は売ってない。しかし、それに関係あるものなら買える。
音は?
出ないけど、それに関係あるものを媒介としてなら可。
それは人を魅力する?
少なからずは。
お前は好き?
好き
こんなところか……。あとは細かい部分を埋めてけば完全に確証が持てるな。
僕がそんな風に質問と回答をまとめている間にも、雨の強さは増していって、窓を壊れよと言わんばかりに強く叩き続けている。
すると、友人がコップ一杯にマウンテンデューだと思われる飲み物を入れたコップを二杯持ってきて、テーブルの上に無造作に置いた。
「お待たせ」
僕の方に置かれたコップのマウンテンデューであろう飲み物はなぜか青く、流石に僕は気になったので彼に質問する。
「これ、本当にマウンテンデュー?」
「うん。賞味期限が切れそうだったから、ブルーハワイのシロップも勝手に入れさせてもらったけど。ほら、せっかくブルーマンを見に行ったんだし、記念ってことで」
よく見ると彼の方のコップのマウンテンデューもブルーハワイシロップによって青く染まっていて、僕に対する嫌がらせということに変わりは無いにせよ、僕だけがブルーハワイということではなかったので少し許せた。
┃ブルーマンと雨と二十の扉┃
「まあいいや。一気に質問二つ使う。思い付いたから」
「じゃあ、ちょうど十個になるのか」
僕はその言葉に疑問を覚えた。
二つ使うと九個になるはずでは? まあ、聞けば分かるかと思って「なぁ、二つ質問だったら九個じゃね?」と聞く。
「えっ? 本当にマウンテンデューって質問したじゃん」
「はっ? 普通それ含む? まあ、答えはほとんど分かってるから良いんだけど」
我ながら寛容だなぁとか思ったが、まあ、答えはほとんど分かっているからだろう。
「じゃあ、質問をどうぞ」
「それは僕かお前の家にある?
それと、硬かったりする?」
「一つ目は無い。断言出来る。
二つ目は知らないとしか言いようが無いな」
十個の質問の内全てがアレを否定する答えじゃないということはやはり……。
コップ一杯に注がれたマウンテンデューブルーハワイ風味(笑)を僕は無視して彼と適当な話しをする。
情報を引き出そうとか、余計な選択肢を抹消しようとか企みまくりなんだけれど……。
「そう言えば、ブルーマンの楽器って独特だよな。お前もそう思わない?」
特に話題が思い付いた訳でもないので、僕は結局ブルーマンの話題を振る。
このゲームをやっているからだろうか、ブルーマンの話題しか思い付かない……。
「あ、それは分かる。あれってブルーマンオリジナルらしいぜ?」
「へぇ……そうなんだ」
いつのまにそんなことを調べたんだろう。昨日かな? 僕からの質問に答えれてるんだし、多分ウィキったんだろうなー……。
「てか、質問詰まってきた。一回で当てようかと思ってたけど、ちょい遊ぶ。それはドラえもん?」
僕はこの質問内容に自分自身で少し笑った。
確実に間違っている答えなのに、今までの質問の回答を全て満たしているのが個人的にツボに入ったからで、ドラえもんというワードがツボな訳では全くない。
「まあ、違うんだけどさ、今までの質問全部満たしているのがすげぇな」
どうやら彼もそのことに気付いたらしく、苦笑いに近い笑みを浮かべる。
「じゃあ、十二、三個目の質問。それは機会? それとも植物?」
「どっちでもない」
これも予想通り。よし、確信持ててきた。
「あ、ブルーマンのチケット代渡すの忘れてた。はい、五千六百円」
僕は彼に取ってもらったチケットの代金を渡すのを含めて彼の家に来たことを思い出し、財布から五千六百円を取り出して彼に渡した。
ん……これで質問作れたな。さっき聴くの忘れてたし。
「あ、ついでに質問。お前はそれを買ったことある?」
彼は金をポケットに入れながらついでのように「ある。最近も買った」と答えた。
まあ、そりゃあそうだな。でなきゃライブ行けないし。
僕はこいつに買ってもらったから直接は買ってないんだけど……。
「残り六個だぜ? 実質五個。大丈夫か? 当てる気あるの?」
「あるよ。えげつないぐらいに、大人気ないくらいに」
実際に外堀を着実に埋めているのだから、当てる気は有るとわかるだろう。
実際こいつも僕に当てる気が有ることぐらいは分かっていると思う。
「じゃあ、十五個目。それは世界に一つだけ?」
「俺の中では」
あれって一つ以上あるのか?
いや、人によっては違う。
「てか、ブルーマンの青って綺麗に取れるのかな?」
「わかんね。でも、多少のこるかもしれねぇな。皮膚に悪そうだ」
あんなに青く塗って皮膚呼吸が出来るのかという議論に発展しかけたが、再び鳴った雷と窓をけたたましく打ちつける雨がその議論を止め、元の二十の扉へと僕らを戻した。
「十六個目。今までの僕の質問から答えに辿り着くことは出来る?」
「……お前次第だが、多分出来る」
もはやここら辺は保険で、念のための確認といった部分が強い。
僕の質問が解答に触れていなかったら後の三つと解答で答えを答えなければならなかったら正直絶望しなきゃだけど、そんなことはなかったらしい。
「十七個目。それは汚れてる?」
「お前は会話からさらっと質問作るよな。うん。汚れてると俺は思う」
「十八個目。基本的に青って言ったけど、真っ青なの?」
「薄い青。水色って言っても良いな。後質問一つ、解答一つになるぜ? まあ、答え分かってんだろうけどさ」
今までの質問を総合すると、僕の頭に浮かんでいる正解の可能性があるワードはこいつの性格を含めて二つしかない。
そして、僕はそれを一つに変えるための質問を口にする。
「それは人間?」
この質問に彼は完全に当てられるといった風の表情を浮かべ「違う。人間じゃない」と答えた。
「最後。それ“空”でしょ?」
「…………ご名答」
彼がそう言うと、コップ一杯に注がれているマウンテンデューブルーハワイ風味(笑)の青が、光に照らされて綺麗に光った。
どこから光が差し込んだのかと外を見ると先程までの雷雨は三日振りの綺麗な青空へと変わっていて、それは僕らにとても強い印象を与えた。
あとがき
セリフ多いなー。まあ、この話しの性質上仕方ないのかもしれないけど。
そんなことを思いながら書き上げました。
昔見た短編に二十の扉というゲームがあり、ネタが思いつかなかったため二十の扉を思い出した僕はウィキって二十の扉というゲームをそのまま使いました。
まあ、ただ書くだけではつまらないので、ブルーマンを答えだと錯覚させるような書き方をしましたが、テーマ『空』なのであまり引っかからなかったかもしれませんね。
空ということが分かるポイントは最初の方に集中しています。詳しくはこの後の解説で。
では、白波SSブルーマンと雨と二十の扉でした。
解説
解説が必要そうな質問のみをピックアップして解説していきます。
・四つ目のそれは売ってる? という質問に半分肯定のような解答を出したのは、空というものは買えなくても空の旅や、天体観測のような形で空というものは売り物になっているからです。
・五つ目の音は、雷や雨という形で音を出すからです。
・十四個目の買ったこと――の質問で、一番最初の文章並びに四つ目の質問が来ます。
最初の文章で、福岡には飛行機で行ったという記述がなされており、四つ目の質問で彼の価値観で空の旅は売り物というようになっているので、結果最近飛行機のチケットを買ったということになります。
また、僕に関しても、飛行機のチケットは自分で払っているという描写はなく、友人に一時立て替えてもらっていたということは充分有り得るので、十四個目の質問に矛盾がなくなっています。
・ドラえもんになぜ矛盾が生じていなかったのか。
ドラえもんは元々黄色のため、いつもは違うという解釈をし、あのドラえもん以外は今も黄色のため、今も違うという答えを出しました。
売ってる? に関しては、ドラえもんというロボットは売っていないけれど、それに関係する商品ならば買えるということからこういう答えでも矛盾はしません。
音は、ドラえもんはフィクションなのでドラえもん自体は音を出さないけれど、水田わさび、大山のぶよという声優を媒介にして音を出すということです。
・ちなみに、マウンテンデューブルーハワイ風味(笑)は最後まで両者口をつけませんでした。
・晴れは二十八が最後で、その前も三十一までも雨はずっと降っていました。