また参加させていただきます!
ごめんなさい、やっぱりもう遅いですか?
すいません……
タイトル:「浮遊系少女」
わたしは青空がきらいだ。
めいちゃんめいちゃんとまとわりついてくるうっとおしい声を無視しながら、わたしは歩いている。足元でざくざく鳴る新雪がハナミの声と対照的で小気味いい。
「ハナミ!」
十四回目のめいちゃんを遮るようにわたしは叫んだ。後ろを振り向くと、一人分の足跡と不思議顔のハナミがいる。わたしはハナミの存在を確認してから、
「ああ、幻聴じゃないのね……」
と呟いた。
「ねえ、めいちゃん」
得意顔でハナミが言う。
「空、飛ばない?」
肩に積もった雪を振り払ってわたしは一言。
いいじゃない。
幼なじみの君川ハナミのせいで、幼い頃から苦労ばかりしている。
とりあえず「個性豊かな」、素晴らしく「発想性のいい」お嬢様でいらっしゃるハナミさんに付き合うのは並みの精神力では追いつけない。
そして悲しいことながら、面倒見のいいわたしは、今回こそ放っておこうと決めていても、結局付き合い助けてしまうのだ。
しかし……
しかしながら、今回のような事例は初めてである。
「めいちゃん、早く、早くっ」
先を行くハナミを見て、ため息をつく。いいじゃない、とは言ったものの、飛び方なんてわたしは知らない。
「ねえ、ハナミ、空は飛んでみたいけど、わたしは飛べな――」
「ほら、めいちゃん早く!」
そのとき、ふわっと身体が浮いた。
ハナミに引っ張られる形で宙に浮く。
「きゃあっ」
思わず、叫び声が漏れる。
考えていた以上に空を飛ぶって怖い。いつもは助けているハナミに逆にすがりつく。だって、ハナミの手を離したら、わたしはまっさかさまなのだ。
なのにハナミったら、
「高度を上げてみよう!」
なんて楽しそうに飛行機のまねをする。
「やだやだ、ばっかじゃないの!? わたしは無理っ。ねえ、ハナミ!」
「行くよ、めいちゃんっ」
きゃあああああああああっ
わたしの大絶叫が空に響く。
ちょうど、のびたくんとドラえもんが飛んでいるくらいの高さだ。いつも住んでいる街がミニチュアみたいに見える。
ここまで来てしまうと腹が据わった。
「ハナミ!」
「なに、めいちゃん?」
「もっと高いところまで行くわよ!」
らじゃ、と笑顔でハナミが答えた。久しぶりのハナミの笑顔。わたしはうなづいて、ぐんっと高度を上げた。
「めいちゃん、見て! 鳥! 雲!」
「あーもう、騒ぐなって。落ちるでしょーっ」
ひゅんひゅん、と鳥がわたしたちを見物しながら飛んでいく。
ハナミは楽しそうに渡り鳥と異国の話をし、わたしは雲の綿菓子を堪能した。
「めいちゃん、あたし、すっごい楽しかった」
渡り鳥にばいばい、と手を振りながら、ハナミが言う。わたしはうなづかなかった。
「ありがと、めいちゃん」
――ハナミはわたしの手を離した。
地上へ戻ってから、わたしはハナミの家へ行った。
去年はやつれていたおばさんも、今では少し元に戻り、笑顔でわたしを歓迎してくれた。
ハナミの部屋を通りすぎて、仏壇の前に座る。
線香をあげて、改めて「君川花美」という名前の横にある彼女の遺影を見た。さっきと同じような笑顔。もう一年も経っているのに、ハナミは年をとらない。
「もう、一年も経ったなんて、考えられないわ」
気付くと、隣におばさんが座っていた。
「あの子が自殺してから、もう一年か。芽衣子ちゃんと同じ公立中学に進まず、私立中学なんて行ったから。芽衣子ちゃんと同じ中学校なら、いじめで自殺なんてことにならなかったのに……」
その先をわたしは「おばさん」と言って遮る。そんな話、もうこりごりだ。
「来年もあの子の命日に来てあげてね」
ハナミの家を出て、わたしは空を見上げた。
彼女が死んだのは、こんな日だった。
だけど彼女は自殺したんじゃない。空を飛ぼうとして、ビルから転落したのだ。空があまりにも青かったから。
わたしは青空がきらいだ。