初めまして、もしくはこんにちは。
今回初めてSS大会に投稿させて頂きます。
タイトル:狂愛毒ニヨリ苦シ
「僕と、付き合ってくれない?」
そう幼馴染みの優人に告白された高一の夏から、二年が過ぎた。
(もう付き合い始めてから二年かぁ……)
と感慨に浸りつつ、ギシギシ軋む廊下に体重増えたかな、と佐和子は不安を覚えながら旧校舎の廊下を歩いていた。
窓の外では、蝉が必死に求愛行動に励んでいた。それが夏の気だるさを余計に増す。今にも空気が蒸発して水蒸気になりそうな猛暑日真っ只中の今日、佐和子は優人を呼び出したのだ。自分でも何でこんな猛暑日に呼び出したのだろう、と後悔しているがもう腹を括るしかない。
『話があるから、大鏡の前に来て』
そんなメールを、朝佐和子は優人に送った。旧校舎は一応封鎖されているが、封鎖しているのがすっかり錆び付いた南京錠の為、左右に捻るだけで簡単に取れてしまうのだ。勿論佐和子も、南京錠が簡単に外れることは知っていた。生徒は、教師の目を盗んでは大鏡のジンクスを試しているのだ。
その大鏡のジンクスとは、旧校舎の二階にある大鏡の前で告白すると付き合える、というものだ。
二年前の夏、佐和子はその大鏡の前で告白された。幼馴染みの優人と恋人という関係に変わり、最初の一年はとても楽しかったのだがだんだんと優人に会うのが億劫になってきた。所謂、倦怠期というものだろうか。最近は会ったら挨拶を交わす程度までになり、別れたのかと誤解されることもしょっちゅうだ。
大鏡の前に辿り着き、佐和子は外を眺める。
夏という季節は不思議なものだ。暑いと思いつつ、その日射しに微睡み、溶けていきたくなる。
(もう戻れないのかな……)
今日、佐和子はこの機会に別れようと決意していた。
今の二人を締め付けているのは、恋人という鎖だ。もう会うことすら面倒なのに、恋人だからということが二人の願いを邪魔している。そう思ったからだ。
恋人には戻れなくとも、せめて幼馴染みに。そんな淡い期待もしたが、恐らくそれは無理だろうという結論が出ていた。
「……お待たせ」
階段の方から、優人が現れた。急いで来たらしく、息を切らせていた。
「久し振り、優人」
「久し振り」
眩しい向日葵のようにはにかむ優人に佐和子の胸に切なさが滲んだ。
(そう、私は優人のこの笑みが大好きだった―――――)
でも、それはあくまで幼馴染みとしてだった。
今になると、そう思える。
優人は、愁いを帯びた瞳で無人のグランドを眺めて、
「……二年前、僕はここで佐和子に告白したよね。好きだよ、付き合ってって」
―――――佐和子は、それで察した。
優人も、別れようと思っているのだと。
だが、呼び出したのは自分だ。佐和子は、
「―――――別れよう?」
と呟くように告げた。
「……え?」
優人の間の抜けた声が響く。佐和子は無理に作り笑いをして、
「ほら、優人も私も。お互い疲れちゃったじゃない?だから、別れよう?」
「……」
優人が黙りになる。
佐和子は、溢れる気持ちを飲み込んだ。
本当は楽しかった時もあった。だが、それを告げたら両方の為にも別れた方がいい、という決意が揺らいでしまう。もどかしい。そんな感情が佐和子の中を占めていた。
「優人も、それを言おうと思ったんでしょう?」
長い、気まずい沈黙が流れた。
「……それが、佐和子の気持ち?」
そして、その沈黙を破るように優人が俯きながら尋ねてきた。
「……うん」
だが、佐和子は偽らなかった。
「そっか」
優人は俯いたままで、そう言った。
「ごめんね、呼び出して」
「ううん。こっちも待たせちゃって悪ィ。飲み物買ってきたから、飲む?」
「あ、うん。ありがと」
佐和子は優人からペットボトルを受け取り、開けた。
簡単に開いたな、という印象があった。
そして、ペットボトルの中の緑茶を一口。
「―――――ッ!!」
途端、形容しえない吐き気のようなものが佐和子を襲った。
体の全ての細胞が激しく警鐘を鳴らす。
喉が、胃が、細胞が。体全体が熱い。それは夏のせいではない。恐らく、先程の緑茶のせい―――――。
佐和子の体が、ぐらりと横に倒れる。体中の力が抜け、立つことすらできない。
「ガハ……ッな、何が……」
次第に、喋ることもままならなくなる。
何が起こったのか、佐和子には理解できなかった。
「ゴメンね、佐和子。だって別れようとした佐和子が悪いんだ。佐和子は僕だけのものなのに―――――」
佐和子の口から激しい咳と共に零れたのは、鮮血。
「ちなみに、それは理科室から盗み出した薬品。毒になるのかな。嫌な予感がして、持ってきて正解だったよ」
(―――――毒?)
佐和子は察した。
自分は、優人に毒を盛られ、死ぬのだと―――――。
(なん、で……)
そこで佐和子の意識はブラックアウトした。
「佐和子、ゴメンね。苦しかった?」
優人は人形のように動かなくなった佐和子にキスをする。
「あのね、佐和子。僕は君と別れようなんて、これっぽっちも思ってないよ。僕は君を愛してる。君は、これで一生僕のものだよ―――――」
全ては、ある夏の刹那的な幻。
優人は満ち足りた笑みを浮かべ、佐和子の頬を自分の頬に擦り寄せた。
その表情は恍惚とした―――――罪悪感など微塵も感じていないというようだった。
「ねぇ、佐和子、僕だけを見てくれるよね?僕の傍を離れるなんて言わずに、ずっと、僕だけを見て―――――」
―――――ねえ、知ってる?旧校舎の大鏡の噂。
―――――告白すると成功するっていうジンクス?
―――――違う違う。昔ね、そこで告白された女生徒が数年してから別れ話を切り出したんだって。そうしたら、彼女を狂愛していた彼氏に毒殺されたんだって。自分だけを見るように、って。それで、それからその大鏡には、その女生徒が口から血を流した様が映るんだって―――――。
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風猫様
素晴らしい大会を開いて下さり、有り難う御座いました。
大会の存在を知り、ネタから執筆まで一日で実行したのは初めてです。
文才の欠片もない拙作ですが、ここに載せることをご容赦ください。
お礼が遅くなり、申し訳ありませんでした。
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