「海が、綺麗ですね」
無造作に伸ばした金髪を振り乱しながら、彼は振り向いた。
この海の蒼にも負けない、清い瞳がとても眩しかった、
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家族と旅行で来た沖縄。綺麗な海、大嫌いだ。蒼い海、大嫌いだ。
空のブルーが反射してる。日光を浴びてキラキラキラ。人魚姫はこんな綺麗な海で泡になったのだろうか。
ところで此処の海は本当に綺麗だ。海は嫌いだけども、「綺麗」そう感じる感覚という物はちゃんと持ち合わせていた。本当に、綺麗で、憎い。
夏。白いワンピースが浜辺に咲いた。
さらさらと柔らかい砂は、裸足で歩いても全然痛くない。白、青、赤、緑、桃…数々の色が映えて見えた。凄く良い経験だ。
「海は何で蒼色なのか知ってます?何やら、太陽光の影響なんだそうですよ。海中に太陽光線が入ると、青以外の色は吸収されてしまい、青い光だけが海中に浮遊する微粒子に当たって跳ね返るため、青く見えるのです。本当、神秘的な話ですよね。」
「…変な奴、」
浜辺に一人佇む一人の少年。高校生で同い年位だろう。
ただじっと海を見つめていただけの彼に興味本心で、少し語ってみた。が、逆に集中を煽っただけだったらしく眉間に皺を寄せて睨まれては、また海に視線を泳がせた。
ふぅ、長い髪を靡かせ近寄ってみる。
「こっち来んなよ」
「私の身体なんですから、私が何処に動こうが私の勝手です。其処にたまたま貴方が居ただけ」
「…ったく、」
何か、無愛想な人だなあ。口調や見た目は何処かの不良の様だが、内面は凄く冷めている男子だと思った。否、ギャップと言えば良いのだろうか。だがしかし、こうしてまでヤンキー外見の癖にこれじゃあまるで勉強しかしない、世の中全て金、だと信じ込む男の様にしか見えない。
私は病気で、普段は吐き気がする程真っ白な病室から出られない。勿論暇というものが出てくる訳で、何時も本を読んでいた。ほら、TVをずっと視ていても、視たい番組ばかりでは無いし、お金も掛かるから。
本を読むだけあって、それが凄く熱中してしまい、本から得た知識が頭の中で疼いている。
外に出るのを許されていない訳ではない。外には散歩がてら出る場合もある。時間制限はされているし、何時も看護師や付き人の人が着いているが。
だから、自由に遊ぶ学生や仕事に走るサラリーマン、家族で外食しに行く親子達を見ると激しい嫉妬に見舞われる。私は出たくても出られないのに。もし仮に出れたとしても、制限された自由。だから、海も嫌いだった。空も、無限大に広がるもの全て。自由なもの全て。
ふざけた話だって思ってる。こんなの、只の醜い嫉妬だって。
でも、妬かずにはいられなかった。すんなりと自分の死を受け入れて、病室に閉じ篭り外を見ようとしないのは何か、私が私で居られなくなるみたいで、嫌だったから。
「海は、特に嫌いなんです。」
海は、怖い。あの大海原を越えたら何があるのか。深海の底には何があるのか。人魚姫が泡になった海は、どんな味をしているのか。どんな色をしていたのか。知りたい。
何故過去系なのかは、この際深く問わないで頂きたい。
だが、海に吸い込まれそうで。私の少ない命が吸い込まれそうで、とても怖いのだ。
人魚姫が泡になった様に、この深くて綺麗な海に融けて無くなってしまいそうで、怖い。
だから、海が嫌い。
「お前なぁ、怖いのは、知らないから怖いだけなんだよ。知ってしまえば全然怖くねぇ。」
「知るって、でも、海の事なら知ってます。本で読んだ事あるから」
「それは、自分でちゃんと確かめた事なのか?自分で身を持って確かめ無いと、その情報が嘘って事もあるからな。」
それは、確かに。
今の、発達した科学でも突き止められない事がある。宇宙だって、数え切れない星がある中、発見されているのはごく一部の星だ。
この様に、幾等本に書いてあったとしても、自分で調べない限りその情報が偽りだと言う事もある。
だから、身を持って調べる事が大事。怖いのは、知らないから怖いだけ。怖いなら、知れば良い。本当に怖いものなのかは、知ると分かってくる。
勿論、身体で調べられる事に限るが。
「お前、泳いだ事ねえだろ。海の事を知ろうとしていないから、当然だけどな」
「…、」
「海がどんな味なのかも、知らないだろ」
―――怖いのは、知らないから怖いだけ。怖いなら、知れば良い。
海の味は、しょっぱい。
彼はそう言って、自らの指を海につけた。そして私の前に着き立てた。は、舐めろ、と?
「はむ、」
「ちょっ、噛むなよ?」
しょっぱい。一つ目に思う。涙の味がした。
×
海は、人魚姫の流した涙だ。幻想的な思考が頭を駆け巡る。
人魚姫は、王子様を殺す事が出来なくて悲しくて悲しくて悲しくて。
最初から、海が塩辛いとは知っていたけど、涙の味がするなんて知らなかった。
涙なんて、悲しくて嫌だ。
「何で、海は甘くないのでしょうか。」
「は?海は塩辛くてナンボだろ」
「ですけれど、海が涙の味なんて、悲し過ぎます」
海は嫌いだ。涙の味がするし、私の少ない命が吸い込まれそうで、とても怖いのだ。
大嫌いな海、この浜辺で見た海は、とても綺麗で、とても涙色で蒼かった。
そんな海の奥で、一匹の海豚が空を跳ねた気がした。
「それにしても、海が、綺麗ですね」
(( 涙の匂いがした海に、ふわり。人魚姫の泣き顔が映る ))
240324
素敵な小説大会を有難う御座います。
とても楽しめました。「夏」というテーマに合っているかは分かりませんが、私なりに「夏→海」という感覚で書きました。
上記の何か変な○が沢山並んでいるのは、泡をイメージしました。見えるといいですが。