まさかの題名で賞を取るとは…。
投票してくださった皆様、有難う御座いますっ!
【Our summer】 1/2
「夏だぁーっ! 海行こうぜ、海!!」
「やだー! 絶対虫取りっ!!」
「夏と言ったら祭りじゃないかなぁ~?」
「…あ、あのー……っ」
僕等4人は、教室の中で騒ぐ。
僕と、加奈と、純也と、藍子。
小さい頃からの幼馴染で、今は同じ学校で。
終業式が終わった途端、教室で何をするか討論を始めた。
「だーかーらー…海は男の“ろまん”ってやつなんだよっ!!」
「はぁーっ!? あたしと藍子は男じゃないしっ」
「まぁまぁ…順番に行けば?」
「え、えと…」
「おい悠人はどこ行きたいんだよっ」
「僕は…皆に合わせようかなぁ…なんて」
「……何それー…これだからヘタレは嫌なのよっ」
純也と加奈は結構スポーツタイプの元気系で、僕等のムードメーカー。
それと対するように、僕と藍子はそれを見守る係り。
これは昔から変わらない。
小学4年生、10歳の僕等はまだ何も気付かない。
大事な事に気付かない、淡い年頃だった。
「…んじゃ、明日は海で明後日は虫取り。それからお祭りプール山登り街探険…てな感じだけど、おけーっ?」
「賛成ーっ! 明日からもう遊べるのねっ!!」
「藍子はそれでいい?」
「あ……う、うん」
「浮かない顔するのね。あ、行きたい所あるとかっ!」
「藍子、遠慮すんなよー?」
1人俯きながら、藍子は口を閉じる。
僕等は幼馴染で、間に遠慮ないてない。
だから言って大丈夫なのに。
「…、したいな」
「え?」
「み、皆で…天体観測が……したいな…」
ぽかん、とする僕等一同は、1度互いに顔を見せ合わせて後に頷く。
可愛いところあるじゃん、ってそう思った。
「良いじゃねぇか!! こうなったら新しい星を見つけっぞーっ!」
「あぁーっ! あたしだって負けないし!!」
「はは…新しい星って……」
「……楽しいね」
「え?」
「皆…そう言ってくれて嬉しい…」
藍子はいつもの優しい顔で微笑んだ。
僕はそんな藍子を見て、張り切るあの2人を見る。
あぁ、やっぱ僕等は“4人で1つ”なんだ。
※続く
【Our summer】 2/2
海水浴、虫取り合戦、夏祭り、区民プール、山登り、街探険…と。
僕等は宿題も忘れて夏休みに没頭していた。
漸く、1週間が経とうとした頃だ。
街探険を終えた僕等は公園でアイスを食べながら楽しく会話をしていた。
「にしてもお前、虫取りうめーんだなぁーっ」
「甘く見ないでよねーっ! こちとら虫オタクなんでっ」
「でも純也だって夏祭りの金魚すくい、異常に上手かったような…」
「あれはな悠人! コツってもんがあってーっ」
楽しい4人の時間。
の筈…だったんだ。
藍子は静かに、それも途端に立ち上がった。
「ごめんね…皆」
いつもの優しい声と入り混じった、
怯えるような震えた声。
我慢しきれなくて、掠れながらにも絞り出したような、声。
「ど、どうしたの…、藍子」
「具合でも悪いのかぁー?」
藍子は小さく首を横に振る。
藍子に一体何があったんだと思うと…彼女は言葉を紡いだ。
「私…都会に引っ越す事になった、の……」
田舎育ちの僕等にとっては、一度は行ってみたい世界。
都会。藍子の口からはそんな単語が生まれた。
「な、何で…」
「今までそんな事、一言も…!!」
「藍子…?」
藍子の声が震えていた。
藍子の体が、震えていた。
藍子は走り出した。
夕日を背に、掠れた声を出して僕等に背を向けたんだ。
藍子が引っ越す。
藍子がいなくなる。
僕等はそれだけで、夏の色を失った。
僕の耳には何の音も響かない。
やかましいセミの声。暖かい風で揺らぐ草の音。
僅かに聞こえる自転車のベルの音も、水の音も。
音じゃない、なくなったのは僕等の夏だ。
「…藍子の家、行ってみたけど返事がなかったよ」
「俺もそう。つか、『泣いてる顔を見せたくない』って、藍子のかーちゃんから伝えられた」
あの元気な2人が、こんなにも気を落としていた。
当たり前だ。大事な幼馴染がもうすぐこの街からいなくなる。
「…藍子、いつ引っ越すって?」
「確か…明日の朝にはもう発つって…」
僕はそんな会話に混ざる事もできず、公園から歩き出した。
「ち、ちょ…っ、悠人!?」
加奈の声が響く。でも何故だか僕の耳には残らなかった。
『私…都会に引っ越す事になった、の……』
こだまする藍子の声。
僕等に残された時間はもうないんだ。
「藍子?…ごめんね、本当に会いたくないって…」
「じゃあ、伝えておいて貰えますか?」
「…?」
「僕のマンションの屋上に、夜7時集合だ、って」
もうこれしかないと思った。
最後はやっぱり笑ってほしいから。
あの優しくて柔らかな笑顔を、もう1度見たいから。
「何するのよー、悠人?」
「…僕等の夏は、こんなんで終わりにしたりしないよ」
「はぁ? それどういう意……」
満天の夜空の下で、僕は思った。
絶対来てくれるって。
これだけで終わりにするなんて嫌だったから。
「お前、まさか…」
がちゃり、と屋上の扉の開く音がした。
申し訳なさげに入ってくるのは、あの優しい僕等の幼馴染。
僕等にとって、かけがえのない存在。
「藍子…」
「……悠人君、ここで何をする…つもりなの?」
未だ不安げな藍子は、扉から半分身を乗り出す。
僕はにこっと笑って、ゆっくりと腕を上げた。
そして、指でそれを指し示す。
「やろうよ…“天体観測”を。……――――僕等の夏は涙なんかで終わらせないよ」
藍子は、夜空に散りばめられた宝石を見つめる。
点々とするその宝石を人は、“星”と呼んだ。
満天の空の下、僕等はもう1度離れない絆を創り上げるんだ。
「あれ見ろよ! めっちゃ赤い!!」
「ちょっとちょっと!! 大きい星見つけちゃったぁーっ!」
「藍子は全部知ってるの? この星達」
「……うん、星は好きなの…」
火星を見つけるんだとか新しい星を発見するんだとか、尽きない話題で盛り上がる僕等。
やっぱりこうでなくっちゃ、僕達の夏は。
「あの…皆…っ!」
藍子の力強い声に反応する。
こんな声も出るんだと、そう思った時だった。
「私…こんなに楽しい時間を過ごすのは初めてで、それも皆で、この4人で過ごせて…本当に、本当に…っ!」
「藍子…俺達だって楽しかった」
「また皆で、この4人で集まろうよっ!」
僕もうんと頷く。
藍子は溢れる涙を止められずに、それでも綺麗に、
「ありがとう…本当に嬉しい…―――っ!」
暖かくも優しい笑顔を、いつもの笑顔を、僕等に向けてくれたんだ。
僕等4人の夏は終わってしまったけれど、決して消える訳じゃない。
もう1度、もう2度だって。
きっと巡り合い、笑い合う。
それがどれだけ先の事でも、どれだけ偶然な事であれ。
――――――"Our summer isn't to vanish eternal"
*end*
なんか仲良し系の青春系の爽やか系を書きたかった…みたいです←
前回はちょっとコメディで思う存分ふざけたので、今回はわりと真剣に書きました(((
と言ってもこれで真剣かよというレベル。
もっと精進したいと改めて思いました。