Re: 第五回SS大会 「夢」 投稿期間 4/27~5/14まで ( No.255 )
日時: 2012/05/06 22:25
名前: 秋原かざや◆FqvuKYl6F6
参照: http://start.cubequery.jp/ans-0039928e

『機械仕掛けの人形は羊の夢をみるのだろうか』

 必死になって、私は訴えていた。
 周りの皆と一緒に、いろんな道を歩き回って、訴えていた。
 そうすれば、世界が変わると思っていた。
 多くの声が、世界を変える力だと、思っていた。

 幼稚な考えだったと気づいたのは、その1ヵ月後。
 結局、世界は変わらなかった。
 何一つ、変わらなかった。
 訴えた、あの時間は……白昼夢のように、消え去った。
 そう、幻のように、すうっと。

 目が覚めた。
 ここはどこだろう?
 確か、私は休眠していたはずだった。
 なんだろう、さっきの意識は?
 私でない私が、そこにいた。
 とてつもない、後悔を感じた。
 悲しい気持ちだった。
 悲しい、気持ち?

 雨が降っていた。
 ずっとずっと降っていた。
 今日は外に出かけるはずだったのに、ダメになってしまった。
 雨でなければ、そとに駆け回れたのに。
 大好きな人と、一緒に公園を駆け回っていたはずだったのに。
 雨が、恨めしい。
 恨めしい気持ちで、灰色の空を見上げた。
 恨めしい、気持ち?

 ここはどこだろう?
 私は1人で勉強していた。
 世界を変えるには、受身ではダメだ。
 変えるには、自分も『変わらなくては』ダメなのだ。
 そして、先頭になって突き進まなくては、変わらない。
 私はそう、学んだ。

 天気だった。
 気持ちの良い、澄んだ青空。
 なんて、気持ちがいいんだろう。
 草の香りが、なんて、心地いいんだろう。
 隣をみれば、大切なあなた。
 嬉しくなって、思わず声をかけた。
 あなたは、微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
 幸せだった。
 とても、とても……幸せだった。
 幸せ?

「このプロジェクトは凍結します」
 悲痛な声だった。
 突き進めていたプロジェクトは、中止で終わった。
 けれど、ネットで多くの声を、声援を貰った。
 だから、私はたった一人で、進めていこうと思う。
 どんなに小さな一歩でも。
 その一歩に無限の力があるのなら。

 そこは屋上だった。
「君が、好きなんだ」
 私は気持ちを伝えた。
 ずっとずっと秘めた想いを、言葉にした。
 あなたに、伝えたかったから。
 そして、結ばれたいと願った。
「私も……」
 それだけで、充分だった。
 彼女の凛とした声が、風に乗って響いた。
 優しく耳を撫でる。
 私は君を抱きしめて。
 その瞬間、閃光が煌いた。

 どのくらいの時が経ったのだろう。
 夕方5時34分。
 あれから、12時間、休眠していたことになる。
「あら、起きたの?」
 目の前に現れたのは、マイマスター。
 私を作ってくれた創造主。
 いつものしゃがれ声で、けれど、凛として優しい響きのあるその声が、私を現実へと引き戻す。
「こんなに眠ってしまったのは、初めてです」
 素直な気持ちを伝えた。
「そうね、いつもは充電終了後にすぐ起きていたもの」
 どうかしたのと尋ねるマスターに、私は言葉を選んだ。
「不可解なものを……様々なヴィジョンを見ました」
「様々な、ヴィジョン?」
「最初は女性、犬、そして、女性……私は私でない私になっていました」
「……あら、まあ」
 マスターの驚きに、思わず首を傾げた。
「あなた、夢をみたのね。こんなこと、初めてだわ」
 楽しそうにマスターは夢みるように続ける。
「あなた、オートマータで初めて、夢を見たのよ」
「夢とは、未来の希望のことではないのですか?」
「まあ、それもあるけど、もう一つあるわ」
 悪戯な笑みを浮かべて、マスターは。
「夜、寝ている間に見る夢もあるのよ。その殆どが意味の無いもの。あなたのいう、不可解なヴィジョンの連なり、それが、夢よ」
 そして、私の前に向き直る。
「初めて見た、夢の感想を聞きたいわ」
 言葉を選んで、私は告げた。
「よくわからないです。楽しい夢も幸せな夢も全てあって……よくわかりません」
 それでいいのよと、マスターはまた微笑んだ。
「夢ってそういうものよ」
 そうそう、もう一つ教えてあげるわと、口もとに人差し指を置いて、マスターは話し始めた。
「人偏に夢と書いて『儚い』とも言うのよ、面白いわよね」
「よく、わかりません……」
 でもと、私は続けた。
「今度見る夢は、できれば、マスターのいる夢を見たいです」
 その言葉にマスターは嬉しそうに声を上げて笑った。