Re: 第五回SS大会 「夢」 投稿期間 4/27~5/14まで ( No.261 )
日時: 2012/05/13 18:50
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw

あれ?あと期日2日?(((((
ギリギリみたいな感じですが…今回も投稿させて頂きます。
今回は投票もやってみようかなと思ってます^^


 【夢を、叶える子】 Part1


 私は最近、夢を見る。
 それはそれは普通の夢で、起きたら消えていく幻のもの。
 でも普通の夢であって普通の夢でなく、そう。


 「あ…まただ」


 今日の夢の中で、私は商店街の福引で2等を当てる夢を見た。
 恐る恐る商店街に向かい、福引券を指し出す。
 ガラリ、と回してみると、出たのは“2等”。

 あぁ、まただ。

 

 最近、“正夢”を見るようになっていた。




 テストで良い点とる夢を見れば、その日のテストは高得点。
 小学校の給食でメニューが変更する夢を見ると、その日のメニューは自分の好きなものになっていたり。
 おかしいくらい、自分の思い通りになっていく毎日。
 少々気味が悪いけど、気分は最高。
 何だか王女様にでもなった気分だった。


 「早く寝なさい叶子ー、明日はデパート行くんでしょうー?」
 「分かってまぁーす」

 “叶子”。
 夢を“叶える子”で、“叶子”だ。
 もしかしたら、その名前の由来のせいで今みたいな状況になっているのかも。
 ラッキーなんだなぁ、自分。


 なんて調子に乗ったりしたから。

 だから最低な悪夢を見るんだ。
 だから最悪な未来を見るんだ。


 
 「――――――ッ!!?」


 
 嫌な夢を見た。
 それも最低最悪な夢を。

 「い、まの……」

 手と喉の震えが止まらない。 
 自分の体がガチガチになっている事に気付く。


 
 ――――――――今日のデパートで、家族が死ぬ夢を見た。



 
 テロだ。知らない黒ずくめの男達がいきなり銃声を上げる。
 近くにいた私達5人家族は、真っ先に目をつけられた。
 まず人質に、お母さんが捕まった。
 それを助けようと隙を見たお父さんが動き出し、気付いた男達の仲間の独りがお父さんを射殺。
 そのせいでお母さんが喉もはちきれる程の大きな声で叫び、頭を射抜かれる。
 続いて弟は、血塗れになった両親を見て泣き出し射殺。
 私は声も出ずに唯震えて佇んでいたけれど、警察に連絡しようとして、殺される。


 最悪な夢だ。


 もしこのままデパートに行けば、一族郎党皆殺し。
 今はリビングで笑っているあの声が、一瞬にして無くなる。

 嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だッ!!!


 「お、母さん…?」
 「ははは…って、あら?叶子じゃない。さっさと準備して、デパート行くんだから」
 「その…デパート…私、行きたくないの…!!」

 お母さんはきょとんとする。向かい側のソファーで座っていたお父さんも。
 後ろからは目尻を擦りながら弟の実が出てきた。

 「何を言ってるのよ叶子。あなたが服を欲しいっていうから、家族皆で行くんじゃない」
 「そうだぞ叶子。何か行きたくない理由があるのか?」
 
 そうだ、だって皆殺される。
 幸せだったこの生活が、たったの一瞬で終わる。

 …とは言えなくて。

 私はそれでも一生懸命抗議したけれど、やっぱりダメだった。
 正夢は、絶対叶うから?
 今まで、一度だって夢は裏切らなかった。
 
 そうして私は今、お父さんの車の中にいる。

 いつもより気合の入った服装。
 お父さんもお母さんも、綺麗な服を着ている。

 優しそうなお母さんの顔。滅多に怒らない本当に優しい母。
 元気旺盛なお父さんの顔。何でもできちゃう自慢の父。
 未だ眠そうな幼い実の顔。周りに優しく友達の多い弟。

 そんな顔一つ一つが、赤に染まる瞬間って。

 想像しただけで胃の中から何かが込み上げてくる。
 ダメだ。やっぱり無理やりにでもやめるべきだったんだ。

 そうして私達一家はデパートの入り口をくぐる。
 足が重たい。息が詰まりそう。


 最悪最低な一日の、始まりの予感だった。

Re: 第五回SS大会 「夢」 投稿期間 4/27~5/14まで ( No.262 )
日時: 2012/05/12 11:19
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw

 【夢を、叶える子】 Part2

 洋服屋を転々と回る。
 可愛い色の服を私に当てる母。
 私は今でも苦笑い。

 どうにかしないと。どうにかしないと。

 今日見た夢がもし正夢なら、本当に拙い。
 だってそう、家族皆殺されてしまうから。

 「叶子叶子っ! これなんてどう……って、叶子?」
 「えっ? あ、な、何かな?」
 「さっきから上の空ね、楽しくないの? 叶子?」

 楽しい訳、ないじゃん。
 なんて言えないのだからしょうがない。
 これから家族が殺されてしまうのに、楽しい訳ない。

 私のせいだ…本当に、酷いものを背負ってしまった。

 「叶子…あんたコーディネーターになるんでしょ? なのに今から暗い顔してどうすんの? 今日だって可愛いのにっ」

 むすっとした表情で、子供みたいな言い方をするお母さん。
 そうだ、服をコーディネートする人になりたいんだ。

 「夢を叶える子…でしょ? 分かってるよ、お母さん」
 「ふふっ、もし叶ったら、私の服もコーディネートしてね!」

 明るくて可愛い母。
 私は今小五で10歳で、母は20で私を産んでいるから今30歳。
 周りからすればかなり若い年齢なんだ。
 
 もし…できればね。
 私だってお母さんの服を選んでみたいよ。

 今日、自分の人生が終わるかもしれないと分かっていても。




 「あ、こっちこっちーっ!」


 お母さんは手を振ってお父さん達を呼ぶ。
 お父さんは実の手を引いてもう片方の手を軽く上げた。

 ここだ。

 もし夢が本当なら、ここで私達が死ぬ。

 止まらない心臓の激しい音に、私はぎゅっと胸を辺りを掴む。 
 お願い、お願い。

 私の大事な家族を、どうか奪わな――――――――ッ!!



 ――――――――――――――パァンッ!!


 
 「「「「「――――――――――ッ!!?」」」」」




 
 乾いた、銃声の音。





 「死にたくなきゃそっから動くな――――!!!」


 ぞろぞろと現れる、黒ずくめの男達。

 私の頬には、一筋の涙が流れた。

 
 
 「そっから一歩でも動いてみろ…この女を殺すぞッ!!!」


 男の近くにいたお母さんは矢張り男に腕を掴まれる。
 そうして近くに寄せ、お母さんの頭に銃を突きつける。
 ひぃ、と小さな声を上げる母は、カタカタと震えていた。


 まずい。お父さんが動く。


 
 「おっと…動くなよ旦那さん、あんたの大事な女房が目の前で吹き飛ぶぜ?」

 
 どうしよう…本当にどうしよう。
 お母さんが怖がってる。それを助けようと意を決してお父さんも汗を流してチャンスを待ってる。
 弟は必死に涙を堪えて、泣いて大声をあげないように我慢してる。


 今後の結末を知っているのは、自分だ。


 この場で一番有利なのは自分のはずなんだ。
 なのに…私が一番苦労してない。



 変えるんだ。
 変えるんだ、自分の手で。

 正夢なんて――――――そんな幻!!


 
 男がふいっと別方向に目を向ける。
 今だ、とお父さんが足を浮かせる。


 「ってめ――――――死にてぇのかッ!!!!」


 銃口を向ける男。
 体勢を保てずその的になる父。

 
 動け、動け…――――動いてッ!!



 
 …バサ…ッ



 私は、咄嗟にお父さんを押し倒していた。


 「な…ッ」

 
 私の真上を駆け抜けた弾。
 それに驚いた男達は、間も無く私に銃口を向けた。

 
 「邪魔するとてめぇも殺すぞ…子供だからって容赦しねぇ」


 お母さんが叫ぼうとする。
 でもそうすると隣の男に殺される。

 生き延びるんだ、絶対、皆で家に帰るんだ。


 
 「もう…やめて…」


 
 こんなに小さな声しか出ない。
 これだけ思いはでかいのに。



 「あぁ?」

 「もう二度と…正夢なんか叶わなくて良い…テストで良い点とれなくたって…給食も、好き嫌いしない…」

 「おいてめぇ、それ以上喋ると殺すぞ」

 
 
 もう良いよ。

 正夢なんて、所詮つかの間の幻だったんだ。

 夢なんて叶わなくて良い、――――だから。



 「もう…皆の事を傷つけないで――――――!!!」



 男は銃に指をかける。
 それを意味するのは、私の“死”。


 「叶子――――――!!!」


 でも、お母さんは私の名前を叫んだ。
 そして男の腕を振り解いて駆け寄ってきた。

 まずい。このままだとお母さんが――――ッ!!

 
 銃声が鳴り響く。
 またも咄嗟に動いた私の体。

 目の前に広がったのは、赤の世界だった。

Re: 第五回SS大会 「夢」 投稿期間 4/27~5/14まで ( No.263 )
日時: 2012/05/13 18:57
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw

【夢を、叶える子】 Part3

 
 響いたのは銃声と、お母さんの悲鳴だった。
 どくどくどく…と赤い血に濡れていく自分。


 「か、なこ…」

 
 ふと自分の脇腹を見る。見事に綺麗な白が赤に染まっているのが分かる。
 撃たれたのは私だ。お母さんを抱き締めて、咄嗟に庇って、気が付けば自分の体が悲鳴をあげていた。

 でも…本当に良かった。
 大事な家族が無事で、本当に。


 「おい、無駄に発砲するな」
 「このガキがむかつくんだよ!!」
 「俺達の目的はあくまで金だ。そのガキはその後で殺すなり何なりしろ」
 
 銃を下ろした男は舌打ちする。
 そして不機嫌の眼差しで私を見ていた。

 誰一人殺させない。
 絶対、失わせない。

 
 「…わりいな」

 「…!?、お前何を――――」


 ガチャリ、と弾を入れ替えるような音が鳴る。
 そして、私に銃口を向けた。

 
 「このガキは殺す。今絶対に殺す」


 私はお母さんの前に立つ。
 よろめいた体で立ち上がる。
 
 後ろには弟の実を抱き締めた母と、動けなくなっている父。

 大事な大事な私の家族。
 夢なんかのせいで失いたくない私の宝物なんだ。

 
 「…――――――死ねッ!!!」

 「――――――――!!?」


 お母さんが悲鳴を上げて顔を伏せた。
 お父さんまでもが声を張り上げて、
 小さい実は声も出ず、


 唯私は願う。



 「夢なんかじゃなくて…――――――私には今、本当に叶えたいものがあるの!!!!」



 発砲するような銃の音。
 それは何かに当たって弾き、カラン、と音と立てて転がった。

 でもそれは、私の体に当たった音じゃなかった。




 「……え」




 「集団テロの包囲を確認!! 直ちに拘束せよ!!!!」




 ずらずらと、“POLICE”と書かれた盾みたいなものを持って現れた人達。
 さっきの音は、拳銃でテロの男の持っていた銃を弾き飛ばした音。
 私達を救ってくれた音だった。


 

 その後、拘束されたテロ集団は警察に連れて行かれ、
 ぽかんとしたまま立っていた私の許に、警察の一人が駆けて来た。

 「君…良く頑張ったね。何でも聞いた話じゃあ、2回くらい撃たれたんだって?」
 「え…あ…まぁ、はい……」
 「怖かっただろうに…君のおかげで一人も犠牲者が出なかったんだ。ホント、凄い子だ」

 警察の人の大きな手が私の頭をぽんと撫でる。
 そしてにこりと笑って集団の中に紛れて消えた。

 「たす、かった……?」

 はっとして周りを見ると、近くにいた人達全員が喜んでいた。
 特にお母さんやお父さんは、泣きながら抱き締めてくれた。
 
 「よか…っ、本当に良かった、ね……叶子…ッ!!」

 ありがとうって、何度も言われて、
 私は照れくさくて、それでも凄く嬉しくって、
 自分さえも泣いてしまったんだ。

 「ありがとう…お母さん……私ね」
 「…?」
 「“夢を叶える子”で……良かった」

 今、心からそう思う。
 自分にこんな名前をつけてくれて、本当に嬉しい。
 
 「叶子……私もよ。願った通りに育ってくれて良かった…」
 「うん……、あ…でも」

 一つ、気になる点があるんだった。
 そうだ…。
 
 「警察に連絡したのって……誰か分かる?」
 「…それがね…実が…警察に連絡したんだって……」
 「実が…?」

 実は私のケータイを握り締めて泣いていた。
 いつ落としたんだろう。いや、そんな事より、どうして実が…?

 「おね、ちゃんが……ッ、がんば、って、るからぁ……っ」

 喉を躍らせながらも、実は頑張って答えてくれた。
 そっか。そっか…。実は、私に力を貸してくれたんだ。

 「へへ…頑張ったじゃん、実」
 「…うんっ」

 私達姉弟は、お互いに顔を見合わせて笑った。





 次の日、昨日の事がニュースになってテレビに映っていた。
 インタビューでの自分のガチガチ具合は…本当に恥ずかしくて。
 見てても恥ずかしいくらい、緊張してる。

 今日の朝は、夢を見なかった。
 もしかしたら夢を見ても、正夢はなくなったのかもしれない。


 昨日の一件で、今は病院にいる。
 致命傷は逃れたものの、脇腹からの出血が止まらない為即入院。 
 良く生きてるな、自分。って本当に思う。


 多分あの時願った夢を、叶えたからだ。


 「叶子ー? りんご食べる?」
 「食べるーっ」


 私が望んだのは、そう。


 「叶子ーっ! お父さん叶子の好きな漫画持って来たぞー!」
 「お姉ちゃんお姉ちゃんっ! 学校で褒められたんだっ!」
 


 ――――――“家族の皆が、幸せに笑っている未来”だ。




 
 *あとがき*

 今回はいつも以上に長かったです;;
 もうSSではないような…そんな気さえしますね。
 でも書いてて楽しかったですーっ。

 「夏」での入賞者様…おめでとうございますっ!