[ 私が欲しがったまじない ]
幼い頃から、魔法というものが好きだった。
御伽噺で一番好きなお話は『白雪姫』だった。
――でも、そのラストは嫌いだった。
彼氏にキスされる度に、そう感じていた。おはようも生きる勇気も私には要らないの。私が欲しいのは、たったひとつだけ。
ファンタジーとか御伽噺とか、高校生になっても憧れ、夢を見ている。楽しくないから楽しくしたい。ありえない魔法を使いたい。変なイキモノを見たい。動物と話したい。
――林檎で眠れる白雪姫、なんてなんて素敵なんだろう。
眠り姫のように針でぶっささるなんて痛いこともないまま、齧ったらすぐに眠りに堕ちる。美しい白雪姫は、王子が助けてくれたけど、私は美しくないから、キスで目覚めるわけでもない。それでいい。それでいいの。
照れ臭い想いとか甘い言葉とか、そんなものが欲しいんじゃない。私はこの世界を楽しくする魔法では楽しくなれないから。
私は、夢の中に溺れ、沈んで、二度と覚めたくないのだ。だから私は、もう一回眠る。
キッチンに移動して、冷蔵庫の中を見る。
冷蔵庫に閉まってある、薬漬けにした林檎。
それに手を伸ばし、包丁でさくさくと切り分ける。お皿に乗せて、口に入れた。飲み込んだ瞬間、突き刺さる激痛。きもちわるい、うああ。勢い余って吐瀉物を吐き散らかす。
「うっはああ……はあっ」
現実はうまくいかないな。綺麗に眠りたいのに、痛くてたまらない。ゲロは吐くし、全身は痛いし。意識が朦朧とする。ああ、強い劇薬って凄いな。もう眠ってしまいそうだ。
白雪姫も眠り姫もびっくりのエンディング。魔女の魔法はどこまでも中途半端だった。キスなんかでとける魔法? 笑っちゃうな。
とっても痛いけど、顔が勝手に綻ぶ。
これこそ私が欲しがった、呪い。
@ end
皆あかるいあったかい魔法だけど私だけ呪い。
のろいじゃないよ! まじないだよ!
これぞありんこクオリティ。
ぎりぎり間に合った…か?