【 まほうつかいになりたい 】
と書かれた古い紙きれが机の中から出てきた。お世辞にも上手とは言えないような幼い平仮名だった。自分にもこんな時代があったな、と、懐かしく思った。それだけ。
幼稚園児の非現実的な将来の夢なんて叶う筈もない。叶う、叶わない、ではなく夢は持つことが大切なのだ、と教師は言ったが、現実主義の進路調査に「魔法使いになりたい」なんて書いたらふざけているのか、と怒鳴られるのだろう。大人なんて皆嘘吐きだ。
溜息を吐いて、シャーペンをぶらぶらさせる作業に戻る。が、それもすぐに飽きて携帯電話を開くと、メールのアイコンが自己主張をしていた。兄貴からの、元気?、とだけ書かれたメールを読んで、携帯電話を閉じる。社会人の兄貴。自分で進路を決めて自分で勉強して自分で仕事を見つけて自分で生きている兄貴。
ふと、兄貴はどうやって進路を決めたのだろうと思った。成績は中の下くらいで、無彩色の現実よりもカラフルなフィクションの世界の方が好きだった兄貴が、すんなり進路を決められる筈がない。
携帯電話をもう一度開く。
兄貴は魔法使いになりたくなかった?(送信)
なりたかったから魔法使いになったんだよ。 (受信)
冗談を言うなら(笑)くらいつけてほしかった。
一分もしないで帰ってきた笑えもしない文に、返信を打つ。
嘘付け (送信)
まあ、嘘だな。最初からそう思ってたわけじゃないから(笑)
社会人は皆魔法使いなんだってさ。時間をかけてアイディアを練った物には魔法がかかるんだ。それが形のない物でも。逆に言うと適当にやった仕事は誰のためにもならなくて、笑顔も信頼も売り上げも無いんだって。
会社に入った時に社長に言われた。
でも今お前に魔法使いになれなんて言ってもなー
どうせ進路にでも困ってんだろ? 決めるのはやりたいことが出来てからで良いんじゃないの?
下手に書いてそのまま進んで、適当に仕事をこなす人間になってほしくないからな。
どうせやるんだったら楽しいほうがいいし……適当にごまかしとけ(笑) (受信)
今度は五分待った返信は、(笑)がついていたのに冗談のような内容ではなかった。
大人は無責任で教師は嘘吐きで、夢なんてないし大学に行けるような金も学力もない、自分は卒業したら自殺でもするのだろうか。自分がさっきまで考えていたことが急に幼稚に見える。
携帯電話を閉じ、放り出していたシャープペンを持ってプリントと向かい合う。あの頃とは違うきれいな字で、濃くはっきりと書いた。
「 魔法使いになりたい 」
あとがき
三時間くらいで書いたものなのでクオリティが低いです。
ばこーんとかずどーんとかの魔法とかなり離れた感じになりました。
間に合ってます? 大丈夫でしょうか。