『過去の鎖』
黒い油性マーカーで、彼女は手にしていた小説の一ページを雑に塗りつぶした。 机の上のコーヒーに手を伸ばし、それを口に含む。
馬鹿げている。
こんな馬鹿なことをなぜやっていたのだろうと、自己嫌悪に浸りながらペンをあった場所へと戻す。 本当に、私という生き物は馬鹿だ。
昔の自分に似た主人公が、友人を得て幸せになっていく話。 私にはそんなことなんてなかったし、ところどころに含まれるご都合主義には吐き気がした。
部活をつくり、居場所を作り、美少女やイケメンと仲良くなり、親睦を深め、それで楽しい日々を過ごす。
現実にそんなことなんてあるはずもないのに、ただけなされて落とされるだけなのに。 人を助けても報われない、何をやっても空回りする。
努力では夢はかなわないし、私には夢を叶えられるような努力の才能もない。 真っ暗な世界を歩んできた私の心は、真っ黒に汚れた。
現実は酷薄だ。 友人だったと思っている人間はすぐに私を切り捨て離れていく。 自分のみが危なくなれば、私をトカゲの尻尾のように切手自分は逃げるのだ。
そしてその危機の矛先は私へと向けられ、私はただひたすら暗い闇に落ちていく。 一人になっても、落ちるのは止まらない。
人とかかわらなければそれだけで私は闇へと引きづり込まれる。 人間は一人では生きられないというが、そういったせ解に変えたのはほかでもない人間。
高々小説を読んだだけで、吐き気を催し気分が悪くなる。
なぜ私は、みんなに裏切られるのだろう?
直後、悪寒が体中を駆け巡った。
コーヒーに混ぜてあった毒に、体が気付いたらしい。 それがどうしたというのだろう、生きていても結局は苦しむだけなのに。
ただ苦しいのは慣れっこだ。 まさかこれ以上の地獄なんて、あの世にあるとは到底思えない。 痛みも苦しみも、結局は生きているだけで受け続けるのだから。
END
単純に「黒」い話。