こんばんは。予告通り参加いたしますw
題名『Black Tears』 全2レスです。
――美しいものほど壊したくなる。
『Black Tears』
形あるものを壊したい。ここに存在するものを壊したい。何でも良いから壊したい。全てを壊したい。――破壊欲。
私は何でも壊したいわけではない。別に、全てを壊してみたいとも思わない。
ただ。ただ、美しい『もの』を壊したいだけよ。
ねぇ、ステンドグラスを割ったことはある?
光の差し込み具合によって、色がキラキラと輝くのを見ている。それだけじゃ完璧な美しさなんて訪れない。
窓に嵌め込まれたガラスを、金槌で思いっきり叩くの。沈みかけて、金色の光を放つ太陽に照らされる瞬間に。ガラスに金槌が触れたとき、うっとりするぐらい儚くて、失恋のように切ない煌きを放つと、一瞬でガラスは砕け散るわ。
砕け散ったガラスの真ん中に立つと、ガラスの断面にいろいろな輝きの色が見える。見る角度によって、異なった顔を見せてくれるの。壊される前よりずっと綺麗。枠に嵌め込まれて、ひとつの顔しか見せないよりもずっと素敵でしょ。
そんな昼間の残骸も良いけど、夜の闇に包まれたガラスはもっと綺麗なの。吸い込まれそうなくらい深い、漆黒の闇に煌く星と、闇に一筋の光を射す満月。暗闇の中でガラスは、昼間の、宝石のような輝きが嘘みたいに、光を奪い取られて暗く、重たい色に変わる。例えて言うなら、色が付いた石ころかしら。でも、月明かりに反射して時々、微かにキラッと暗い輝きを放つのも美しいわ。
昼と夜でまったく違う顔になるのよ。時が経てば、色褪せて朽ちてしまう『もの』に、美を感じない人なんて存在しないわけがないわ。
欲しいのは一瞬の美しさ。永遠なんてつまらないし、飽きるだけ。
ねぇ、ゾクゾクしない? 美しい『もの』が壊れた後の残骸って。美を極めた『もの』は破壊されたときに、宝石のように輝くの。ただの『もの』を壊しても、美しさなんて得られない。でも、かといって美しい『もの』を眺めているだけ? 身に着けて見せびらかすだけ? 美しさが失われないようにしまっておくだけ? で満足なんて出来ないわ。
永遠に美しさを保っている『もの』に愛着なんて、執着なんて、馬鹿馬鹿しい。一瞬で飽きるに決まっているじゃない。
破壊したときに得られる満足感。それは黒胡椒のように、ピリッとした刺激となって、美しい『もの』を完璧に、完全にするためのスパイスになる。
そして極上の調味料となるのは、『もの』が壊されたとき人々に走る、嘆き、悲しみ、絶望、怒り、衝撃……。人の感情ほど醜くて、これほどまでに美しさを際立たせるものを、私は知らないわ。
でもね、飽きちゃったの。
色んな『もの』を壊したわ。有名な絵画に、時価1億円もする宝石や、光り輝くアクセサリー。それだけじゃないの、建築物だって火を点けて燃やしたし、文化遺産と呼ばれてるものだって、滅茶苦茶にして修復できないぐらい壊してやった。
もちろん壊した時のことは覚えてる。
絵画は、油性のスプレーやカラーボールで絵を台無しにした後、キャンバスをバラバラにしてしまうの。科学が発達しているから、絵に落書きするだけだと壊せないのよ。そして、バラバラになったキャンバスの破片の中で、絵の描いてある部分が一番大きな破片を持って帰る。
宝石はすっごく簡単。固定して、ハンマーで思いっきり叩くだけ。砕けた宝石は、同じ色のガラスと混ぜて土に撒いてあげるの。ほら、自然に帰ったでしょう?
アクセサリーは絵画の破片と一緒に、建築物を燃やすときに、火に投げ入れる。赤やオレンジに姿を変える炎の中に、黒ずんでいく銀細工を見るのが堪らないわ。
ほら、絵画もアクセサリーも二度と元には戻らない。
他にもあるけれど、私は『もの』を壊すこと自体に飽きてしまったの。
何故なら、『もの』を壊したときに見られる美しさには限界があるから。
もっと美しい『もの』が見たい。もっともっともっと、もっと美しい『もの』が。でも、私を満足させられる『もの』は存在しない。
考えて、考えて、考えて分かったの。『もの』よりも、壊したときに美しい『もの』。でも、それは存在しない。だって、『もの』に飽きたから。
じゃあ、『もの』以外の『もの』を壊せばいい。――何がある?
『ひと』を壊せば、『人』を殺せばいい。
『Black Tears』
その後はすごく簡単だったわ。
まず、殺す『人』を決めたの。そこら辺にいるような、平凡で、醜い『人』じゃありえない。殺す気なんて最初からおきないし、第一、美しさの欠片も無いじゃない。
だから、モデルやタレント、俳優の『人』にしようって決めたの。特に女性は、顔が売りの『人』たちばかりだから、みんな美しいでしょう?
どうやって殺そうかしらって。
鋭利な刃物で心臓を一突き。悪くは無いけれど、一瞬で死んでしまうわ。もっと、苦しみぬいてから死んでもらいたかった。
決めたのはそれだけ。
別に、美しい『もの』を壊して、もっと美しい『もの』が見られるなら、自分が死のうが捕まろうがどうなったって構わないわ。だから、必要最低限の事しか決める必要が無かったの。
実行したわ、月がとても綺麗な満月の夜に。
いきなり拘束して、体のあちこちに傷をナイフでつけていくの。柔らかな肌と、なるべく平行になるようにナイフを動かして、スッと切る。細い、線のような傷口からは、黒い絵の具でなぞった様に黒が滲み出てゆく。何回も繰り返したわ。
彼女は苦痛と恐怖に顔を歪めて、泣き叫び続けるの。だんだん声が嗄れて、最後には呻き声しか出なくなっていったけれど。
一番最後に首を絞めた。痛みで、体の感覚は麻痺しているはずなのに、ジタバタと暴れていたわ。苦しみに美しい顔を歪めながら、新鮮な空気を求め、必死にもがいて縄を緩めようとするの。後ろから締め上げられているから、緩まるわけ無いのにね。
首を絞めて息が無くなった後は、ナイフで体中を滅多刺しにしてあげた。心臓は止まっているから衝撃を与えて、血液をどんどんあふれ出させる。周りに血が大量に飛び散った死体って、邪悪で、綺麗で、恐ろしくて、美しいと思わない?
そして、今。
私の目の前には完璧な死体が転がっている。真っ白な肌は、何箇所も切り裂かれて血の気が無くなった証拠。小さな切り傷には、真っ赤なはずの血液が固まりかけて、どす黒く変色を始めている。大きな傷はまだ、傷口がパックリと開いていて、中の筋肉や血管が所々に見えているわ。
首には斑模様の紐の痕。『人』の首を絞めるのって、意外と力が要るのね。紐が巻き付いていたところだけ、赤黒い痣が出来ている。その痣の周りには、必死で空気を求めて、生に執着して出来た引っかき傷があった。左右に4本ずつ、8本の細いすじ。強く引っかいたのね。爪の中にまで血がこびり付いているわ。
極めつけは、周りに飛び散った大量の血。冷たいコンクリートの上で真っ黒な血だまりが、街灯に照らされて妖しく光る。
死体の周りに、花吹雪のように飛び散った血液。血が抜けた白い肌と血で出来た真っ黒な水溜り。
なんて美しいの。美しいわ、美しすぎる、完璧よ! これ以上美しい『もの』があるかしら! ないわないわ無いわ。
あるはずが無かった。私が、たった今、この手で作り出してしまったから。
急に私を襲った空虚。今まで、美しい『もの』を壊して、さらに美しい『もの』を作り上げてきたわ。
もっと美しい『もの』を壊したい。壊して、もっと美しい『もの』を見たい。壊して壊して壊して壊して壊して1番美しい『もの』を見たい。満足感で満たされたい。うっとりする様なあの感覚をもっと味わいたい。もう一度味わいたい。
――欲望は止まらなかった。
『ひと』を壊して、1番美しい『もの』を作り上げてしまったら、私はこれから先、どうやってこの欲望を満たせばいいの? こんな綺麗で、儚くて、邪悪で、恐ろしくて、美しい『もの』なんて、二度と作れない。
絶望と悲しみがこみ上げてきて、何故か涙が溢れ出して止まらない。こらえきれない嗚咽が、月明かりと街灯に照らされる、深夜の倉庫に響き渡る。
この涙は、何色かしら? きっと――
『破壊欲、という名の欲望に染められた、黒色の涙だわ』
FIN
~あとがき~
今回始めて参加させていただきました。黒は一番好きな色なので、書いていて楽しかったです。
『黒』から『欲望』、特に『破壊欲』を連想して書いてみました。
台詞が一切ないので読みづらいとは思いますが、最後まで読んでくださった方には感謝しています。
書かせてくださり、ありがとうございました!