「神童」
腹が痛い。
教室を抜け出して、校舎の端のトイレでいつもの馬鹿どもと身のない会話をするのにも耐え切れないほど。階段をふらふら上りつつ、なんでをくるくる回す。
現在は月の終わり頃であるから、本来であれば腹が痛くなるのは当然の現象であるのだが、おかしい。血は出るのだけれど、色がチョコレートみたいで美味しそうなのだ。
永遠に続いているような長い階段を登り終え、やっと辿り着いた灰色の重たい扉を体当たりで開く。
解放感も糞も無い、白っぽい曇り空だった。
倒れ込むように、扉がくっついている薄汚れた壁にもたれかかり、しゃがむ。校則を無視した短すぎるスカートが太もものそばでしわを寄せた。誰もいないところでサービスシーンをやっても、下着の見せ損だな。そう思ったとたん、急に吐き気が込み上げてきて、その場で吐瀉物をまき散らした。
口元をぬぐって顔を上げたとき。
「…………あ」
妊娠。かもしれない。
ああ、でも、ちゃんと避妊具はつけていた……筈だ。お金が甘ったるい匂いをふりまいてるホテルでおっさんとしたときだって、その辺の右手が忙しいようなガキと遊び回ったときだって。つけていなかったことなんてないのに。
妊娠したときの詳しい症状なんて知りもしないが、吐いたり腹が痛くなったり……というのは、いや、そんんなはずは。もう一度何かを吐き出そうと腹からぐぇっと声が出たが、胃の中は空っぽで、痰と唾が入り混じった透明で白っぽい液体が地面に滴った。
もしかして、最近太ったと思ったのは、やっぱり。
呼吸は乱れて、眩暈と吐き気と腹痛がひどくってもう、なんだか気持ち良い。ドラッグでもキメた気分だ。
回る世界を見上げていると、今度は腹に強烈な痛みが走った。呻き、喘ぎ、腹を押さえる。痛い。何かが必死に外に出ようとして腹の中を抉っている。歪んだ顔ゆえ、狭くなった視界からスカートを見ると。
血だまりだ。血だまりなのに。臭い、生きている人間の血のにおいが漂っているのに。
その血だまりは、白色をしていた。
その血だまりは腕を生やし、指の切り落としを浮かべていた。
冷や汗が噴き出して、化粧を溶かしていく。悲鳴も出ない。
なんだか視界が霞んでいる気がする。血のにおいが作り物の、吐き戻しそうな甘さに変わっていっている。私は、直感した。
死ぬのだ。
ぼやけた意識の中で、太ももに柔らかい、温かいものが触れた感覚がはっきりとあった。閉じかけた瞼をこじ開けて、血だまりをもう一度見る。
ああ。君は。
塗れた羽が生えた胎児と赤ん坊が混ざり合ったようなものが、指がいくつか欠けた小さな手を私の太ももに当てていた。
目を閉じる。
おかあさん。
そう、言ったよね。
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すみませんでした。本当にすみませんでした。
乏しい知識で書きました。
一応ネットで調べてみたのですが間違ってると思います。
こんな発想しか出てこない自分です、呆れちゃいますね。
しかもあんまり白くないし……。
今回は投稿ができてよかったです。