【答案用紙に色がついた時】
「あー、分からない……」
私は、答案用紙の右端に、小さな花マルを書いていく。
それに、目を書いて鼻を書いて……手足をかいたら、「花マル君」の出来上がり。
今回は、うまく描けた。
私は、いつもテストで分からない時は、花マル君を描く。そしたら、なにか分かるような気がしたから。
「ねぇ、なんか分かった?」
どこかからか、知らない声が響いた。
私は、見張りの隙をみて、周りを見回した。だが、声の主はいない。
クラスメートでも、見張りの声でも無かった。
「教えてあげようか」
なにを?
なにを教えてくれるというの?
言葉で話さないと相手も分からないと知りながら、声はでない。心の中で思うだけだった。
「答えだよ、答え」
え?
私は、驚いた。それも、二重で。
まず、一つ目。私と念力で喋れたから。私にそんな能力あったかなぁ。
次に、二つ目。私にカンニングを持ちかけたこと。カンニング……そんなこと、していいことなのかな。
この問題は、本当に分からない。授業では絶対に出ていなかった。
予習復習完璧で、学年首位の私。なのに、今日は半分しか解けていない。これでは、お母さんに…先生に怒られてしまう。
どうしよう、怖い。でも、誰もみていないのなら……聞いていないのなら……
「お願いするわ」
遊び本意で答えたつもりだった。こう言えば、相手はどう反応するかなーって。
「よし、じゃあいくね」
声の主は、さらさらと式と答えを述べていった。
そうか、こうしたらいいのか。途中で、どんどん分かって来た。
そして、声の主の言葉が止まった。
最後まで言い終わったのだ。
……ありがと。
私が脳で言った。
多分、相手に届いたはず。
私は、右端に書いたあの花マルを消そうとした。
だけど、消えなかった。シャーペンで書いたのに。
まるで、マジックで書いたみたいに消えない。
その花マルは、ニコッと笑っていた。私は、笑わせたはずないのに。
「はい、終われ」
その時、見張りの声が響いた。
終わっちゃった。
花マル、消えなかった……どうしよう。
大学生が、テストの端に花マルなんて。落書き厳禁なのに……どうしよう。
私は、カンニングしたせいで狂っていて、もう普通ではなくなっていた。
終わりだ……もう、終わりなんだね。
だから、カンニングなんかしちゃだめなんだ。この落書き一つだけど、ダメなんだね。もう、いーや。全部、バラそう。
私は、ピンクの蛍光ペンを取り出した。
そして、答案用紙に、
「ありがとう!」
と大きく書くと、この紙を思いっきり大きく投げた。
この紙は、白いけどピンク色。
「ふっ……じゃあな」
誰かの声がまた響き、外で鳥が羽ばたいたような音がした。
ああ、そうか。声の主は悪魔なんだ。
私の悪事をさらけ出そうとしたんだね。悪魔だけど、天使のように優しいんだね。貴方のおかげで、今の私は真っ白だよ。周りの重圧もない今、私の体はとても軽い。
私、地獄へ会いにいくね。
私は、窓に手をかけた。
「その時は、ありがとうって目の前で言わせてね」
【END】