~~失って気付く事~~
どれだけ膨大な知識を詰め込もうが、俺には全く意味がない。
どれだけ素晴らしい恋愛を摘もうが、俺には一切響かない。
俺には記憶が無い、感情が無い。あるのは記録だけ。
目の前で起きたことをただ日記のようにし、頭の中に刻み込むだけ。
刻んだ事は忘れないが、その記録を頼りに人とコミュニケーションをとっても、
こんなの対話を可能にしたロボットと変わりはしない。
俺の頭はあの日から今日までの全てのシーンが刻み込まれてる。
それでも俺の頭は空っぽ。どれだけ脳に景色を刻み込もうが俺の心は微動だにしない。
俺の頭も・・・・・・心も・・・・・・・身体もすべて・・・・・・・
真っ白だ
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超記憶症候群。医者やどこかの研究員のやつらを俺の『これ』をそう呼んでいた。
日常のありとあらゆる出来事を1秒も漏らさず記憶してしまう症状。
似たのでサヴァン症候群もあるが、これは有る一つの分野で発揮する限定的な症状。
これにかかると脳内が記憶でひしめき合い、結果俺は同時に感情鈍麻にもかかった。
だが俺はそんなことしったこっちゃない。感情が無いんだ。
辞書で読んだツライとかカナシイなんて感情は一切湧いてこない。
これはいわゆるラクと言うやつか、それともムナシイと言うやつか。人間の感情というのは難しいな。
そんな俺でも今少し世間一般的に言うコマッテルことがある。
おそらくこの状況はそれに当てはまると思う。それは・・・・・・・・
「おい!涼真。何時まで呆っとしてんだよ!早く学校に行くぞ」
俺の名を呼び、凄い勢いで腕をつかみ引きずる様にして俺を運ぶこの女の名前は・・・・・確か・・・・・
「ああ、そうだ。美雪・・・・・という名前だったな」
「いい加減幼馴染の名前ぐらい覚えろ!」
「莫大な名称から、お前の顔と一致した名を探し当てるのはクロウするんだぞ?」
「一生そうやって名前当てゲームでもしてろ」
美雪は口角を上げ、そう言葉を返してくる。
俺がこの症状になってからというもの、今まで俺と関わってきた奴等の対応は明らかに違うものになった。
だがこの幼馴染、美雪は、今までも変わらずに俺に話しかけてくる。そしてこれも
「どうでもいいが、人の腕を直ぐ引っ張る癖直せ」
俺は美雪の腕を振り払い先に歩き始める。それに合わせ美雪を速度を合わせて顔を覗き込んできた。
「照れてるのか?可愛いやつだのぉ~~~」
―ボカッ!―
「いっ~~~~た~~~~!!か弱い女の子をグーで殴る!?」
「ウルサイ。以前の俺ならそう言ってお前を殴ってたと思ってな。同じ事してみただけだ」
「以前も今も同じ俺でしょーーーー!!って待てーーーーー!!」
美雪の腕を引っ張る癖。これは俺が幼少のころからずっと変わらない。
こうなるまではもうなんとも思って無かったが、何も感じなくなった今になって
この癖が俺の中で妙な感覚となって襲ってくるようになった。
この感覚が一体なんなのかよく分からない。ウレシイのかハズカシイのかイヤなのか。
何も感じない俺が唯一感じる美雪の癖。これが一体何なのか分かれば、感情も蘇る日が来るのかもしれないが、
掴まれると無性に引き剥がしたくなるから、もしかしたら知るのがコワイのかもしれないな。
―キキィーーーー!!ズカンッ!!!―
感情が蘇っても前と同じ生活を続けることなんて出来ないだろう。
周りからの視線が耐えられなくなる日が必ずくる。
前の俺はそういうことには特に敏感に感じていたような気がしたんだ。
―ワイワイガヤガヤ!―
もしかしたら俺は今心の奥で、この状態でいることに喜んでいるのかもしれない。
だからそれを思い出させるかもしれない可能性を持つ、美雪の癖は俺のコマリの対象なんだ。
「・・・・・ぁんた」
だからと言って美雪自身がコマルというわけではないと思う。
美雪と話しているだけではあの妙な感覚は襲ってこないのだから。
どうにかして美雪にあの癖だけは直させるようにしなければ。さて、どうすればいいものか・・・・・・
「おいあんた○○高校の生徒だろ!?」
「ん?そうだが」
良い策はないかと考えていると、急に後ろから男性に話しかけられた。
さて、この男性は今まで会ったことのない男性だな。
それに服装から高校は分かるとして、どうしてその名で俺を呼び止めたんだ?
「あんたと同じ制服の生徒が今車に轢かれたぞ!!気付かなかったのか!?」
ああ、先ほどの大きな音はその音だったのか。
そんで男の背後に出来ている人だかりはその野次馬か。ふ~~~~。
「興味ない。俺が残る意味が分からないからな」
俺はとっとと学校に行かなくてはならないんだ。何時までも立ち止まってると
美雪はまた怒鳴られて腕を引かれる。出来ることならそれはコワイからな。
ん?そういや美雪はどこいった?さっきまで俺の後ろを歩いていたと思ったんだが・・・・・・。
そんな事を考えてると、男性が俺の心を読んだのかその答えを返してくれた。
それもとても分かりやすく。
「分からないって・・・・・・あんたさっきまであの子と話してたじゃないか。
一緒に通学してたんじゃないのか!!?」
「!!?」
俺は急いでその野次馬を掻きわけて群衆が見つめる者が目に飛び込んできた。
顔を赤くさせ、足元をふらつかせ、呂律の回らない口調で怒鳴り散らす、明らかな酔っ払いのじじぃ。
その傍で横たわる血塗れの美雪。
「・・・・・・・・・」
ああ、やっぱりな。
こんな光景を見ても俺の心は何も動かない。
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あれから幾日もたった。
美雪の葬式はあったが、それ以外はなんら変わらない日常。
俺は普段通りの生活に戻る・・・・・・はずだった。
「・・・・・・・・・」
何だ?この胸の絞めつけけられる感覚は。
何だ?この頬を伝う涙は。
そうか。もしかしたらこれが悲しいというやつなのか。
あいつが死んで悲しくて、腕を引っ張るあいつを見る事が出来なくて虚しくて。
あいつと一緒に学校に行く事が出来なくなるのが寂しいんだ
あいつの屈託ない笑顔がもう見れないと思うと辛いんだ。
これが感情だ。これが俺が失っていたものだったんだ。けど、やっぱ思った通りだ。
感情なんて無いままの方が良かったんだ。こんな思いをするぐらいなら無いままの方が良かった。
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今はもうどんな些細なことでも敏感に反応する。
友達の一緒に笑いあう事も、どんなベタベタ恋愛を摘んでも心を躍らせる事が出来る。
ロボットのような対応ではなく一人の人として、人々と接していくこと出来る。
それでも俺の心は空っぽで・・・・・・・俺の身体は何かを欲して・・・・・
俺の頭は前から変わらず・・・・・・真っ白なままなんだ。
~~あとがき~~
久しぶりの投稿になりました。
最近はリアルが忙しくて、自分の作品で手一杯って感じで全くこっちに来る事が出来ませんでした。
今回は今までほとんどやったことない主人公目線でのナレーションだったので、
若干微妙な言い回しとかになってしまったかもしれせん。
それでも、読んで下されば光栄です。