Re: 第九回SS大会 お題「白」 投稿期間延長 3/6まで ( No.439 )
日時: 2013/03/02 17:02
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw

 短すぎる短編。


 【彼女のシロい、】

 近所に巷で有名な子供がいる。 
 彼女はいつも何かしら動物を飼っていて、毎日同じ道を散歩していた。
 それは犬、猫、兎、亀、鳥……など、何でも散歩させるが好きな女の子。
 
 今日は、一体どんな動物を連れてここへやってくるのだろう。
 私は内心期待しながら、公園のベンチに座っていた。
 そうして朝方の綺麗な太陽が、昇ってきた頃。

 彼女はゆっくりと歩きながら、公園に入ってきた。

 (……?)

 彼女が連れていたのは、蝶だった。

 黒くて小さな蝶の胴に、細い糸が巻きついている。
 今にも逃げ出しそうなそれは、ぱたぱたと力なく羽を動かしていた。
 私は思わず驚いて、立ち上がった。

 「ねぇ……いつも変わった散歩、してるんだね」
 「……」
 「それ、か……可愛いね」

 何を言っても、彼女は反応しそうにない。
 仕方がない。私は少しだけ息を吐いた。

 
 「その子……名前なんて言うの?」


 少女はやっと、上を見上げる。
 彼女は、口を開いた。

 「……シロ」

 そう、言葉を紡ぐ。
 シロ、というのが蝶の名前だと言う。
 全体的に真っ黒で、小さく黄色の斑点のある蝶。
 それなのに、何故“シロ”と名づけたのだろう?

 「シロ……? クロじゃ、なくて?」
 「……シロ」
 「……どうして?」

 この子が他の子供と異なる事くらい分かっていた。
 だってそう、無邪気に遊ぶ姿も見た事ない。
 ただ動物を連れて歩く姿しか、彼女の印象がない。
 根本的に、彼女は子供とは外れている。
 彼女は、揺れ動く蝶を見つめて。


 「まっしろ、だから」


 そう言った。
 黒い蝶が、また揺れる。
 糸に繋がれたそれが、羽を一生懸命動かして。

 「え……?」
 「……」
 「……」

 彼女は歩き出した。
 たまに何かにつまずいて、それでもまた。
 毎日毎日、同じ道を歩いて。
 

 私はぽかんとしたままそこを動けなかったが、
 朝の冷たい風が頬に当たって、ようやくベンチに腰をかけた。
 向こうで、黒い蝶に繋いだ糸を掴んで歩く少女の姿が見える。

 
 「ああ……そういう事か」


 私は少しだけ息を吐く。
 そして彼女に繋がれた黒い蝶の姿を思い出した。

 そう、確かにあれは――――――――――真っ白だった。




 
 後に、町の人から聞いた。
 彼女の飼う動物には全て、シロと名づけられていた事を。






 【あとがき】

 短編っていうか短すぎる。
 久しぶりに参加させて貰いました、瑚雲です。

 皆さんは、意味をお分かり頂けたでしょうか?
 でも少し分かり辛かったかもしれませんね……もっと勉強したいです。

 今回はきちんと投票するつもりです!
 皆さん素敵すぎてなかなか甲乙つけられないのですが……;;←