短すぎる短編。
【彼女のシロい、】
近所に巷で有名な子供がいる。
彼女はいつも何かしら動物を飼っていて、毎日同じ道を散歩していた。
それは犬、猫、兎、亀、鳥……など、何でも散歩させるが好きな女の子。
今日は、一体どんな動物を連れてここへやってくるのだろう。
私は内心期待しながら、公園のベンチに座っていた。
そうして朝方の綺麗な太陽が、昇ってきた頃。
彼女はゆっくりと歩きながら、公園に入ってきた。
(……?)
彼女が連れていたのは、蝶だった。
黒くて小さな蝶の胴に、細い糸が巻きついている。
今にも逃げ出しそうなそれは、ぱたぱたと力なく羽を動かしていた。
私は思わず驚いて、立ち上がった。
「ねぇ……いつも変わった散歩、してるんだね」
「……」
「それ、か……可愛いね」
何を言っても、彼女は反応しそうにない。
仕方がない。私は少しだけ息を吐いた。
「その子……名前なんて言うの?」
少女はやっと、上を見上げる。
彼女は、口を開いた。
「……シロ」
そう、言葉を紡ぐ。
シロ、というのが蝶の名前だと言う。
全体的に真っ黒で、小さく黄色の斑点のある蝶。
それなのに、何故“シロ”と名づけたのだろう?
「シロ……? クロじゃ、なくて?」
「……シロ」
「……どうして?」
この子が他の子供と異なる事くらい分かっていた。
だってそう、無邪気に遊ぶ姿も見た事ない。
ただ動物を連れて歩く姿しか、彼女の印象がない。
根本的に、彼女は子供とは外れている。
彼女は、揺れ動く蝶を見つめて。
「まっしろ、だから」
そう言った。
黒い蝶が、また揺れる。
糸に繋がれたそれが、羽を一生懸命動かして。
「え……?」
「……」
「……」
彼女は歩き出した。
たまに何かにつまずいて、それでもまた。
毎日毎日、同じ道を歩いて。
私はぽかんとしたままそこを動けなかったが、
朝の冷たい風が頬に当たって、ようやくベンチに腰をかけた。
向こうで、黒い蝶に繋いだ糸を掴んで歩く少女の姿が見える。
「ああ……そういう事か」
私は少しだけ息を吐く。
そして彼女に繋がれた黒い蝶の姿を思い出した。
そう、確かにあれは――――――――――真っ白だった。
後に、町の人から聞いた。
彼女の飼う動物には全て、シロと名づけられていた事を。
【あとがき】
短編っていうか短すぎる。
久しぶりに参加させて貰いました、瑚雲です。
皆さんは、意味をお分かり頂けたでしょうか?
でも少し分かり辛かったかもしれませんね……もっと勉強したいです。
今回はきちんと投票するつもりです!
皆さん素敵すぎてなかなか甲乙つけられないのですが……;;←