詳細ヘッダー
『海』
夜明け。
朝日の光をキラキラと反射してゆっくりとうねる海の前に僕は立っていた。波がゆっくりと音を立てながら砂浜にぶつかり、ゆっくりと海の中に戻っていく。
僕は潮水で湿った砂を踏みながら海の中に入っていく。刺すような冷たさが僕の太もも襲い、それが段々と上に昇ってくる。ジーパンが水を吸って重くなっていくのを感じながら、それでも僕は海の中に入っていく。ついに頭まで海の中まで沈んだ。潮水が目を刺激して目を瞑りたくなるけど、それでも目を開いてぼんやりとした自分の足下を見つめる。これが最期に見る景色なのだから、しっかりと見ておきたいと思った。
ずっと好きだった人に振られた。いや、振られたというのは少し違うか。ずっと鬱陶しかった。もう話し掛けないでくれ、とハッキリと言われてしまった。友人はもっといい女見つかるさ、と励ましてくれたけど僕にはそうは思えない。彼女は僕にとってのすべて、と言っても過言じゃなかった。
ああ……。こういう所が重くて鬱陶しいのか。僕は唇を歪めて苦笑する。その隙間から潮水が入り込んできて舌がピリピリするけど我慢。
息が苦しくなってきた。肺が酸素を求めて大暴れし、心臓が早く海から出ろと言わんばかりに大暴れしている。息を吸うために頭を海に出そうとする体を押さえ込め、僕はもっと深いところに沈んでいく。
苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
でも生きている方がもっと苦しい。
ふとした瞬間に思い出す、彼女との会話。何をしていても頭の隅をちらつく彼女の声。関係が完全に断絶した訳ではないから手が届かない訳じゃない、だけど拒絶される苦しみ。
好きだったんだ。本当に。
ある人は恋に恋しているだけだ、と言っていた。だったらさ、何で僕はこんなにも彼女に依存してるんだよ何で離れられないんだよ何でこんなに苦しいんだよ。恋に恋なんかするわけねえだろうが。だって僕は本当に好きだったんだよ。相手にはそれが気持ち悪かったんだろう、好きだとか言う言葉が鬱陶しかったんだろう。ごめんなさい。
もう二度とそんな事は言わないから、友達でもいいから、たまにでいいから、少しでも良いから、昔みたいに僕と話して下さい。お願いします。辛いんです苦しいんです哀しいんです。思い出すと涙が出てきて思い返すと胸がギリギリと締め付けられて気が付くと君のことを考えてて。
毎日君と居られることが本当に楽しかった。忘れられない。お願いだから、僕と前みたいに話して下さい。
好きになれなんて身勝手なことは言わないし、振り返ってくれなんて身の程知らずな事は言わない。だけど、お願いします。
前みたいに、話して下さい。
次第に頭が朦朧としてきて息苦しさが引いてきた。体がフワフワと浮かんでいる感覚。
結局僕は、最初から最後まで独りぼっち。
世界が死んだ。