「白の世界で」
何も見えない。
本来なら、周り一面に何もかもを覆い尽くす白の世界が広がっているはずなのだが。
あいにくの猛吹雪で視界は最悪だ。
天候は入念にチェックした。
今日は吹雪くことはないと確信をもたないと、俺達登山家は山登りはしない。
俺も素人じゃないから、天候の調査なんて基本的なことを欠かすことは……
「ははっ、何を言っても言いわけだな。万全に万全を期したつもりでも、世界は常にそれを一笑する権利を持ってる」
涙が出てくる。
流れた涙は、すぐに外気で凍りついた。
登山家と名乗って10年近く。
制覇した山岳の数は、もう数えるのもためらわれるほどさ。
その俺が偉大なる自然の気紛れに嘲笑されている。
何千と体験し、知識を積んで調子に乗っていたのか。
そんな練達した戦士を神は、自然に唾吐く目障りな野郎とでも見たわけだ。
畜生。
腹が立つぜ。
登れない山なんてないとか、思い込んでいた俺自身に。
家族に“雪山は良いぜ、何せ俗世の詰らない色がない”とか格好つけていた俺を。
そんなこと言ってたせいで、家族を手放した。
それでも登りたい挑戦し続けたい、気概に溢れていた過去は遠くに過ぎて。
今や俺は、つまらない名誉欲に突き動かされ山を登る屑だ。
「畜生。こんなところで1人で死ぬのか俺は? 破れるのか……もう、駄目だ。足に力がはいらねぇ」
俺は横たわった。
さしたる音もなく、倒れ込む。
たとえ盛大に雪に突っ込んだとしても、凄まじい暴風の音で何もかもかき消されただろう。
10分以上前から体の感覚が失われてきて、今は柔らかいパウダースノーの絨毯に倒れこんでて。
横を見れば雪の壁が棺桶みたいだ。
「奇麗だなぁ」
あぁ、もう何もかもどうでも良い。
俺は十分頑張った。
世界に勝った気でいた俺は、結局ただの勘違い野郎だったようだ。
自然様が本気になっていない安全な時に、彼等に喧嘩を売って勝った気になってただけ。
本当は彼等が俺なんてちっぽけな奴を相手にしていないって、全然気付いてなかったわけさ。
「可笑しいな。吹雪いてるはずなのに、何で世界が白く見えるんだ?」
訝しむ俺。
すぐに理解した。
あぁ、これが俺にとっての三途の川か。
最後に山の壮大さ、凄まじさを理解して思い出したわけだ。
俺自身山を神格化していた過去があったってこと。
怪物だと思っていたからこそ、挑み続けた過去があったってことを。
多くの化物達を踏破して、久しく忘れていたあの感覚。
何もかもを忘れて、心も感情も忘却の彼方へ追いやって、ただひたすら登り続けたあの過去。
「うっうおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 負けられねぇ! こんなところで負けてたまるかよ、人間なめんな!」
力を振り絞って立ち上がる。
吹雪の中に、叫び声は消えていく。
だが、俺の挑むという意思は消えない。
どんなに準備をしても、山の移ろいやすい環境はその上を軽々と通過して行くんだ。
今までは運が良かっただけ。
不測の事態に備えた道具や知識が役に立たなかった時は、最後は結局体力と根性の勝負さ。
「行くぞ。足を進めろ」
さぁ、行くぞ。
吹雪き唸る雪山よ。
俺は久しぶりに最高の気分だぜ。
________あとがき
うわぁ、大切な描写根こそぎ必要でも何でもない描写に使ってるよ。
つーか、何で体の感覚とかないのに動けるんだよとか、吹雪いていても白い世とか突っ込みどころ満載(汗
何これ酷い(涙
久々の短編、ここまでひどいと涙が出ますね。