Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.504 )
日時: 2013/12/05 18:47
名前: 狒牙◆nadZQ.XKhM (ID: 9UnBh2B.)

最後かー、これは参加しないとですね。
最初の方は結構頑張ってましたが途中から一個も書かないし投票もしてなくて、ちょっと申し訳ないです。





title:無意味って何ですか?




『んなもん全部無意味なんだよ!』

 テレビの中で、悪役がそのように吠えている。眉間に皺を寄せて、荒々しい声で、横柄な態度で。見ている者に不快感を与えるような、そんな雰囲気を纏っている。
 無意味、そういう言葉がふと耳の中に残った。

「意味が無い、か……」
「どうしたの、急に?」

 私が何の気なしに呟いてみると、お母さんが反応した。台所から、包丁でまな板を叩く音が聞こえてくる。テンポよく刻まれるこの音が、とても気持ち良い。

「いや、ちょっとね……」

 この世に意味の無いことなんてないし、必要ない人間なんていない。どの世界の“良い人”も、必ずそう言う。悪役は決まって、使えないものは必要ないと言う。
 いつもいつも、そうなっている。主人公が誰かを切り捨てようとはしないし、悪役が仲間を大事にしようとはしない。誰かを無駄だと切り捨てるのが、間違ったことだと皆が決めつけている。
 いや、多分それは悪いことで違いないのだと思う。私だって、それは言われたくないし、人に言っちゃいけないと判断している。
 言っちゃいけない、だから必要ない人がいるって言っちゃダメ。そう思うと、正義はいつも頼りない。根拠が無いから。
 悪役はいつも、筋道を立てる。力の無い者がいようといまいと、世界は変わらないって。

「私もきっと、そういう人の一人なんだろうな……」

 秀でているものなんて何一つない、普通の少女。取り得と言えるものはないし、いなくなったからと言って喜ばれるほど、嫌われてない。影響力の無い人材。
 こんな私が生きている意味ってあるんだろうか。

「何馬鹿なこと言ってるのよ。ご飯にするわよ」

 そう言われてテレビの電源を切って台所へと向かった。醜悪なヒールの姿は消えて、食器の擦れる音だけが響く。

「今日はあなたの好きなものばかりよ」

 確かに、今日の晩御飯は私の好物ばかりが机に並んでいた。嬉しいとは思っていたが、考え事をしていた私の反応は小さかったようで、それが気になったお母さんは怪訝そうな顔をした。

「どうしたの? 具合悪い?」
「そうじゃないんだけど……」

 そして私は、さっきからずっと感じていることをお母さんにうち明けた。無意味、っていうことについて。私もそういう人じゃないかって。
 するとお母さんは、ちょっと複雑な表情をした。にこやかに笑って説き伏せるか、叱るのかを逡巡しているようでもある。
 意を決して、お母さんは口を開いた。

「お母さんは、無意味なものなんて無いと思うよ」
「そうなの?」
「うん、そうよ」
「じゃあ、私にはどんな意味があるの?」

 待ってましたと言わんばかりに、お母さんはそこで微笑んだ。

「あなたは私を幸せにしてくれた」
「……それだけ?」
「そうよ。充分じゃない。お金を積んでも満足しない人もいる。それなのにあなたは、ここにいるだけで私を幸せにしてくれる」
「じゃあ、私は、価値があるの?」
「数字じゃ表わせないぐらいのね。そんなものよ、皆。どんな人だって、どんなものだって、たった一人の幸せのためにあるのよ。そして、誰かを幸せにするのは、とても尊い事で、これ以上なく素晴らしい事」

 無価値だなんて、誰が言うことができると思う?
 いたずらっぽく、お母さんは笑った。

「じゃあ、無意味って言葉はどうしてあるの?」
「うーん……」

 しばらくお母さんは考え込んだみたいだけれど、割とすぐに答えは出たみたいだ。私と目があったお母さんの目に、一切の曇りは無かった。

「意味がないものなんてないんだ、って教えるためにあるんじゃないかな?」
「じゃあ、無意味って言葉が無意味なんだ」
「そうじゃないって、今言ったでしょ。ちゃんと教えてくれることがあるじゃない」
「それもそうか」

 お母さんは優しく私を抱きしめたかと思うと、すぐに離した。夕食が冷めてしまうと思ったからだ。

「せっかくあなたの好きなものを作ったのよ。冷めないうちに頂きましょう」
「うん。じゃあ、頂きます!」

 これが、私がまだ小さかった時の、あなたのおばあちゃんとの会話よ。
 そう言う風に、私は自分の娘に向かって回想を締めくくった。

「だから、あなたも私を幸せにしてくれた。それだけであなたは大切な人間なの」
「そうなんだ!」

 昔話が終わると、娘は私の膝から立ち上がった。何か吹っ切れたようにはしゃいでいる。スキップをして、鼻歌を歌って。
 近所迷惑になるから止めなさいと言うと、元気な声が返ってきた。

「今の話、私も自分の子供ができたら言うんだ、絶対に」

 それを聞いた私は、何だか誇らしさでいっぱいになった。
 やっぱり、お母さんの言ったことは間違ってなかった。この世に無意味なものなんてない。この小さな営みを、無意味だなんて言わせるものか。
 あの日のお母さんと同じように、今日の私は娘の好きなもので食卓を埋めた。




                       ―fin―



久々に短編書いたなー、とか思いつつ反省。
このテーマ難しいですね……。
ストーリー的なもの全然思いつかなかった。
そして自分が男だから女言葉ムズイ……。
ていうか喋り方気持ち悪くないかな。

最後に記念に参加できただけで満足です。
多分投票もさせていただきます。