【無の中の夢を】
「あーァ、何も無くなっちゃったよ。」
僕は笑っていました。
ーーー
真っ白い部屋。横には空間を仕切る青いカーテン。
病室です。僕は入院患者です。
妻にずっと「食後のスナック菓子はやめて」と言われ続けたのにもかかわらず、自分の意志を通し続けた結果です。かるい心筋梗塞でした。中々家に帰ることは出来なさそうです。
妻は僕が入院してから一度も病院に来ていません。高校生と中学生の子も来ません。別に来るなんて思っていませんが。
「お爺ちゃん、早く元気になってねえッ!」
「わかった、わかった。」
カーテン越しに何か声が聞こえてきます。確かにお隣はお爺ちゃんでした。
それからは、ちょこちょこ娘さんらしき人の声も聞こえます。家族皆でお見舞いに来てくれたのでしょうか。
何も無い僕には、羨ましくて仕方がありませんでした。
ーー
翌日、まだ空は藍色でしたが、目が覚めました。毎日5時に起きていたからでしょう。入院しているときくらいもっと朝寝してもいいのにとか思いつつも、起きてしまいました。
僕は考えていました。
(美晴さん、毎日おいしいご飯を作ってくれたのに、食後に菓子を食べて、済みませんでした。)
(美乃、高校はしっかりと通えているか。父さんに似て、飽きっぽいから心配だよ。)
(美咲、部活は頑張っているか。美咲は勉強もできるし、母さんに似たな。)
そして、僕は日が昇ったころには寝ていました。いつのまにか寝ていたわけではありません、意図的に眠りました。
それからはずっと寝ていました。ただただ、眠っていました。
ー
検査なんかも終わり、また夕方。1日が早いような短い様な、とても不思議な気持ちです。
ガタリという、音がしました。誰かが来たのでしょう。また、お爺ちゃんの所でした。
「お爺ちゃん、お爺ちゃん、もうお月様が出ているよ。」
僕のベッドの前を通って窓の方へ、お爺ちゃんのお孫さんは行きました。
その隣にはお爺ちゃん、そして多分お孫さんのお母さんがいるようです。
「ねえねえ、お月様って可哀想。」
いきなり、彼女は言いました。僕は少し気になって彼女の声を聴いてみました。
「だってさあ、お友達がいないんだよお。空ってあんな広いのに。かわいそう。」
子供には子供にしか感じない事、感じることが出来ないことがあるのでしょう。僕は興味深く思いました。
確かに言われてみればそうですね。あんな異空間とも思われるような空に、一人ぼっち。特に星が出てない夜なんて……。あんな偉大な存在なのに、今の僕と同じだなんて。
「ううん、そんなことはないんだよ。」
「え?」
お爺ちゃんはゆっくりと語りだしました。
「もっともーっと遠いんだけど、いっぱい友達はいるの。いま私たちが住んでいる“地球”もお友達の一人だよ。遠くでも、お友達だから寂しくないんだよ。」
僕は少しカーテンをめくり見ていました。すべてを知っている様な、美しい眼をしていました。
ーー
また、いつもの様に日が昇りました。
すると、お爺ちゃんがカーテンをめくり、こちらを覗いてきました。ちいさく、お早う御座います。と呟きました。
「昨日の話を聞いてただろう。」
お爺ちゃんは優しく微笑みました。
「あ、は、はい。」
「君の嘆きを何度か聞いたよ。」
「え!?」
そういえば、ぶつぶつ独り言を言うのは昔からの癖です。こんなところでも言っていたのか、恥ずかしい・
「あれは君へのメッセージでもあるんだよ。」
僕は彼の瞳に飲み込まれていました。
「長生きしなさい。仲間は沢山いるよ。」
そう、彼は微笑んだのでした。
【End】
うはあ、意味不明ですね。有難うございました。
投票にも参りたいと思っております。