こんばんは。
そろそろ掌編の続き(というか最後ですが)を上げなきゃなぁと思いつつ、またまた本の紹介をしたいと思います。
○読書紹介
『日輪の遺産』浅田次郎
浅田次郎氏は僕が一番好んで読む作家さんで、その『綺麗な日本語』が魅力の作品群はどれもお勧めです。おそらく、これからも既読を含めてどんどん紹介させてもらうと思いますが……
今回は浅田作品でも初期にあたる『日輪の遺産』。講談社から文庫化されているので容易に手に入ります。
終戦まぎわ、帝国陸軍が『国』(帝国軍ではなく)の再起を期した財宝を占領軍に察知されぬよう秘匿した。その財宝にまつわる人々の生死を描いた長編です。あの戦争とはなんだったのか、世界を敵にして戦った日本人とは何か。そんな重厚なテーマが軍人や国民、施政者など様々な視点から描かれている力作だと思います。
これだけ書くと宝探しモノのミステリーのようですが、その要素はほとんどありません。そこまで劇的な展開がある訳でもない、あくまで純文学のようなスタイルで物語は進みます。ですが、実際には戦争を知らない僕たちの世代からすると、その内容は充分に衝撃で、出処の判らない感動を覚えました。日本人であるという事に誇りを感じる一方、その事が少し怖くなるような不思議な感覚でした。
テーマは重く、文体は古風です。
ですが、もしもありふれた恋愛小説やミステリー、現実ばなれした戦争モノに飽きたなら、是非にでも読む事をお勧めします。浅田次郎作品の多くに言える事ですが、その少し難解な内容をゆっくりと読み進めて、噛むようにして理解した先に奇妙とも思える感慨が待っている事と思います。